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2019年09月14日10:36

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もう何も起きないでくれ!「よこがお」



深田晃司監督の前作「淵に立つ」には戦慄しました。
途中のある展開には開いた口が塞がらないというか、観客に対してこんな重いパンチを平気で繰り出すこの監督は、はっきり言ってどうかしています。
そこだけでも恐ろしいのに、その後グングン異常で怪奇な展開となっていき、知らない土地で突然車から放り出されたかの様な、困ってしまうラスト。
あと、浅野忠信がこんなに怖い映画は「淵に立つ」だけです。

本当に一見の価値ありなのは間違い無いのですが、今のささやかな幸せで十分、という方にはこんなもの、絶対オススメしません。
激辛ペヤングの様な刺激を映画に求める人にだけ、こっそり路地裏で教えたくなる映画でした。

この「よこがお」は、予告を観た限りではそこまで異常な映画には感じません。
現代日本にある、マスコミやSNSでの問題を取り上げた、ごく普通の社会派映画の様です。
実際、途中まではそんな感じでした。

主人公の女性は、訪問看護師としてお年寄りの面倒をみる良い人。
子持ちの男性との結婚を目前にし、堅実に生きています。
こんな映画に出なければ、幸せに暮らしていたと思いますが、監督の手により地獄に突き落とされます。
この人自体は何も悪い事をしていないのに、身内が起こした事件に巻き込まれ、逆恨みされた人間からの悪意からとんでもない濡れ衣を着せられ、醜悪なマスコミ共に追われる事になります。

上記は予告でなんとなく分かる内容です。
ここに至るまで結構長いのですが、ここからはもう本当に胃の痛くなる様な事態しか起きません。
まるで蜘蛛の糸に絡め取られ、身動きが取れなくなっていく様で、息苦しくなります。

実際にこんな風になるか?と感じる人もいるでしょう。
ラース・フォン・トリアー監督の映画みたいな、監督の悪意が透けて見える、作為的でリアリティの無い展開ではないか?と。
でも、こういう事はあるのです。
ここまで規模の大きくない、日常のささいなレベルであれば、悪気は無いのに誤解され、それに抵抗しても、あるいは仕方なく認めてしまっても、結局自分に損にしかならなかった事は、誰にでもあるのではないでしょうか。
真実というものがとても脆弱で、いとも簡単に曲げられてしまうものだという事は、色々と実感する事が多いこの頃ではないでしょうか。

そんな事を考えて観ていると、この映画はそんなものでは無かったという事を思い知ることになります。
まるで新築のマイホームを一気にブルドーザーで更地にされていく様な、何もかもを失う無残な主人公の姿。
通常は多少の救いを見せたり、監督の「こんなことがあってはならない!」というメッセージを叩きつけたりして映画は終わるのですが、この映画、この後もまだ延々と続きます。

この先、確実にもうロクな事が起きない不穏な雰囲気のみが蔓延する中、まったく先が見えないこの映画の恐ろしい事といったら!
「運転手さん!もう目的地を過ぎてますよ!」とタクシーの運転手に声をかけたら、まったく知らない言語で歌を歌いながらアクセルを更に踏みしめた、そんな感覚です。
何かが起きれば、それは目を覆う惨事のみ。
もう何も起きないでくれ!
早く映画が終わってくれ!
そんな気持ちでスクリーンを見守るばかりでした。

この終盤の緊張感は半端無かったです。
本当に怖かった。
前作同様、奇奇怪怪、本当に異様な映画でした。

学校、職場、家庭、SNS等に蔓延する圧力や嫉妬や悪意。
その影響で心の中で何かが風船の様に膨張していき、今すぐにでも破裂しそう。
そんな気持ちを捻じ伏せて、日々を送る人も少なくないのでしょう。

それがある日、ささいな事で突然爆発し、大きな事件となる。
そこではやはり、何の関係も無い人が巻き添えを食い、そこにまた不穏な種が宿される。
そして連鎖は続いていく・・・。
この世が恐ろしいものである事を、改めて思い出させてくれる、本当に困った映画でした。

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