銀行での任務を完了し、炎天下で道路工事を行っている作業員の汗だくな姿を横目で見ながら、次の目的地へ歩き始める。
伸びきった髪の毛を散髪しようと、帰り道にあった床屋さんに立ち寄った。
目の前の券売機に、1080円を入れボタンを押す。自分で何かを買うという行為が久々な気がした。
店員「今日はどんな感じに切りましょうか？」
俺「横と後ろは刈上げてもいいのでお任せします」
店員「かしこまりました」
会話はこれだけ。
どんな髪型になっても文句を言う気もなく、無造作に刈り落ちていく髪の毛を見ていると、白髪が恐ろしく増えている。
思わず「うぉ」っと声を上げてしまい、店員さんが「？」となるが、店員さん手を止めることもなくザクザクと進める。
白髪は苦労の印 なんて聞いたことあるが、そんなはずはない。ここ数ヶ月苦労という言葉とは無縁だったはず。苦労より心労。
そういえば、25年位前に姉が嫁に行くと決まった時に、父の白髪が突然増えたことが記憶にある。
散髪は10分くらいで終わり、また歩き出す。国道にかかる橋を歩いている時、なぜだか行き交う自動車には目を向けることが出来なかった。
知り合いから見られているのでは？という意味不明な劣等感に似た不安がよぎっていた。道路の外側を見ながら歩くと、下の川の中に色鮮やかな鯉が居た。この場所に似つかない鯉だったので思わず二度見したが、きっと縁日の自称「金魚すくい」が、大きくなったのだろうと勝手に推測した。
橋を渡り切り、土手を歩くと草刈後の、緑の匂いが漂ってきた。自然の風が匂いを運んでくることだけで、自分の中の季節感を取り戻してくれそうな、夏の匂いだった。
家まで後1分の場所にコインランドリーが昨年できたのだが、夏の需要が気になりつつ、回転している機械を数えると10機以上と、予想外な現実を見てしまい、「儲かってるのか」と、なぜかジェラシーを感じ前を向き、再び歩き始めた。
無事に帰りつくと汗だくだった。達成感を感じながら日頃飲まない氷水を一気に飲み干し、庭のイスに腰掛け、外出しまずは動き出したんだと、自分に何度も暗示をかけ、「もう止まった生活に戻るな」と、言いたい気持ちと葛藤しながら部屋のエアコンの電源を入れ、タオルで汗を拭き上げた。
とにかく
外に出れたんだ。
大きなリハビリの一歩になったことは間違いない。
これからもっと外出できるように、勇気を出していこう。
勇気を出す・勇気を振り絞る
↑
「勇気」という気を人間持っていること前提になっているが、持っていることに気がつくのに時間がかかりすぎた。むしろ忘れていた。
そうだ、俺も持っていたんだ。
よし。次の勇気を出すことを見つけよう。
きっと達成感も見つかるはず。
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