Met LV　 トリスタンとイゾルデ

Met新シーズンのオープニング作品で、東条さんのブログに早くも１１月５日付で
観劇評がのっており、いささか慌てました
というのは上映開始日が１２日だと思っていたからで、「ありゃ、１週間間違えたか」
で、Metの公式サイトで確認したら、やはり１２日からとのこと
５日は業界関係者だけを対象とした試写会なんでしょうかね

いずれにしてもワタシは業界人ではないので本日横浜ブルク１３に行って参りました

トリスタンとイゾルデは先日二期会公演を拝観したばかりですが、良い舞台だと
思ったものの、若干の不満が無かったわけではない（既に日記に書きました）
本日は口直しであります

まずは主役４人は言う事もありません
イゾルデを歌ったステンメは、これまでMet LVでトゥーランドットとエレクトラを聴いて
おりますし、ナマの舞台ではマルシャリンを聴いて、いずれも外れナシです
トリスタンを歌ったスケルトンは「名は体を表さず」、巨漢というより肥満体ですが
先日の二期会のように破綻を来すこともなく、終幕も瀕死状態からイゾルデを
迎えるところで、ちょうどアルフレートを迎えるヴィオレッタのように渾身の力で
歌い切りました（時折見せる笑顔がキュートです）

そしてマルケ王のパーペ様
もう、白の軍服を着て逆光の照明の中登場する姿からしてカッコいい！！
スタンディングではないにしても、あまり動きのない演技ですが存在感がただもの
ではありません（ケネス・ブラナー映画のザラストロの如し）
顔には袈裟懸けに切られた傷跡が残る強面で（どうでもいいけど、切った相手は
左利きだったんだろうな）、幕間のインタヴューでは「ハロ、ハロー」と思い切り低音
をアピールする茶目っ気もある

このマルケ王のために5100円（通常のMet LVより高い）払ったと言って過言ではない

ブランゲーネは役得ということもありましょうが、グバノヴァは第２幕でふてくされた
ような演技をするところまで、なり切っておりました

問題はクルヴェナールのニキティンで、音程は悪く一本調子で艶の無い声は、他の
キャストが優れているだけに全く不満でした
東条さんが「例の刺青事件」と書かれていたので、どういうことかとネットで調べたら
こともあろうにハーケンクロイツの刺青を入れてバイロイトを降板したらしい
やっぱりね、無神経なところが歌唱にも出ているのではありますまいか

サイモン・ラトルについては、これまで殆ど聴いたことがなく、フィデリオのＣＤを
持っておりますが、これがＳＡＣＤのせいなのか、コピーガードがかかっており
Walkmanで聴けないため、唯一のフィデリオも１回聴いたくらいなので
あまり演奏について云々できません

でも、重厚一本槍ではなく、息の長いクレッシェンドや、響に埋もれさせずいくつもの
モチーフを浮かび上がらせる気遣いは、やはり才能ある指揮者なのでしょう

東条さんも書かれているように、トリスタンが瀕死の重傷になるのは拳銃の暴発に
よる不慮の事故（まぁ撃たれても不思議ではない状況なので不慮でもないのでしょう
けれど）によるせいか、第２幕が終わった後ブーイングが出ました
それだけではなく、第３幕でラトルが登場した時もブーイングが起こりましたので
この演出を認めたマエストロに対する保守派の反感なのでしょうか

演出はMetで青髭公を担当したトレンスキで、映像に重きを置いていました
各幕とも前奏曲では背景にレーダー図が現れ（船だからソナーかな？）、これが
最終幕ではトリスタンの心電図になるあたりが工夫ですかね
その他、トリスタンは（少年期の子役も含め）ライターを弄ぶのが、意味があるらしい
（まさかイゾルデとのことは火遊びだと言うんじゃないだろうな）
あまりわかりやすいとは言い難く、でも最終場面で主役二人以外を遠ざけてオフ
ステージの歌唱としたことは、それなりに説得力がありました

ライヴヴューイングの宿命でしょうけれど、音響は録音によるものなのでライヴ感に
乏しく（ＰＡであることが強く意識されます）、第２幕の二重唱もイゾルデ用のマイクが
トリスタンまで拾ってしまって、はなはだバランスが悪い
これまた東条さんのご指摘通りでした

とはいえ、やはり一流の演奏によるトリスタンとイゾルデを気軽に（結構高額ですが）
聴けるのですから、有難いことであります

開映前の横浜ブルク１３の場内アナウンスで、「１１時からシアター１１でトリスタンと
イゾルデの２本を上映いたします」とあったのには大笑いしてしまいました
それにしても映画館でとはいえオペラですからね、ポップコーンを持ち込んでいた
観客が少なからずいたのには驚きました（これまでそういう非常識なことをしていた
のは若い人だったんですけどね）