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2016年11月22日20:49

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『海皇様の海龍愛玩大作戦』第1話

 ポセイドンがカノンを幼児化して可愛がる話です。『海神の子』(全年齢向けhttp://mixi.jp/view_diary.pl?id=1956265572&owner_id=4632969)が暗い話だったので、口直しにコメディ路線のポセカノを書いてみました。
 ジュリアン(ポセイドン)とカノンの話はこちら。『倫敦三重奏』http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=3351082『鮫人の涙 土中の碧』http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=3390376『ボスポラスの夕べ』http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=3390443『森の奥で死者たちは泣く』http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=4114832『二つの宝玉』http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=5328347『海皇の悪戯』http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=6802338
 海界の都市ポセイドニアについては『ポセイドニア・コモーディア』http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=3455689『ハルモニアの首飾り』http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=3513947を参照。
 アケローオス河神については『ハルモニアの首飾り』http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=3513947『ドナウの白波 黄金の酒』http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=4939909『セクアナの泉』http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=4970379を参照。
 アケローオス河神と双子たちの話、全年齢向けはこちら。『執着と愛の境界線』http://mixi.jp/view_diary.pl?owner_id=4632969&id=1944928878『常識についての一考察』http://mixi.jp/view_diary.pl?owner_id=4632969&id=1946155592『時には愛の言葉を』http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=5848132『寝室のドレスコード』http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1950098945&owner_id=4632969『春蘭と秋菊の競艶』http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1950727023&owner_id=4632969『ラディッシュ』http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1956371836&owner_id=4632969
 

『海皇様の海龍愛玩大作戦』第1話

 11月23日の早朝。海界の中心都市ポセイドニアにある元首公邸の寝室で眠っていたカノンは、ばたんと扉が勢いよく開かれる音で目を覚ました。
「…んあ?」
 寝ぼけまなこをこすって起き上ると、寝室に入ってきたとある青年の姿が目に入った。
 それは、ソロ財閥の当主にしてポセイドンの依り代たる、ジュリアン・ソロだった。
「…ジュリアン?」
 なぜ彼が海界にいるのか、という疑問をカノンは眠気の残る頭に浮かべた。ジュリアンの背後ではやたらとうろたえているカノンの執事の姿がある。
「おお、シードラゴン!」
 その呼びかけに、カノンの意識は一気に覚醒した。この尊大で偉そうな小宇宙は…。
「ジュリアン…いえ、ポセイドン様!」
 依り代に降臨した海皇ポセイドンは笑顔を浮かべてカノンの寝台に近づいてきた。
「よしよし、可愛い姿になったのぉ」
 満足げににこにこと笑んでいる海皇に、は?とカノンが首を傾げる。
「うむ、実に可愛い」
 そう言ってポセイドンはカノンを抱きしめた。その途端、カノンは気付いた。
 ジュリアンの体にすっぽりと抱きしめられたカノンの体は、小型化していた。ジュリアンの肩越しに手をかざしてみると、それも小さくなっている。
「な、な、な…」
 抱きついたポセイドンから解放されたカノンは、改めて自分の姿を確認した。寝台の傍らに据えられた姿見の鏡に映るカノンの姿は、五、六歳ほどの幼児となっていた。
「なんですかーっ、これは!?」
 絶叫したカノンに、上機嫌のままポセイドンが説明した。
「実はこの前、アケローオス河神と話をしてのぉ…」

 ギリシャ北西部・アヘロオス河の河底にある自分の館で昼寝をしていたアケローオス河神は、従弟にあたる海皇ポセイドンの小宇宙の呼びかけで目を覚ました。
『おい、アケローオス』
「んあああ〜?」
 惰眠を貪っていた河の主が置きあがって頭をかく。
「…ああ、海皇陛下、お久しぶりです。ご機嫌麗しく…」
 一応は格上である海皇に礼儀正しくアケローオスが答えた。
『まだるっこしい挨拶はよい。それより、アケローオス…』
 海皇の小宇宙がどこか不機嫌そうな、腹立たしそうな波長でアケローオスに語りかける。
『おぬし、シードラゴンにやたらと懐かれておるな』
「…はぁ…」
 寝台の上に座り込んで眠気の残るまぶたを押さえながら、突然に一体何の用なのだと内心でぼやきながら河神が答える。
「まぁ…懐かれているといいますか、わがままを言われ放題しているというか、酒と飯を遠慮なくたかられているというか…」
 アケローオス河神はサガとカノンの母親の縁戚にあった関係で、双子たちが幼児だった時分に彼らのもとに顔を出しては「兄貴分」として何かと世話を焼いていた。双子が聖域に来てからは縁も切れていたのだが、「ハルモニアの首飾り」を巡る事件を契機に彼らと再会してから、河神は二人との交流を再開させた。普段は実年齢以上に気を張っていることが多い反動か、双子たちはアケローオス河神に会うと子供返りでも起こした様な態度を彼に取って、ふざけて「大兄さん」と呼んだりもしている。館に来ては飲み食いしたり、費用は河神持ちで外食や観劇に連れて行ってもらったり、と、カノンはいけ図々しく、そしてサガも遠慮がちな態度を示しながら結局は弟にならい、アケローオス河神に甘えているのだ。
『ずるいではないか!』
 海皇は声を荒げて河神を責めた。
「は?」
『ずるい!おぬしやアテナはシードラゴンに懐かれて…ずるいぞ!なぜシードラゴンは私には懐かないのだ!私など、あやつに話しかけると露骨に嫌な顔をされるのだぞ!私はこんなにシードラゴンを愛おしんでおるというのに…』
 そりゃ目を覚ますたびにセクハラしたり、余計なことをしてあいつの仕事を増やしているからだろう…と河神は思ったが、真正直にそのことを海皇に指摘したりはしなかった。彼だって逆らっても勝てない相手に喧嘩を売るような馬鹿な真似はしない。
『ああ、私もシードラゴンに懐かれたい!』
 ハンカチの端をぎりぎりと噛みしめるレベルで本気で悔しがっているらしいポセイドンに、呆れながらもアケローオスはどう答えようかと考えた。ポセイドンからの嫉妬を自分が受けるような羽目になるのは困る。
「はぁ、まあ…私の場合は、あいつが子供のころからのつき合いがありますから…」
 注意深く論点をずらして「カノンが自分に馴れ馴れしい態度を取っているのは、単に子供のころの怖れを知らない図々しさの延長であり、自分に特別の好意を持っているからではない」と説明しようとしたアケローオス河神の言葉は、ポセイドンに何かのインスピレーションを与えたようだった。
『おお、そうか!私も子供のころのシードラゴンを可愛がってやればよかったのだな!そうすれば私に感謝して、親しんで、懐くようになると…』
「………」
 河神が沈黙していると、一人で納得したらしいポセイドンは会話を打ち切った。
『うむ、良いことを聞いた、アケローオス。ではな』
 海皇の小宇宙が途切れて静かになった河底で、「…まぁ頑張れ」とアケローオス河神は無責任にカノンの健闘を祈って、昼寝を再開したのだった。

「…という次第で、お前を子供にしてみたのだ」
 にこにことカノンに言うポセイドンに、「この大馬鹿腐れ海皇野郎がぁぁぁ!」とカノンは怒鳴りそうになった。怒鳴りそうになったが、さすがに傍若無人を地で行くカノンといえども神であるポセイドンには遠慮があるので、実行はしなかった。海皇への不満の声はもごもごと喉の奥に飲み込まれた。
「…ポセイドン様、御意は分かりました。しかしジュリアンにも仕事がありましょう」
「それなら問題ない。ジュリアンは今日一日、高熱を出して寝こんでいることになっておる。ソレントに今日は誰も部屋に入れぬよう言いつけて番をさせておいた」
 ソレントもいい迷惑だな…とカノンは思った。もっとも「忠臣」ソレントとしては、ポセイドンに用事を言いつけられるのは光栄と思うかもしれないが。
「…私にも仕事がありまして…。いつまでもこのままの姿では困ります」
「明日には元の姿に戻してやる。今日くらいは私につき合うが良い」
 ポセイドンが宙に手をかざす。すると紙袋が一つ、出現した。
「体型が変わったゆえに衣服がないと思ってな。用意しておいた」
 カノンが渡された紙袋をあさる。中にはデザイナーズブランドの子供服が入っていた。変なところで手回しのいい海皇様である。
 カノンはやむなくサイズの合わなくなった夜着を脱いで、ポセイドンが持って来た衣服に着替えた。薄いラベンダー色のシャツ、青と灰色と白の横ストライプのセーター、濃紺色のジーンズである。ご丁寧に子供用の下着と紺と白のウォーキングシューズまで入っていた。どうやってポセイドン(の入ったジュリアン)はこれらを購入したのだろうとカノンは考えた。常日頃、ボディガードに取り囲まれているジュリアンには、自分の好きなように出歩いて買い物をする自由などないのだ。もしかしたら通販で取り寄せたのかもしれない。
 カノンが自分の選んだ服に着替えると、
「うむ、似合っておる。可愛いのぉ」
 と、ポセイドンは幼児カノンを改めて抱きしめてすりすりと頬ずりした。
 人間の都合など知ったこっちゃない身勝手さと傲慢さが、神の神たるゆえんである。一方的にカノンの本日の予定を決めた気まぐれでわがままな主君(仮)の行動力に、カノンは大きくため息をついて全てを受け入れたのだった。

(続く)

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