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2019年07月24日07:16

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ペスト

オススメ570。"僕は、災害を限定するように、あらゆる場合に犠牲者の側に立つことにきめたのだ。彼らの中にいれば、僕はともかく探し求めることはできるわけだーどうすれば第三の範疇に、つまり心の平和に到達できるかということをね"1947年発刊の本書は、不条理に直面し蝕まれていく人間性を群像劇的に描き共感を呼ぶ。

個人的には著者の本はレジスタンス活動の際に書き上げたとされる『異邦人』しか読んでいなかった事から、この著者の世界的名声を決定づけた、同じく代表作である本書は未読であった事から今回手にとりました。

さて、本書はメルヴィルの『白鯨』に感動した著者が【過ぎ去ったばかり】のナチス闘争の体験を架空の大都市におけるペスト【悪】の発生、それに抗う市民たちの記録として淡々と洗練した筆致で寓意的に描きこんでいるわけですが。

近年、東日本大震災他数々の災害に見舞われている島国に住み、また何度かの被災地でのボランティア経験を持つ自分と私的に重ね合わせては【行政の対応の遅さ、孤立状態での対応】に架空とは思えない迫真さにリアリティを感じ、それぞれ神、社会、人間の【正義】を振りかざし、立場的に【合意は出来ずも理解し合おうとする】登場人物達に実際の身近な人物を当てはめてイメージしながら(漫画『進撃の巨人』でも良いかも)最後まで圧倒的に没入して読み終えました。

また。最後に明かされる物語の語り手が、不条理な脅威に圧倒的に敗北し続けて、数多くの犠牲者が出たにも関わらず【黙して語らず】ではなく、あえて人間の中には【軽蔑すべきことより賛美すべきものが多い】と希望を込めた記録として残したとする本書の幕引きも読後感として清々しくて素晴らしい。安っぽいセンセーショナルさ。華々しくヒーローが活躍するような描き方をしていない事で【読み手それぞれが共感を持てる】普遍性も含めて時代を超える名著だと実感しました。

様々な立場で防災や減災に取り組む、または関心のある誰かへ。また洗練された群像劇作品を探す誰かにもオススメ。
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