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2019年03月05日17:11

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『双子の喧嘩』

 『聖闘士星矢』の二次創作小説です。
 聖戦後復活設定。ロスサガでラダカノ前提だけど、サガとカノンがいちゃいちゃして、レベルの低い喧嘩をして、またいちゃいちゃする話。
 海界の中心都市ポセイドニアについては『ポセイドニア・コモーディア』https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=3455689あたりを参照。
 カノンのオリジナル設定の部下たちについては『ハルモニアの首飾り』第8話https://www.pixiv.net/novel/series/364665『絆』https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=4442159『ボスポラスの夕べ』https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=3390443『オレステイア』https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=5881351あたりを参照。

 
『双子の喧嘩』

 双子座の黄金聖闘士であり聖域の教皇アイオロスの首席補佐官を務めるサガは、双子座の称号を保持しつつも海将軍筆頭・海龍を兼任している弟のカノンを訪ねて、時々、海界の中心都市ポセイドニアの彼の元首公邸に足を運ぶことがある。そんな時は、兄弟は仲良く演劇を見に行ったり、舟遊びをしたり、郊外で狩猟をしたりして一緒の時間を楽しみ、そして夜はサガはカノンの公邸で夕食を共にして一泊して帰るのが普通だった。
 そしてその前夜も、サガはカノンのもとに泊まっていた。
 早朝、目を覚ましたカノンは、同じベッドで隣に寝ている兄のサガの寝顔に微笑み、そして頬にキスした。
「おはよう、サガ」
「う…ん」
 サガは半ば寝ぼけて薄目を開けながら、こう答えた。
「おはよう、アイオロス」
 その途端、カノンの寝室で怒りの小宇宙が爆発した。
 「カノンの警護のため宿直する」という名目で、元首公邸に泊まり込んでカードに興じていた彼の部下たち、「海獅子」(シーリオン)のテオドール、「魚人馬」(イクチオケンタウロス)のディック、「海蛇」(シーサーペント)のウィル、「水馬」(ケルピー)のクリストファーの四名は、その気配と破壊音に驚き、慌てて上司の寝室に駆け込んだ。
「シードラゴン様!」
「何が起きました!?ご無事ですか、シードラゴン様!?」
 寝室に駆け込んだ部下たちが見たのは、ベッドの脇で仁王像のように怒りをあらわにして立っているカノンだった。
「どうしました、シードラゴン様?」
「聞いてくれ!」
 部下たちに向かって、カノンが訴える。
「昨日、サガが泊まっただろ!?だから一緒に寝たんだ!」
 「二十八にもなって兄と一緒に寝るなよ」と部下たちは内心で突っ込んだ。
「そしておれは、今朝、サガにおはようのチューをした!」
 「いい年して兄に『おはようのチュー』とかするなよ」と部下たちは再び内心で突っ込んだ。
「そしたら、サガの奴…よりによっておれをアイオロスと間違えやがったーっ!」
 カノンが絶叫する。
「この世に二人といない可愛い弟を、あの脳筋人馬と間違えるとは、どういう了見だーっ!」
 弟が兄に食って掛かる。
「し…仕方ないではないか!いつも隣に寝ているのはアイオロスなのだ。間違えても…」
 サガの弁解は、カノンの怒りの炎に油を注ぐようなものだった。そもそもカノンは、アイオロスがサガの恋人であることも、サガと一緒に寝ていることも、気に食わないのである。
「おれをあいつと間違えるなんて、お前の心には弟への愛はないのかーっ!?」
「そんなわけはないだろう!?」
「だったらそれを証明しろよ!」
 やいやいと弟に責められ、とうとうサガも切れて、ある事実を暴露した。
「お前だって、寝言でラダマンティスの名を呼んでいる時があるではないか!私が側で寝ているのに!」
 その暴露に、カノンは顔を真っ赤にさせた。
 この自分が、寝言で恋人のラダマンティスを呼んでいる!?
「お、おおお、おれがあいつの名前を寝言で言うなんて、あるわけないだろ!」
 途端に動揺したカノンの声が震えた。
「何度もあった!その度に、何度お前を叩き起こそうと思ったことか…!」
「嘘だ!」
「嘘じゃない!あの眉毛と間違えて私に抱き着いてきたこともあったんだぞ!あの時に蹴っ飛ばしてやればよかった!」
「そんなこと、してない!」
「した!」
 言い争う兄弟を前に、部下たちは脱力気味にささやいた。
「なあ、これは兄弟喧嘩なのか?痴話喧嘩なのか?」
「さあ…」
「つーか、痴話喧嘩だったら、どっちが本命でどっちが浮気だよ」
 双子たちの口論はさらに続いていた。
「サガのアホんだらーっ!ウンコたれーっ!お前の母ちゃん、でーべーそーっ!」
 罵倒の語彙のレベルが小学生男子並みである。そしてもちろん、サガに即座に、
「私の母はお前の母だろーが!」
 とツッコミを食らい、カノンはサガに両頬をつねられて思い切り左右に引っ張られた。
「なんでうちの筆頭は時々あんなに馬鹿なんだ…?」
 ディックが呆れたように言う。
「時々か?常時、馬鹿じゃね?」
 テオドールが容赦なく上司を酷評する。
「なんであんなのが海将軍筆頭なんすかねー?」
 ウィルが自問すれば、
「知らん。選んだのはポセイドン様なんだから、ポセイドン様に聞いてくれ」
 クリストファーが言う。
「やっぱ顔じゃね、顔。ポセイドン様がああいう顔が好みなんだよ、きっと。神話でも美少年趣味だしさー」
 テオドールはそう答えたが、言った本人も本気でもなければ、真面目に言っているわけでもない。
「ああ〜。サガ様が泊まった後はシードラゴン様、めっちゃご機嫌で、仕事がすごくやりやすかったんだけどなぁ。今回は何でこんな面倒なことになってるんだよ…」
 クリスストファーがため息をつく。
「でもこれが、聖闘士最強の男と、海闘士最強の男の戦いなんだよな…」
 その事実に、カノンの部下たちはがっくりと脱力した。
 そんな彼らをよそに双子の喧嘩はヒートアップし続け、とうとう
「ああ、もういいよ!サガの分からずや!絶交だーっ!」
 と、カノンは叫び、サガも
「カノンの馬鹿ーっ!もう知らない!」
 そう言って寝室を飛び出してしまった。
 そしてカノンは怒ったまま、ベッドの上に座り込んだ。
 秘書官を務めるクリストファーが、ため息交じりに上司に声をかける。
「えーと、シードラゴン様…、そろそろ支度をしませんか?今日は元老院会議が…」
 だがカノンは部下の勧めに怒鳴り返した。
「馬鹿野郎!こんな気分で元老院のクソジジイどもの相手なんか出来るかーっ!今日は欠席だ、欠席!」
 ふん、と鼻息を荒くしてベッドの上から一歩も動かない上司の姿に、クリストファーの顔はサーッと青ざめた。
「い、いやいやいや、シードラゴン様!今日はポセイドニアに来ているセレウキア公が元老院で記念演説をするんですよ!その答礼演説の予定もシードラゴン様にあるのに…。欠席とか、無理ですって!」
 ポセイドニア共和国の西方にある大国・セレウキア公国は、ポセイドニアにとって重要な同盟国である。国主のセレウキア公アンティパトロスは「シードラゴンのような跡継ぎ息子が欲しかった」と公言するほどカノンびいきで有名だが、いくら彼でも「シードラゴン様は兄と喧嘩して不機嫌なので、あなたの記念演説をブッチしました」などと聞かされれば、気分を害するだろう。ポセイドニアとセレウキアの友好にひびが入る。
 だがへそを曲げたカノンは頑固だった。
「知るか!おれは元老院なんかには出ないからな!ぜーったい、出るもんか!」
 兄弟喧嘩がポセイドニアの政治問題に発展しかける気配に、クリストファーは泡を食った。
「そう言わないで!演説の時だけでいいですから!」
「出ないったら、出ない!」
「シードラゴン様、そう言わず!」
「うるさい!お前たちも出ていけー!」
 ヒステリーを起こした上司に部屋を追い出され、クリストファーは自分の金髪をかき回した。
「ああ、もう!聖域に出向しているローレがいないと、すぐこれだ!すぐさぼるんだから、あの人は、もう!」
「大変だなぁ、クリストファー」
「まあ、頑張れ」
 政治に関わらない戦闘部隊である他のカノンの部下たちから、お気楽な同情の声をかけられたクリストファーは、彼らをきっと睨んだ後、ある場所に向かった。
 
 大理石で囲われた室内の泉の前で、サガは立ちすくんでいた。
 いつもは元首公邸内にあるこの泉を聖域の泉と水脈でつなぐ術をかけ、サガは聖域と海界を行き来している。だがサガには水脈の術は使えないし、いつもなら術をかけてくれるカノンとは喧嘩中で頼むわけにはいかない。水脈の術を頼む適当なニンフも側にいない。
 というわけで、サガは聖域に帰るに帰れず、泉の前で立ちすくんでいたのだった。
「サガ様ーっ!」
 そこにクリストファーが走ってきた。
「お願いです、サガ様!シードラゴン様をなだめて、元老院に出席するように言ってください!」
 足に取りすがらんばかりのカノンの部下の嘆願にも、サガは不機嫌そうにぷいっと顔を背けた。
「知らん!あんな馬鹿…勝手にすればいい」
「そう言わず、お願いしますよ!このままだとポセイドニアとセレウキアの友好が…」
「私の知ったことではない」
「サガ様ぁ〜」
「うるさい!それより、聖域に帰るからさっさと水脈をつないでくれ」
「シードラゴン様をなだめてくださったら、水脈をおつなぎしますから」
「なら、別の者に頼む」
 クリストファーは必死にサガを拝み倒した。
「お願いですよ。シードラゴン様の機嫌を直してくださったら、ポセイドニアのオリハルコンを聖域に一年間、無償提供しますから〜」
「……」
 サガは考えた。
 聖衣の原材料でもある神秘の金属オリハルコンを作る方法は、サガも知らない。シオンやムウといった聖衣の修復師たちが超古代から受け継いだ錬金術で精製するらしい、ということくらいだ。海界でもオリハルコンはポセイドイア共和国の専売品で、作成法を盗もうとして闇に消されたスパイが歴史上に何人もいるらしい。それくらいオリハルコンは希少であり、重要で、高価だ。もしそれがポセイドニアから提供されれば、その分、ムウは作成の手間が省けて助かるだろう。ジャミールで聖衣の修復と研究に余念がない前教皇のシオンも喜ぶに違いない。ムウへの貸しも作れる。
 サガは頭の中で素早く損得勘定のそろばんをはじいた。そして結局、サガはクリストファーの依頼を受けることにしたのだった。

 サガがカノンの寝室を再訪すると、弟はまだぷりぷり怒ったまま、ベッドの上に座り込んでいた。
「カノン」
「なんだよ!おれはもうお前とは絶交したぞ!」
 完全にすねたカノンが兄から顔を背ける。
「ああ、その、カノン…。私が悪かった」
「……」
 サガは弟の隣に座って、猫なで声でカノンをなだめにかかった。
「世界に一人しかいない弟を他の誰かと間違えるなど、私が冷たすぎたな。もうあんな真似は二度としないから、機嫌を直してくれ」
「……」
 カノンはぶすっと不貞腐れたまま、サガに問うた。
「おれとアイオロスと、どっちが大事だ?」
 すねた女が言うようなお決まりの台詞に、サガは明るい笑みを見せて断言した。
「もちろん、お前に決まっているとも。お前がこの世で一番大事だ!」
 サガは「オリハルコンの件でムウに貸しを作る」ために、平然と嘘八百を並べた。まあ、嘘八百ではあるが、「アイオロスとカノンが同じくらい大事」程度には、真実ではある。
「なあ、今日はお前はポセイドニアの元老院で演説をするのだろう?その姿を私に見せてくれないのか?」
 兄の言葉に、うろんげにカノンはサガに聞いた。
「…そんなものを見たいのか?」
「見たいとも!たった一人の弟が海界のお偉方を前に演説をする!きっと、さぞかし格好良いのだろうな!それはそれは颯爽として、威厳のある見事な指導者ぶりなのだろうな!堂々としているのだろうな!素敵なのだろうな!」
「ふ…ふん、そんな大したものじゃ…」
 と言いつつ、兄に持ち上げられたカノンの顔はにやけ始めていた。
 部下たちがすかさずフォローして、カノンをおだてにかかる。
「そうですよ!シードラゴン様、こういう席ではすげー格好いいんですよ!」
 普段はこんなですけど…という台詞は喉の奥に飲み込む。
「ポセイドニアの元首の衣装も、豪華ですしね。真紅の長衣に金糸の縫い取りがされてて。その上にまた黄金の首飾りとか、勲章とか、とにかく、すごくゴージャスなんです!」
「すげー良い男ぶりですよ!歴代のポセイドニア元首で一番の美男って言われてるんですから!」
「サガ様も絶対に惚れ直しますよ!」
「見てみたい♪シードラゴン様のちょっと格好いいところ、見てみたい♪」
「そ、そこまで言われるほどでもないが…」
 と言いつつ、部下たちにはやしたてられたカノンの機嫌は上昇する一方なのが、緩んだ表情からはうかがえた。
 サガが止めに甘えた声で弟にしなだれかかる。
「なあ、カノン、今日の元老院はぜひ私に見学させてくれ。お前の立派な姿をこの目で見たいのだ」
「そんなに見たいのか?」
「見たい」
「ま、まあ、お前がそこまで言うなら…」
 照れたように笑ったカノンは、ベッドの上で仁王立ちになって胸を張った。
「元老院会議は非公開が通例だが、今日はお前に特別に見学させてやろうではないか、サガ!おれの演説を聞いていくがいい!」
「ありがとう、カノン。すごく楽しみだ!」
 パチパチパチ、とサガが手を打って弟をはやしたてる。カノンの部下たちも追随して拍手した。
 同時に、サガは密かにクリストファーに親指を上げた拳を握って見せ、「オリハルコンの一年間無償提供の件をよろしく」と合図した。クリストファーも無言でサガに親指を上げて見せて、両者の取引は成立した。
「じゃあ、準備をするか。その前に、朝飯だな」
「一緒に食べような、カノン」
「おお。とりあえず顔を洗って、着替えをして…」
 機嫌を直して仕事をする気になったカノンは、従者たちを呼んで身支度をさせた。
 そしてカノンの部下たちは、上司の兄馬鹿っぷりに深いため息をついて脱力しながらも、ポセイドニア政治の混乱を防いだことに安堵したのだった。

 こうしてサガは、その日はポセイドニアの元老院会議を傍聴して、弟の「格好いい姿」を見物することになった。そのとばっちりを食って、サガの恋人である教皇アイオロス様は「サガ…今日は帰ってくるのが遅いな…」と待ちぼうけを食う羽目になったのだが、それはカノンの知ったことではない。

<FIN>

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