様々なジャンルが存在するミュージカル映画。
ただ、集約するなら「歌と」「動き」の両方を物語と映像へ
「どうなじませ一致させるか?」にかかっている。
その部分において本作は独特かつ秀逸だ。
ミュージカル・チェイスとでも呼ぼうか?
ゲッタウェイ・ドライバー *1 のベイビー(アンセル・エルゴート)
がイヤホンを耳にはめる。ipodのホイールが回転する。
一転、ジョン・スペンサー・ブルース・エクスプロージョンの「ベルボトムズ」*2
が炸裂。「ベルボトムズ」は映画の音楽と化す。
歌詞のサビ、楽器の打点にシンクロしたチェイスでドリフトやブレーキ、
スピン、ターンが巻き起る。
この方式を――いってみれば映画の“サビ”を本作はあらゆる場面で採用していく。
たとえば銃撃場面。「テキーラ」*3 がかかり「ダダダダ」「ダッ!ダッ!ダッ!」
にあわせ銃砲が鳴る。
計算した効果の追及に何度もやりなおした撮影は納得。
「アルバムが鳴り続ける」といった監督のねらいへ叶っている。
特徴ある作品だが、犯罪映画の典型たる物語はちょっとありきたりだ。
登場人物の行動にきっちり責任をとらせることが監督のポリシー。*4
だとするなら映画は、ベイビーの急速な転落で人生を劇的に見せ、責任をはたし、
犠牲のうえで真っ当な人間へ戻る再生物語なのかもしれない。
ただ、無法者でベイビーを転落させるためだけに登場するバッツ
(ジェイミー・フォックス)を代表に、キャラクターは単純だ。
※1 逃走車輛を運転する役目。つまりは逃し屋だ。
※2
このジョン・スペンサーの最初の口上をふくめ全部再現してくれます。
※3
映画で使用しているのはThe Champsの「テキーラ」ではなくthe button down brassの「テキーラ」。50秒前後から始まる音楽の打点で銃を撃つ。
※4 『ショーン・オブ・ザ・デッド』『ホット・ファズ』『ワールズ・エンド』でも最後に登場人物はなんらかの犠牲を対価に払う、あるいは、本編の罪を清算する。義父をなくしたり、後始末で始末書が必要だったり。
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