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2018年10月12日20:50

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濱口竜介の東日本大震災ドキュメンタリーは凄過ぎる。

10月2日(火)  キネカ大森
        「寝ても覚めても」公開記念 濱口竜介アーリー・ワークス
「なみのおと」(濱口竜介 酒井耕)
東日本大震災直後の被災者を、北から南へ下り数か所の町をドキュメントする2時間22分の巨篇。優れたドキュメンタリーは、被写体の鮮烈さに、最初は何の言葉も出ず、「絶句」してしまうことが多い。原一男や森達也の映画群がそれだ。ただ、原の作品は奥崎謙三など、森作品はオウム広報副部長など、被写体自体が非日常を背負っているインパクトがあるので、当然の帰結だろう。ただ、本作品の被写体は、何の変哲もない一般市民である。それがインパクトを与えるというのは、いかに被災経験が苛烈かということと、監督の巧みな引出し方があってこそだろう。とは言っても、インタビュアーとして両監督が出てくるのは各一回、被写体が一人の場合のみだ。その他は、2〜3人の家族や仕事や経験を共にした人達に語り合わせることによって、当時を追体験していく。濱口竜介らしい巧みな「演出」だ。そこでは、この地に留まるか否かというのが、各自の大きなテーマとなる。そして、それは震災時の記憶に大きく関わってくる。津波の惨劇を目の当たりにした者、溺死寸前に救出された人、高台にいたので揺れにはビックリしたが、家に戻って初めて愕然とした人。ヒロシマを見たか見なかったとの「二十四時間の情事」の記憶のテーマに迫る深淵さだ。いや、そんな言い方も軽薄かもしれない。ここは、第三者として、「絶句」の一言に納めておきたい。(よかった。ベストテン級)

「なみのこえ 気仙沼」(濱口竜介 酒井耕)
「なみのこえ 新地町」(濱口竜介 酒井耕)
震災から2年後の2013年、前作に廻った土地の2か所を、再度訪れて(被写体の市民は別人)、同じ手法でドキュメントしていく。2年という歳月は、被災者の心に微妙な変化を与えている。この震災は、自分の人生の中で何であったのか、社会との関わりでどうであったのか、との俯瞰的な視点が目覚めてくる。前作の「記憶」に対して、今度は「時間」というテーマ加わり、奥行を与えていく。大傑作としか言いようがない全三作だが、ここでも第三者の軽薄な感想は控えたい。この感動は、やはり「絶句」の一言で納めておきたい。(よかった。ベストテン級)

 濱口竜介の東日本大震災全三作6時間を踏破したが、有意義な半日であった。遅まきながら私の平成25年ベストテンを見直しいたします。ただ、3本全部をベストテン入りさせるわけにもいかないので、「なみのこえ」で代表させます。この年は、ベスト3がいずれもアニメだった。そこで2位と3位の間に割り込ませることとする。

 とはいえ、私のベステンは全体バランスを考えるので、10位の「凶悪」がそのまま落ちるということにはならない。この年はドキュメンタリーが2本ベストテン入りしている。「フラッシュバックメモリーズ3D」と「陸軍登戸研究所」だ。「フラッシュバックメモリーズ3D」は類をみないユニークさなので、ここは、オーソドックスな創りの「陸軍登戸研究所」に引いてもらうことにする。

 そういうことで、私の新平成25年のベストテンは、次のとおりである。
1.魔法少女 まどか☆マギカ[新篇]叛逆の物語 2.かぐや姫の物語
3.なみのおと 4.風立ちぬ 5.舟を編む
6.フラッシュバックメモリーズ3D 7.横道世之介 8.暗闇から手をのばせ
9.約束 名張毒ぶどう酒事件 死刑囚の生涯 10.凶悪


10月3日(水)  立川シネマシティ

「散り椿」(木村大作)
美しい撮影、静謐な演出。木村大作監督・小泉堯史脚本(監督と共同)の最良タッグだ。往年の時代劇(東映ではなく、どちらかと言えば東宝)の再来を彷彿させる。現在で考えられうる最高の適役オールスター。岡田淳一と西島秀俊は、三船敏郎と仲代達也に引けを取るものではない。でも、単なる再来なら、別に価値ある映画とはいえない。この映画の素晴らしさは、撮影所美術に頼ることなく、古民家や風景を巧みに撮ったオールロケということだ。さらに、武骨な武士道だけではなく、女性への思慕が底流にあるところが新しく、なおかつそれが変に現代の視点を外挿するのではなく、江戸時代の中に見事な按配に納めているのも鮮やかである。(よかった。ベストテン級)

「プーと大人になった僕」(マーク・フォスター)
子供の頃、熊のプーを中心にしたぬいぐるみ様の動物たちと、100エーカーの森で遊んだが、寄宿舎学校に入りエリートの道に進む時、全てを捨て去る。大人になった今、家族を顧みない仕事人間だ。でも、プーと再会し家族の大切さを知り戻ってくる。ディズニーらしく二者択一ではないハッピーエンドにしたのはいいのだが、展開はかなり強引。でも、結局この手の映画はキャラの好みなのだろう。私は100エーカーの森の動物たちに、あまり可愛さを感じなかった。熊のプーさんは嫌いではないのだが、本作の動くプーにもなぜか魅力をかんじなかった。(あまりよくなかった)

「ガールズ&パンツァー 総集編 第63戦車道全国高校生大会総集編」
                               (水島努)
茶道と華道と戦車道が、大和撫子の嗜みというパラレルワールドを、楽しめるかどうかが鍵だろう。私は楽しんでいる。今回はTVとOVA全13作の総集編だが、ダイジェストの物足りなさをあまり感じさせなかった。戦車女子達の1年の回想という形を取っているのが、構成の妙だろう。トーナメントの流れで、金持ち女子高→イタリア的な飽食女子高→ソ連風物量主義高→宿命の敵の姉がいる高校への決勝へ、市街戦・平原戦・雪原戦と、背景ストーリー展開が変化に富んでいることが、イッキ見ではより力を増したと思う。立川の極上爆音上映の、地響きを彷彿させる砲声は凄い。(よかった。ベストテン級)


10月4日(木) TOHOシネマズ新宿
「パパはわるものチャンピオン」(藤村亮平)
プロレスにはヒールとベビーフェースというキャラクターがあるのは、大人はたいがい知っているが、小学校3年生となると微妙である。ヒールレスラー「ごきぶりマスク」の息子が、そのことに悩み、友達やプロレス者の大人と関わるうちに、職業に貴賤はないということに目覚めるこれは爽やかな一編。プロレスはやったもん勝ちとか、2代目タイガーマスクのリング上のマスク投げ捨て事件を連想させたシーンとか、プロレス者の心をくすぐる細部の仕掛けも楽しい。多くの出演プロレスラーは、全員が名演なのだが、リング場とかドレッシングルームなどのいつものステージなので、ここは当然の話。ただし、演技力も伴うヒールの相棒を務めた「銀蠅マスク」田口隆祐は、助演賞モノの好演だ。でも、当然だろう。プロレスラーは、アスリート以上にエンタテインメントであらねばならないのだから。それにしても落ち目のレスラーのリング上というのは、どうしてこんなに哀愁が漂うのだろう。ボクサーの場合だと単に惨めなだけである。大袈裟に言うならば、棚橋弘至「パパはわるものチャンピオン」は、ミッキー・ローク「レスラー」と並ぶ今年の日本映画の隠れた傑作ではないだろうか。いや、意外と大真面目に言ってます。(よかった。ベストテン級)

 2日間で、日本映画ベストテン級が3本。ちと甘すぎるかなあ。ま、好きなんだからいいか。


10月5日(金)  よみうりホール  キネ旬試写会
「旅猫リポート」(三木康一郎)
訳アリで、猫の新しい飼い主を捜していくロードムービー。それが、小中高生時代の回想と連動し、主人公の背負った悲しい運命が、薄皮を剥ぐように浮彫になってくる巧みな作劇だ。原作者の有川浩と平松美恵子の共同脚本が優れ物だ。一種の難病ものだが、恋をあまりからませず、愛猫との別れでこれだけ泣かせるのは、反則なくらい(もちろん、良い意味で)ズルい。(よかった)


10月6日(土)  東京写真美術館ホール
       ショートショートフィルムフェスティバル&アジア 秋の上映会


 秋のアニバーサリープログラム1

「ファミリー・ハピネス」(アリス・エングレート)
父と折り合いが悪く、兄に迷惑をかけた妹だが、最近死別。ところが今度は同棲中の彼氏とモメて、家を飛び出し転がりこんでくる。問題児の妹を包み込む兄の優しさが、スケッチされる。2017年作品。オーストラリア映画。14分59秒。(まあまあ)

「78」(ノーハ・エデルセン)
バスの78停留所。その前の道路のマンホールの上で「78、78…」と呟きながらジャンプしている少年がいる。待合の客が何だろうと声をかけ、とんでもないことに巻き込まれる。78の意味は全く別だった。ちょっとゾッとさせるホラー。1997年作品。イギリス映画。2分58秒。(よかった。ベストテン級)

「頭のない男」(ジュアン・ソラナス)
SSFF2004インターナショナル部門審査員奨励賞受賞。頭がなく、ショッピングで購入する異世界。CGならではのビジュアルが楽しい。想い人との観劇デートで、いろいろ悩んだ末に頭を選ぶが、市販品に飽き足らなく、頭無しのまま彼女の前に立つ。素が一番良いと表現した味わいある象徴劇だ。2003年作品。フランス映画。15分。(よかった)

「コイン」(リ・ハング)
SSFF&ASIA2013アジアインターナショナル部門ベストアクトレスアワード受賞。新聞売場のついでに、近くにある公衆電話のためにコイン交換サービスもしている不愛想な中年女性が、天国のママに電話すると言ってきた幼児と出会い、優しさに目覚め大芝居を仕組む。さらに何年か後に、その子と感動の再会のフィナーレが…。2012年作品。中国映画。11分11秒。(よかった)

「シェイクスピア・イン・トーキョー」(ジュヌヴィエーヴ・クライ・スミス)
母を喪い、知恵遅れの弟と同居して面倒をみているビジネスマンが、仕事で東京へ出張になり、弟も同行させる。知恵遅れといっても、絵の才能には溢れ、シェイクスピアは全て諳んじている特殊能力はある。東京で、兄の手から逃れて一人旅を勝手に開始。東京の名所各地で、さまざまな人達と出会い、純粋な心が人々を癒していく。2018年作品。日本映画。20分34秒(よかった)


 2018年受賞プログラム3

「痣」(井上博貴)
ジャパン部門アクトレスアワード受賞。妻に去られ、離婚届をつきつけられた男が、妻の実家に向かう途中で、男から逃げて来た訳ありの痣だらけの女を助ける。男と女は殺人の共犯者で逃亡中の身だったが、女は一緒に捕まりたくないと言う。複雑な女心だ。彼の妻は彼女を浮気相手と誤解し、亀裂はさらに深まるが、男はその女の心情から何かを感じ、やり直そうとの気持が強まる。私にはもう一つピンと来ない展開だった。日本映画。23分37秒。(あまりよくなかった)

「Grisha’s Guide to Kief」(ジョーダン・ブラディ)
ファッションショート オブ ザ イヤー受賞。キエフの魅力の単なる観光案内。何で受賞したんだろう?ウクライナ映画。5分29秒。(あまりよくなかった)

「IMC」(Ark)
いばらきショートフィルム大賞受賞。茨城PRビデオ製作の会議。市の職員はかつての映研。委託先の女性プロデューサーは、かつての映研仲間。実は、この会議にはプロデューサーの隠れた仕掛けがあり、映研時代の恨みをここで晴らしたという「江戸の仇を長崎で討つ」洒落た趣向だ。日本映画。16分。(よかった)

「コトリのさえずり」(ザナ・ベクマンベトフ)
CGアニメーション部門優秀賞受賞。綱の上で人の足に戯れるコトリが可愛い。人間は綱渡りの足だけの登場。赤ちゃんから男や女の様々な靴の足が、渡って行く。綱は、有刺鉄線に変貌したり、いろいろな時代を象徴しているようだ。ロシア映画。11分10秒。(よかった)

「あと さん ねん」(ペドロ・コランテス)
インターナショナル部門ベストアクターアワード受賞。日本で旅行中のスペイン人を、英語で道案内をした縁を頼りに、日本人がそのスペイン人の家を訪れる。あいにく彼は海外出張中で不在、スペイン語しかわからない母親が頓珍漢な対応になる。人なつこい近所の村人が、彼をパーティーに誘い、英語・日本語・スペイン語が入り乱れるディスコミュニケーション状況の中で、それぞれの人生の香りが漂う。フランス・スペイン合作映画。25分。(よかった)


 2018年受賞プログラム2

「Some Day」(近広史)
キテミル川越ショートフィルム大賞受賞。中世からタイムスリップした少女と、男子高校生との出会い。最初は記憶喪失だと思い、知っている場所に行けば思い出せるんじゃない?と語りかけ、少女は寺は無いの?と問いかける。こうして、川越の寺巡りになる。ご当地映画ならではの魅力だ。時空を超えた淡い慕情が、二人が交換した髪飾りとマフラーで、爽やかなエンディングを用意する。日本映画。21分44秒(よかった)

「偽りの赤」(リーマ・セングプタ)
アジア インターナショナル部門ベストアクトレスアワード受賞。DV夫から逃れようとする妻だが、一人では部屋が借りられず苦闘する。インドの国情を反映しているのだろうが、そのへんに疎い私には、狙いがイマイチ曖昧に感じられた。インド映画。15分。(あまりよくなかった)

「マルグリット」(マリアンヌ・ファーレイ)
インターナショナル部門ベストアクトレスアワード受賞。癌で余命が少ない老女と、レズの介護士との友情。老女は亡き夫の想い出に浸ると共に、昔は許されなかった同性への秘めた想いも蘇る。味わいはあるが、老残の姿はあまり観たくない。カナダ映画。19分9秒(あまりよくなかった)

「東京彗星」(洞内広樹)
Cinematic Tokyo部門優秀賞/東京都知事賞受賞。オリンピック翌年の2021年。1年後に東京に彗星が衝突するとの観測データが、NASAから発表される。リストラで生きる気力を失った兄と、児童疎開先でいつまでも兄と一緒にいたいと熱望する弟の物語。でも、最後のオチは釈然とせず、私には何を訴えたいのか分からなかった。日本映画。24分53秒。(あまりよくなかった)


 2018年受賞プログラム1

「THE ANCESTOR」(小原正至)
ジャパン部門優秀賞/東京都知事賞受賞。夢回路を通じて、未来の少年から先祖に恋のアドバイスを求める少年。モノクロで少しダークなキャラが、どこか可愛い。徹底した未来の女の強さと、現在のまだ残る女性蔑視の対比が、絵柄とピッタリ合って素晴らしい。日本映画。17分45秒。(よかった)

「不思議なヤギ」(アンドレア・ブルサ マルコ・ソツィー)
インターナショナル部門優秀賞受賞。アフガンから来た難民は、家族同然とヤギを連れてくる。問題は山積したが、最終的にペットも検疫して入国させるイタリアの政策が、確立される。国策PRめいているけれど、ホノボノとした気持にもさせられる。イタリア映画。14分44秒。(よかった)

「公衆電話」(松本動)
ジャパン部門ベストアクターアワード受賞。三十路を迎えた娘が、仕事で上京出張してきた父に、突然夕食を誘われる。言葉少なの居酒屋での一夜と、二人で散歩する都会の街角。でも、ここにそこはかなく父娘の情愛が漂う。父娘ってこうだよな、というのが私の実感。コインロッカーと煙草の隙間をネタにした父娘の相互のエピソードも粋だった。日本映画。15分47秒。(よかった)

「年上のプライド」(ホユーン・ハング)
アジア インターナショナル部門ベストアクターアワード受賞。大学生の宴会に呼ばれた卒業生の先輩。見栄を張って勘定の心配にジタバタする。韓国では、先輩が勘定を持つのが常識なのか?そのあたりがピンとこないので、もう一つ面白さが伝わらなかった。韓国映画。19分21秒。(まあまあ)

「カトンプールでの最後の日」(イー・ウェイ・チャイ)
ジョージ・ルーカス アワード(グランプリ)アジア インターナショナル部門優秀賞/東京都知事賞受賞。暑さのあまり、着衣のままプールに飛び込んだ男に、子供時代の水泳教室の懐かしい思い出が、走馬燈のように浮かぶ。それだけの、どうってことない一編。シンガポール映画。15分19秒。(あまりよくなかった)


 秋のアニバーサリープログラム2

「パン屋再襲撃」(カルロス・キュアロン)
村上春樹原作の短編小説を、キルスティン・ダンスト主演で映画化した話題作。倦怠期の夫婦が。勝手にある呪いをデッチ上げ、呪いを解くためにパン屋を襲撃(パン以外の商品は支払うので強盗ではない)するナンセンスな仕掛けが楽しい一篇。2010年作品。アメリカ・メキシコ合作映画。10分。(よかった)

「平穏な日々、奇蹟の陽」(榊原有祐)
SSFF&ASIA2014ジャパン部門ベストアクトレスアワード受賞。スターになる前の有村架純の主演作。東京でモデルの仕事に挫折し、帰郷して高校のバスケ部のあこがれの同級生に再会。しかし、彼女の身には…。朝陽が切なく見える感動作。2013年作品。日本映画。24分59秒。(よかった)

「ヘルムートの誕生日」(ニコラス・スティナー)
SSFF&ASIA2011グランプリ受賞。60歳の誕生祝が、どんどん変な形になる。ワンシーン・ワンカットで、室内セットが壊れ、町へ舞台が移り、そこも崩壊、最後は大草原に至る。その労作ぶりに舌を巻く。2009年作品。ドイツ・スイス合作映画。11分40秒(よかった)

「運命の出会い」(ピーター・ビーソン)
SSFF&ASIA2010インターナショナル部門ベストアクターアワード受賞。ある女性に、何としてもバッグを返したい。そのいきさつは、観る者の想像を覆すエンディングだった。一目惚れで、そこまで行くか!と呆れさせて、苦笑させる。2009年作品。アメリカ映画。10分3秒。(よかった)


「ショートショートフィルムフェスティバル&アジア 秋の上映会」5プログラム、全25本を踏破した(内2作品は既見)。今年、および過去の受賞作という選りすぐりのプログラムで、収穫は大きかった。

 このイベントは、無料というのが大きな魅力である。ただ、今回は予約なしで行ったら、初回プログラムはキャンセル待ち10人、それ以降はキャンセル待ち2人だった。順調に入場できたが、人気は高まっているみたいで。来年からは予約が必要かもしれない。


10月7日(日)

 上野オークラ劇場
「世界で一番美しいメス豚ちゃん」(城定秀夫)
ぽっちゃり専デリヘルが舞台。見ものは眼鏡デブの百合華。でも、どこか可愛いのが魅力だ。巨体をゆすっての濡れ場は、エロチックというよりは、もはやスペクタクルであるが、映画ならではの魅惑の一つだろう。複数の女に貢がせたくなる奴というのは、男が求めるファンタジーだが、守屋文雄は見事に実体化した。展開にさしてユニークなものはないが、ほっこりした気持で納めるあたりは、さすが才人の城定秀夫だ。(よかった。ピンク大賞優秀作品賞候補)

 なお、併映の「白衣絶頂 夜の天使たち」は「おしゃぶり天使 白衣のマスコット」の新版再映。


 新文芸座  <パルムドール『万引き家族』へ至る道> 是枝裕和全作上映
「いしぶみ」(是枝裕和)
杉村春子を語り部とした昭和44年TVドキュメンタリーのリメーク。今回は朗読者に広島出身の綾瀬はるかを起用。高名な舞台美術家による凝ったセットを背景にし、効果を挙げる。元になったのは遺族の手記。それにしても、よく追跡調査したものだと感嘆する「いしぶみ 広島二中一年生全滅の記録」だ。死者321人、でもそれはただの数字に過ぎない。この手記によって、一人一人が心と肉体を有した命だったとのことが浮き彫りになる。偶然の幸運で爆心地に居合わせなかった数少ない生存者への池上彰のインタビューが、映画にさらなる深味を与えた。貴重な記録であり記憶である。(よかった)


10月10日(水)  立川シネマシティ

「クワイエット・プレイス」(ジョン・クラシンスキー)
宇宙からエイリアン(?)が飛来し、人類絶滅の危機(?)に晒されたようである。音をたてた瞬間に襲いかかられるようで、この映画はその発生から89日後から始まるが、市街地はすでに廃墟になっているから、そう理解していいだろう。かなりスケールの大きい題材の映画だが、その時点から始めれば5人家族のみの世界に焦点を絞ることができる。低予算映画としては賢い創りである。会話は出来ず手話でコミュニケーションを図り、足音も危険だから素足だ。音を発せないということは、人にとってどれほど窮屈かとか、音楽の重みとかなど、いろいろな思いを抱かせる。このネタで、極上爆音上映はいかがなものかと思ったが、時たま発する轟音が、ひどく効果的だった。ディティールを追うと御都合主義や荒っぽいところも散見するが、ワンアイディアストーリーで工夫を凝らす映画は、過去に(題材は全く異なるけれど)「フォーン・ブース」「崖っぷちの男」などがあり、こういう智恵で魅せる映画は、私は好きだ。エンディングも、大いなる序章といった感じで物足りなくもないが、「人類SOS!」や「サイン」みたいに〇〇をブッかけちゃったら死んじゃったなんて失笑ものの結末でないのも悪くない。このネタなら、こうした落としどころしかないとも思う。(よかった。ベストテン級)

「イコライザー2」(アントワン・フークワ)
身分を隠し便利屋としてヒッソリ暮らす(でも社会正義は貫く)元CIA職員の、デンゼル・ワシントン主演の第2弾(デンゼル初のシリーズ物とのこと)。今回は、そんなOB同士の対決という新たな視点だが、そこが見えてくるまでの展開にゴタゴタ感を感じた。クライマックスの台風の真っ只中での、住民が避難した無人の市街の乱戦は魅せる。(まあまあ)


10月11日(木)  シネマヴェーラ渋谷
      「いま見ているのが夢なら止めろ、止めて写真に撮れ。」刊行記念
              セレクション特集 映画は大映、ヴェーラも大映
「三人の顔役」(井上梅次)
戦後は、GHQがチャンバラを禁じた一時期を除き、時代劇の大スターが片岡千恵蔵を例外として現代劇に出演するのは皆無だった。その意味で長谷川一夫主演のこの映画は、かねてから気になっていたのだが、やっと観る機会を得た。意外や本格的なヤクザ映画なのに、ちょっと驚いた。千恵蔵は、現代劇といっても、背広を着た時代劇みたいな多羅尾伴内シリーズが中心であるが、この長谷川現代劇はちがう。京マチ子との当時としてはかなり激しい濡れ場もあり(この当時の時代劇の濡れ場は様式化されたものだから)、ちょっと驚いた。京マチ子は現代劇にも出演していたからともかく、天下の二枚目の長谷川一夫がこんな芝居をしていたのだ。未遂とは言え、野添ひとみをレイプしようともする。この時代の時代劇スターにはありえない所業だ。長谷川一夫はスッピンで、安藤昇もかくやの貌の疵を堂々と晒しての熱演。現代劇スターの菅原謙次や川口浩と、違和感なくからむ。出番は少ないが、勝新太郎がひげ面のトラック野郎で見事なサポート、ブレーク寸前の存在感を発揮する。長谷川親分の脱獄から、彼を密告して刑務所送りにした裏切り者はだれかとの、深夜12時から翌日夜までの、コンパクトなミステリー調の運び。光と影を巧みに用いた井上梅次のモダン演出。あまりにも当時の長谷川一夫映画と異質だったかどうか、興行的には不発に終わったようだが、これが成功して大映ノワールが定着していたら、戦後邦画史は変わっていたかもしれない。(よかった)


 ここまでで、私の初スクリーン鑑賞作品は281本。

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