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2018年10月25日20:07

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素晴らしいけど、好きになれない「教誨師」

10月13日(土)  上野オークラ劇場

「不倫女房 絶品淫ら顔」(佐々木尚)
夫婦+妻の妹の家庭に、夫のいとこが居候して、結局は姉妹ともども頂いちゃうというストーリーはどうでもいい。要は濡れ場の方便で転がっていく典型的Xces映画。和姦からレイプ、SMプレーや3P、果てはレズまで、いろいろ取り揃えているのがピンクとしての取り得か。「不倫妻 夫の眼の前で」の新版再映。(まあまあ)

「ノーパン痴漢電車 まる出し!!」(深町章)
スカートの臀部をハート型に切り裂く痴漢登場。いちおう犯人捜しのミステリー仕立てだが、楽屋落ち的なネタ割れで、ピンクとしては56分の短尺。ベテラン深町章のホイホイ一丁アガリてな一編。見どころはアドリブ連発の久保新二の怪演といったところ。(まあまあ)

「冷たい女 闇に響くよがり声」(池島ゆたか)
池島ゆたか版「ダイヤルMを廻せ」と漏れ聞いていたが、ヒッチコック作品はヒント程度でしかなく、これは完全な創作と言っていい。単純にミステリーとして面白い。出演者は、全員ハマり役の好演。悪女の行く末は…というのがドラマの骨子だが、池島作品らしく、後味よく納めているのが心地よい。やっぱり映画はこうじゃなくっちゃ。(よかった。ピンク大賞優秀作品賞候補)


10月14日(日)  新宿 シネマカリテ
「LBJ ケネディの意志を継いだ男」(ロブ・ライナー)
人種差別に楔を打ち込む公民権法は、ケネディ・ファミリーの悲願だった。そこで、南部出身でバックの支持者は差別支持だが、院内総務の調整役で手腕を発揮したジョンソン議員を、副大統領として内部に取り込む。そして、突然のケネディ暗殺、ジョンソンの大統領就任。この悲劇の背景がなければ、ジョンソン新大統領の、南部出身議員を押し切っての公民権法可決はなされなかったのではないか。この映画は、ジョンソン大統領のその「功」の一点に絞り込み、ベトナム戦争泥沼化の「罪」の部分は軽く流したのが、成功の一因だと思う。少なくとも私には、人類の意識は紆余曲折があっても、必ず進化していくのだというポジティブな視点を与えてくれた。(よかった。ベストテン級)


10月17日(水)  立川シネマシティ

「SUNNY 強い気持ち・強い愛」(大根仁)
韓国映画「サニー 永遠の仲間たち」の日本版リメーク。女子高仲良し仲間6人が、二十数年後に一人の余命残り少ない友達をきっかけにして、再会する話だ。こういうのは、日本映画にすると分が悪い。韓国はつい最近まで(今でも)、政治的に大衆運動的に混沌としており、時代の流れが、ドラマに鮮烈なアクセントをつける。ところが、日本のここ何年かは、完全に変化なしのノッペラ坊だ。この日本版の成功は、1995年を過去の起点とし、この頃の女子高生のヘンな活力に着目したことだ。ルーズソックス、下着販売の小遣い稼ぎ、援交、ガングロなどの当時の風俗を、大根仁監督ならではの溌剌したミュージカルタッチで、爆発させてみせる。そこに、現代の集まってはいるんだけど、スマホを見詰める時間ばかりの、静寂の女子高生の群れが対比される。もちろん、そうした社会性は味付けに過ぎず、阪神淡路大震災も仄めかす程度でしかない。そんな形でさりげなく時代を対比させて、最後はしっかり泣かせ、韓国映画に引けをとらない作品に仕上げた。お見事である。(よかった)

「SUNNY」は韓国版「サニー」も観ていたので、気になっていたがとうとう見逃してしまった。と思ったら、しげしげと立川シネマシティの番組表を眺めていたら、朝1回上映とはいえ、極上音響上映で、延々とロングランしていたのである。立川極音上映ならではのことだ。

「サニー」では、スケバンの市街地での抗争が、学生と機動隊の乱闘にそのまま巻き込まれ、両者が入り混じっての大騒ぎになる日本映画では全く不可能な、楽しさがあった。そんな時代背景のない日本版で、それに匹敵する楽しいリメークを成し遂げた大根仁は、やはり才人だ。

 前に韓国映画「リメンバー・ミー」を日本でリメークした。時空の歪みで、男女の大学生が、時を隔てて電話で話合うことができてしまう内容である。韓国版では「そっちの時代はどうなってるの?」「軍事政権は崩壊したよ。でも、南北の統一はまただよ」というやりとりがあって、何とも明るい時代に向かっての輝きがあった。

 これが日本版となると、「社会党政権は誕生したの?」「村山内閣ってのは、一応できたけどねぇ」何とも苦笑もののノッペラ坊な日本の社会の反映しか出てこない。

 ただ、韓国はすばらしいと、羨むこともないだろう。キネ旬の9月下旬号で、在日のキム・チュンミン氏が、「1987、ある闘いの真実」評の中で、米占領軍は日本の民主化は強烈に推進したが、韓国は反共防波堤にする目的もあって、旧日本軍の協力者の韓国人を支配者に据えたとのことが、書かれていた。だから、その後の韓国の苛烈な歴史は、必然であったのだ。でも良し悪しはさておき、韓国の方が映画の題材は豊富である。


「コーヒーが冷めないうちに」(塚原あゆ子)
ある喫茶店のある席に座り、あるウェイトレスにコーヒーを淹れてもらうと、コーヒーが冷めるまでの時間だけ、望んだ過去に行けるというお話である。経験した何人かの人を共通して貫くのは、過去を再体験しても現在は変わらないが、未来に向かって生きる姿勢を変えていけばよいとの結論である。私の感性にこれはピッタリ合った。センス・オブ・ワンダーに溢れた最後のエピソードは、素晴らしい。でも、平成の最後を控え、こっちは女系伝承というオチは、たぶん私だけだろうが、皮肉なユーモアを感じた。SF者でなくセンス・オブ・ワンダーに疎い人は?となるかもしれないが、エンドクレジットでさりげなく再解説したあたりも、用意周到だ。(よかった)

「音量を上げろタコ! なに歌ってんのか全然わかんねぇんだよ!!」(三木聡)
三木聡作品のヘンな感覚は、私にウマが合う。それに加えて、今作は慌ただしくて騒々しい。でも、今回はどうにも乗れなかったのは、ド演歌以外は全く分からない音楽に疎い私にとって、ロックがネタだったからなのだろうか。(あまりよくなかった)


10月19日(金)  新宿 K’s cinema
「シャルロット すさび」(岩名雅記)
インディーズ映画で171分と、3時間近い大長編。ノーマークだったし食指も動いていなかったが、池島ゆたか監督から、今年度ベストワンとまで言われて、最終日に何とか滑り込んだ。パリ在住の妻を訳ありで失った日本人舞踏家が、パフォーマンスに用いる大きなガラス板を求めようとしたら、店番が店主の妻だった。アルコール依存症らしくホロ酔い状態だ。陰を背負った二人は、日本人同士という心安さもあって、お茶や食事を共にしたりする。キネ旬の星取表で吉田伊知郎は、「カット尻に余韻を残さずに次の画を繋げていく居心地の悪さが奇妙に惹かれる」と評していたが、私はそんな唐突な転換に、むしろ寡黙な中に行間を読ませる淀川長治さん言うところの「映画の粋」を感じた。これは、池島演出に通底するもので、監督がお気に入りになったのは、解かる気がする。女は叔母の看病に一時帰国すると、男は後を追い、不倫というか駆け落ち状態に至る。でも、これで3時間は持つかいなと、危惧していたら、福島の自主避難区域で老夫婦(?)に出会うあたりから、リアリズムでなくなり、時間と空間が果てしなく混濁する展開となる。フリーク映画のようでもあり、裸や濡れ場もかなり濃厚で、ここも池島監督好みだと思った。それを通じて、何を伝えたかったのはよく解からない。人は狂気と文明で、自滅していくとのテーマにも見えた。ただ、奔放な展開は、意味はともかく、とにかく長時間を退屈させない。飽きることも眠くなることもないという点で、池島監督ベストワンも納得したのである。(よかった)


10月21日(日)  上野オークラ劇場

「トーキョー情歌 ふるえる乳首」(高原秀和)
二人の女流官能小説作家のお話。一人は自作を色気タップリに朗読するエロさと、実体験の乏しさのギャップに悩んでいる。ひょんなことから、取材の中で出会ったAV助監督と親しくなり、新たな生き方を見出していく。もう一人は、官能小説を割り切って書いていて、ロックに夢を見るバーテンと長いつきあいだが、結婚までにはなかなか至らず、悶々としている。そんな二組の男女の心の機微を、長回しでジックリと追っていく。最後のロックの本格的な演奏も含めて、ドラマとしてはかなりコクがあるが、濡れ場はピンク映画だから仕方なく取って付けたよう。これもクォリティのみ追及R15狙いなのだろうか。ピンクとは違うような気がする。コンサート会場には、私もエキストラ出演しているが、観客の一人だから、ロクに顔も映るわけもない。でも、エンドクレジットには、しっかり参加者全員が表記され、そこにだけ私が存在していたことになる。(まあまあ)


10月24日(水)  立川シネマシティ

「日日是好日」(大森立嗣)
ちょっとしたきっかけから二十歳の時、週一土曜日の茶道教室に通うようになった女性の24年間にわたる物語。季節の節目を中心に、教室の庭の風景の変化を巧みに取り入れ、特に大きな事件もない日常が淡々と綴られていく。もちろん恋も失恋もあるし、家族・友人・知人との別れもあるが、誰にでもある日常の一風景で、劇的とは程遠い。お茶は形であり、意味は考える必要ないという「心」が、映画の骨子。そこに、変哲のない日常が続いていく生の愛おしさが香り立つ。ダークでエグい映画が多かった大森立嗣のこの突然変異は何だろう。いや、そんな「意味」をこの映画に探ること自体が、野暮と言われそうだ。(よかった)

「教誨師」(佐向大)
素晴らしい出来だけれども、どうしても好きになれない映画がある。死刑囚の教誨師を大杉漣が演じる。名演である。死刑囚を演じるのも、光石研・烏丸せつこ・古舘寛治といった芸達者から、劇団の新鋭まで、いずれも素晴らしい。暴力団員・ストーカー殺人・発作的一家皆殺し・17人無差別殺戮、盗人にも三分の理かもしれないが、単なる凶悪ですませられない人間性を、死刑囚それぞれに感じる。でも、死が定められている者に、教誨師が何を言っても偽善のような気がしないでもない。携わる刑務官の居心地の悪さを含め、拘置所にこんな場所を存在させざるをえない死刑制度にすら、疑義を覚えてくる。後味はよくない。割り切って名優の演技を楽しめば良いのかもしれないが、それも大杉漣の遺作とあっては、ますます気が滅入ってくるのであった。(あまりよくなかった)


 ここまでで、私の初スクリーン鑑賞作品は292本。

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