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2018年09月27日02:00

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嵐ヶ丘 記者2のシーン

第一幕

プロローグ

記者会見の場である。闇の中、フラッシュで始まる。カメラマン、数人、去りかけた白髪・眼鏡の男、北野を取り囲んでいる。

記者1 北野さん、北野さん、一言!
記者2 スパイ防止法はいったい?
北野 君、それはね、結局は国会で審議されることだよ!
記者3 北野さん、でもあなたが、今回の上程に大きな力を持たれたとか?
記者4 私ゃ、芸能記者なんですよ、ほら、私ゃ、あの「明星」の!
北野 私はスターなんかじゃないよ。私ゃもう六十五だし、はなやかしいことは大っ嫌いだ!
記者1 北野さん、今度のスパイ防止法について、一言!
北野 君たち、うるさいね! さっきのインタビューで満足できないの?
記者2 しかしながら、あれじゃ――
北野 私は国民のためを思って働いているにすぎん。君たち、記者のため、特殊な利害層のために働いているんじゃない!
記者1 言論の自由はいったい、どうなるんですか、言論の自由は! 私たちは国民の知る権利を守るために、今回のスパイ防止法案について知る権利がある!
記者2 そうだ、私はあなたに対してキャンペーンをはる準備もできているんですよ!
記者3 いや、私は断固、このスパイ防止法に賛成だ! これはマスコミの歪んだ自由主義をだね――
記者12 何だ、この右翼新聞!(記者3を取り囲み、イザコザ)
北野 おい、君!(舞台の陰に合図する)
記者1 何だ、行ってしまうのか、卑怯だぞ、北野!(去ろうとする北野に追いすがろうとするが、背後から右翼服の青年に捕らえられる)
青年 おい、北野先生に向かって、失礼だぞ!
記者1 何だ、北野、お前は右翼のゴロツキまで使って!


:::::


4.病室の前

プロローグと同じ新聞記者たち。まず信一が出てくる。

記者1 あ、信一さん、北野さんの容態は?
記者2 左翼のテロについて、何か一言!
信一 さあ、何も言えないね。
記者3 あなた、前、政治活動なさってたんでしょ?
記者1 世間の反響はすごいですよ。これでスパイ防止法は一歩前進したってね。首相がこの手のテロに直接言及したのはめずらしいことですよ。
信一 不愉快だね。第一僕は、親父の進めているこの運動には殆ど賛同できないし、それに親子の問題は他人に話すことじゃないよ。
記者2 信一さん、あんた、この週刊誌見た? 書いてあるよね、あんたの家庭の内幕、「シリーズ・北野家の人々」!
信一 ああ、あの芸能レポーターが書いてる記事?
記者2 これについて何かコメントを! あなたの事、随分くわしく書いてあるじゃないですか。女優との秘密の愛の巣、白金台マンション、直接輸入代理店戦略、あなたの過激派としての過去…。
記者3 どうです、プライバシー侵害で訴えられますか、我が社は後援致しますよ。
信一 この記事は、およそ正しいよ。何しろ田島に情報を提供したのは俺だからね。
記者123 えっ?!
記者1 じゃあ、あなたが十六才の時に北野氏を刃渡り2メートルの半月刀で斬り殺そうとしたのも…上野博物館で…、
信一 ああ、事実だ。俺が田島に話したんだ。
記者2 ちくしょう、芸能記者の分際で!
記者3 大新聞を何だと思ってるんだ!

その時、田島が抜き足さし足であらわれる。

田島 信一さん、新しい情報を仕入れたぜ!
記者1 あ、この野郎!
記者2 この抜けがけ、裏切者、オカマ!
記者3 たかが芸能記者の分際で、大新聞の、大新聞の権威を!

記者123、田島を追いかける。田島逃げる。


:::::


4.成田空港であるらしい。アナウンスの声。信一が時計を眺め、キョロキョロと探している。ヒマだったら、出迎え・歓迎のシーンを入れてよい。

信一 …どうしたのかな。どこにいるんだ。もうとっくに出迎えはすんだというのに。

遠くで「中国残留孤児訪日万歳」のかけ声。政治家が何か言っている。中国側代表の中国語のあいさつ。これに場内アナウンス、ジェット機の轟音が混ざる。

信一 俺は今、忙しいんだよなあ。新しい輸入代理店の株主発起総会に出なきゃならんのに…。第一、親父が来なきゃならんのに、病気だろ。オフクロはあの通りだからな。それに田島が本当は来るべきなんだが…。しかし、もし彼女が親父の孫だとしたら俺は…何になるのか? 兄弟の娘だから、叔父になるのか?
記者1 やあ、これは信一さん!
信一 ああ、これは?
記者1 A新聞の影山です。ほら、病院でお会いしたでしょう。
信一 いや、あの節はツっぱっちゃって、どうも。
記者1 いいんです。いいんです。それにしても田島はちょっと大変ですね。
信一 どうかしたんですか?
記者1 いや、ちょっと政治的問題でね、警察で事情聴取うけてますよ。
信一 また何か?
記者1 あなたのお父さんの件でね。まあ、マスコミは箝口令ですけどね。何か心あたりがおありですか。
信一 さあ――。
記者1 いずれにせよ、政府に知られちゃまずいことがあるらしいんですよ。そういや、田島の週刊誌の連載、中止になったでしょ?
信一 え、そうなんですか?!
記者1 ここだけの話だが、マスコミに表現の自由などないことは昔から知れた話ですよ。今回は田島が犠牲者ですけどね。
信一 それにしてもね――。
記者1 どうしたんです?
信一 実は中国残留孤児の一行の中で、柴崎かなえという人を知りませんかね。中国名は李――なんとかです。
記者1 それがまた、
信一 いや、実は親父の――その――。
記者1 (通りかかった記者2に呼びかけて)おい、君! 残留孤児の中で柴崎という人を見かけなかったかい?
記者2 え、柴崎? ああ、いたよ。ついさっき、親類の人が迎えに来たぜ。
信一 え、それはおかしい。どんな恰好してました?
記者2 黒い服にサングラスの二人組ですよ。
信一 しまった! これは誘拐だ! 影山さん、追跡してください! 車の中でくわしいことはしゃべります!

二人とも走り去る。その時、反対側から田島がアタフタとかけこんでくる。

田島 (息を切らせて)おい、おい君――、北野信一君を見なかったか?
記者2 さっき、ここにA新聞の影山といっしょにいたぜ。おい、田島、お前、週刊誌の連載とりやめになったそうだな。いい気味だぜ。大新聞を出し抜こうとするとこういうことになるんだぜ。
田島 うるさい、そういうことはどうでもいいんだ! それより北野君はちゃんと、中国残留孤児の娘をひきとったか?
記者2 いいや。
田島 (記者2の胸ぐらをつかんで)何だって? どうしたってんだ? 何があったっていうんだ?
記者2 おいおい――君までどうしたんだ――黒服の男2人が――、
田島 しまった、先を越されたか! 追跡だ、追跡――。(走り去る)
記者2 おい、田島、お前、政治に深入りしない方がいいぞ!――ちくしょう、行っちまいやがった。
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