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2019年01月26日23:58

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辻彩奈|バッハの無伴奏全曲演奏会

ヴァイオリニストにとって、バッハの無伴奏ヴァイオリンのためのソナタ&パルティータ全曲の演奏会を開くこと、それは最高峰の難易度であるし、音楽家としての全てをさらけ出す勇気がいることだと思います。バッハの無伴奏全曲の演奏は、それなりの経験を積んだ実力派音楽家が行うものだと認識していたからです。それを今、売出し中の21歳の辻彩奈がチャレンジすることを知り、心底驚きました。これは私が音楽を聴いてきた経験の中で、画期的なものになりそうな予感があり、わざわざ上京して聴いてきました。

私がバッハの無伴奏ヴァイオリンのためのソナタ&パルティータ全曲の演奏会を聴くのは2度目です。最初は2013年11月に彩の国さいたま芸術劇場で聴いたイザベル・ファウストの演奏。当時のファウストは世界的な音楽家に数えられる大家です。繊細かつ堂々とした演奏でした。私は彼女の弓が、どこかへ航海するための方向を指し示すかのような強いベクトルのようなものを感じました。
2部構成で、各部とも2番のソナタとパルティータが最後に置かれているというのがポイントだったと思います。2番ソナタの2曲めのフーガ、2番パルティータの5曲目シャコンヌが、演目全体の中における高い峰だからです。ファウストは1部、2部ともに最後にその高い峰へ登頂するという設計をしていました。

イザベル・ファウストの無伴奏ヴァイオリン演奏会のプログラム
【第1部】
♪無伴奏ヴァイオリンのためのソナタ第1番 ト短調 BWV 1001
♪無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第1番 ロ短調 BWV 1002
♪無伴奏ヴァイオリンのためのソナタ第2番 イ短調 BWV 1003
【第2部】
♪無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第3番 ホ長調 BWV 1006
♪無伴奏ヴァイオリンのためのソナタ第3番 ハ長調 BWV 1005
♪無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第2番 ニ短調 BWV 1004

一方で、昨夜の辻彩奈のプロブラムは以下のような3部構成でした。18時開演の紀尾井ホールにギリギリで入場した私、その時に手渡された冊子をみて、私は辻が曲の配列を周到に考えたものだと感じました。
【第1部】
♪無伴奏ヴァイオリンのためのソナタ第1番 ト短調 BWV 1001
♪無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第1番 ロ短調 BWV 1002
【第2部】
♪無伴奏ヴァイオリンのためのソナタ第3番 ハ長調 BWV 1005
♪無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第3番 ホ長調 BWV 1006
【第3部】
♪無伴奏ヴァイオリンのためのソナタ第2番 イ短調 BWV 1003
♪無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第2番 ニ短調 BWV 1004

私には、ソナタとパルティータのセットを1番→3番→2番と配列し、短調→長調→短調という流れを作りながら、2つの高い峰のソナタ2番のフーガとパルテータ2番のシャコンヌを最後に登頂しようという設計に感じられます。

会場は、ほぼ埋まっていました。これは若い音楽家への期待の現れか?なぜか年配の男性が多い。客層はなかなか良さそうなので、気分よく音楽が聞けそうです。
黒いドレスで現れた辻はスポットライトの中で演奏をはじめました。
1番のソナタの冒頭、比較的ゆったりとしたテンポで慎重に入りました。ボウイングにやや硬さが見られましたが、1番パルティータになるとチャーミングな装飾音符がキレイにきまり、調子が出てきたように感じられました。ボウイングのアップとダウンにどことなく性格付けをしていたように聴こえたところがあって、なかなかユニークかもw。

20分の休憩をはさんで、第2部は長調のソナタとパルティータ。のびのびと弾いていたので調子が出てきたよう。特にパルティータ第3番のプレリュードでは1フレーズ弾いた後、休止をとったような一瞬がありました。これはイザーイがここを引用して作曲した無伴奏曲を連想させる意図が感じられ、私は思わずニヤリ。このお姉ちゃん、なかなかイイ度胸してる。

第3部、辻はドレスを漆黒から濃紺に着替えて登場。気持ちを入れ直して臨もうとしていたことは明らか。難所であるソナタ2番フーガやパルテイータ2番のシャコンヌ、まあまあに弾けていたと思います。特にシャコンヌは、なにか物語のような世界がみえたような気がしました。3時間、音楽に集中したので、私も疲れた。

辻本人にとって、細かいところを言えば反省点はいろいろあるとは思います。しかし21歳の若さで、バッハの難曲を暗譜でそれなりのレベルで弾ききったことは自信になったでしょう。多少、荒削りでトルソのように完品ではなくても、より成長した時の将来の姿が想像できる魅力がありました。「青春のバッハ」と言ってもいい。このような無伴奏の演奏会、ライフワークとして人生の節目でバッハ無伴奏を弾いてくれると嬉しいですね。なぜならバッハの音楽は、その音楽家の成長が聴き取れる試金石のようなものだからです。

奇しくも、今夜、全豪オープンテニスで、大坂なおみ選手が日本人としてはじめて優勝しましたが、21歳の辻がバッハ無伴奏全曲演奏会を成し遂げたという成果もそれに匹敵するように思われます。日本の女性も大胆で逞しくなったものです。

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