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2019年05月17日05:46

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ナマズ(0167 DAIMLER SP250 "DART")

1959年4月1日、ニューヨーク自動車ショー。一角に展示されていたクルマを見た来場者は「何じゃコリャ?エイプリルフールのジョークか!」と思ったそうです。主催者が公式に「最もブサイク」と定めたこの不名誉なクルマは、イギリスの老舗ディムラーが大西洋の向こうから持ってきた"DART(ダート)"というスポーツカーでした。"DIRT"と勘違いしそう(笑)ですが、辞書をひいてみると"DART"には「俊敏」という意味があるのですね。まれに「カタツムリ」という意味で使われることもあるようですけど(どういうこっちゃ?)。
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正式にはディムラーSP250という名称を持つ、V8エンジン搭載の先進的なスポーツカーだったのですが、そのナマズのような顔付きは…個性的というレベルを超えて…
ディムラーは1900年にイギリス王室御用達になった超のつく名門なんですけどね。

このクルマの何が先進的かと言うと、ボディの素材にFRPが使われていたことです。スチールのシャシー・フレームにFRP製の外皮を被せた構造のこのクルマの販売開始は1959年(1964年まで)ですから、かなり早いと言っていいでしょう(既に戦前にはそうしたクルマはあったようですが)。
もっともFRPのモノコック・ボディ(シャシーも含めた一体成形)は本稿0008で書いた日本のフジ・キャビンが世界初(1955年)ですけどね。これはチョー先進的でした。

バイクのデザインで名を知られていたEdward Turner(エドワード・ターナー)は、1956年にイギリスの大手バイクメーカーBSA(340万ポンドでジャガーに売却される1960年までディムラーの親会社でした)にV8エンジンとそれを搭載したクルマの設計を依頼されますが、その結果がSP250"DART"だったんです。

独特の振動があって前後長が短いV8はヨーロッパでは敬遠されがち(高級車には長い直列6ないし8気筒エンジンが好まれました)でしたが、アメリカでは全く抵抗なく受け入れられ(むしろ歓迎すらされ)、売れる台数も桁違いでした。
このV8エンジンは、ボア76×ストローク70mmの水冷OHV2547ccで、「ヘミ」と呼ばれる半球状燃焼室を持つアルミニウム合金製のシリンダーヘッドを載せて140馬力を発生し、ホイールベース2337mm・全長4191mmの車体(FRPボディのおかげて車重は940kgに過ぎません)を200km/h弱で走らせました。ギヤボックスは4速マニュアルが標準でしたが、アメリカ向けらしく3速オートマティックも選べました。

ところで、今回は"DAIMLER"を「ディムラー」と読みましたが、これはイギリス車である同車をイギリス人は「ディムラー」と発音しているように聞こえるからです。
しかし、"DAIMLER "は元を正せばガソリンエンジンを搭載した4輪自動車を世界で初めて(1885年)作ったドイツ人
Gottlieb Wilhelm Daimler(ゴットリーブ・ウィルヘルム・ダイムラー)の名字です。
イギリスの"DAIMLER"はこのエンジンを生産販売する目的でFrederick Richard Simms(フレデリック・リチャード・シムズ)が1893年に設立したDaimler Motor Syndicate(ディムラー・モーター・シンジケート)です。
同じ年にベンツが作ったのは3輪車(本稿0094参照)で、どちらもガソリンエンジン車の祖という栄誉を授かっていますね。当然です。
ですので、世界初の4輪ガソリン車"DAIMLER "はドイツ語発音の「ダイムラー」、英国王室御用達の"DAIMLER "は「ディムラー」と表記しています。

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