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2019年09月22日12:28

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キチガイにしか出来ない事がある「プライベート・ウォー」



世の中、知らない事ばかりです。
自分なんかは、好きな事については熱心に調べますが、それ以外の興味の無い一般常識については、相当知識に乏しいです。
でも、一般庶民の多くが大抵そんなものではないかと思います。

毎日仕事や勉強に忙しく、余暇には当然好きな事をしたい。
意識せずに入ってくる情報というのは、食事の際に視るニュース番組とか、ヤフー等のネットニュースの見出しくらい。
興味があればちゃんと視たり全文を読んだりしますが、大抵はそこまでしないでしょう。
そのくせ、見出しの印象だけで批判コメントを書いたりする人はいますが・・・。

映画を趣味にして良かったと思う事は、楽しむついでに様々な人の人生や思想について知ることが出来る点です。
「様々な」というところが重要で、ある思想に沿ったものばかりを観たり読んだりする事は、考えが固定化していくだけなのでむしろ危険です。
単純に面白そう、怖そう、ヤバそう、という理由だけで色々と観るから、結果的に違った生き方や考え方を知る事が可能なのです。
何か勉強しようと思わずに、ただ楽しもうと思って色々と観る方が、長い目で見ればずっと有益なのでは、と思います。

今回観た「プライベート・ウォー」の主役、戦場記者メリー・コルヴィンについても、僕はまったく知りませんでした。
実際にいた、破天荒で命知らずの女性記者の映画、というのが面白そうだっただけなのです。
この印象はまったく間違いではありませんでした。
破天荒で命知らず。
映画を観終わった後でも、この人物を説明するのにはこれが最適だと思います。

しかし、映画自体は決して、痛快で豪快な点を強調したものではありませんでした。
そういうシーンもありつつ、彼女の精神的な苦しみや混乱を重視し、もがき苦しむ様を活躍以上に描きます。
フラッシュバックで過去のシーンの断片が何度も登場したり、今どこでどういう状態でいるのかが分からなくさせる演出が多用され、観ている方も何度も困惑させられます。

そして、彼女の最終地点、つまり「死」を冒頭で暗示させ、そこへ向かってカウントダウンする様に映画が進んでいくため、こちらには楽しい気分はほとんど与えられません。
主人公と共に死へ向かって徐々に落下していく気分になるのです。
いよいよ最後の戦場となるシーンでは、恐ろしいまでの緊迫感を生んでいます。

また、彼女を単純なヒーローとして描く事も避けています。
もちろん、戦争という地獄で生きる庶民の、無慈悲で凄惨な現場を世界に向けて発信する、という遂行な使命に命を捧げた事は偉大です。
しかし、同時に彼女はあきらかに狂気に侵され、死へ向かう精神状態だった事も強調しています。

これは、彼女の行為が素晴らしいと賞賛すれば、それを真似た戦場記者(それ以外でも危険を冒す業務に携わる人)の命を脅かす結果になる事を考慮したのだと思います。
娯楽映画では見せ場を作るだけの理由で登場人物が安易に玉砕しますが、現実では死んだら「ただのしかばね」。
もう何も残せず、伝えられず、救えず、ただ腐敗していくだけなのです。

豪快な人物の破天荒な活躍を楽しみにしていた人は、まるでお通夜に出席した様な気分になります。
監督はこれまでドキュメンタリーを撮っていた人であることから、安易な娯楽映画にだけはしたくなかったのでしょう。
この映画を観終わると、主人公の人生よりも今もなお行われている戦争と、そこで毎日死んでいく罪の無い子供ばかりが記憶に残るのです。
これも、きっとメリー・コルヴィンが生きていれば自分の武勇伝よりも世界の悲惨極まる現状こそを伝える事を希望しただろう、と監督が考えたからではないでしょうか。
個人的にはこのスタイルはとても理解出来ましたし、映画としても純粋に楽しめました。

ただ、純粋に娯楽作品として楽しめる作品にしないと、結局わずかな人にしか観てもらえないのです。
日本では残念ながら、公開館数はまだ非常に少ないようです。
面白い映画にしてたくさんの人に観てもらえれば、彼女の伝えたかった戦場の現実も伝えられます。
そうした方が良かったのでは?という意見も分かります。
しかし、そのためには演出によって事実を幾分歪めてしまいかねない・・・。
この辺のバランスは難しいところだと思います。

彼女は間違いなくキチガイでした。
正常な感覚を失い、脅迫的な使命感に囚われ、まるで酒や煙草で苦しみを誤魔化す様に過酷な戦場に行って生死の狭間を彷徨う。
一種の病気であったと思います。
彼女はそうとしか生きられなかっただけなのでしょう。
それが、結果的には誰にも出来ない偉業となり、世界に真実の一端を見せ、多くの人の意識を変化させました。
世の中、ある一定のキチガイの存在は、確実に必要なのです。

最後に我が国の現状について。
みなさんご存知の通り、もはやマスコミは完全にまともな機能を果たしていません。
権力と金に寄り添う事を既に隠そうともせず、どれだけ攻撃しても反撃されないものだけをさらし者、笑い者にして、鬱屈とした庶民の低俗な娯楽提供とする。
目先のささやかな安泰と報酬を最優先するという、マトモな人ばかりなのでしょう。
キチガイはいなくなってしまい、国は滑らかに軽快に、墜落をしています。

まともで冷静で配慮有る人間の、驚くほどの無力さ(自分を含めて)を実感し、愕然とする毎日です。

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