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2016年08月21日23:39

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311から孵った庵野版ゴジラ。でも、結局、上辺で内向きな庵野映画の限界 『シン・ゴジラ』

休眠と活動を繰り返し、活動したとき周囲に甚大な被害をもたらす。
虚構的存在シンゴジラが311の象徴で、炉心融解した原発だというのは明白だ。
ゆえ最後に、あの長い腕の建設重機が凍結溶液を注入。
現在進行の格好で物語は終る。

鎌倉上陸、タバ作戦失敗、東京壊滅。
日本国内の情勢のみで物語が完結する中盤は本当にすばらしい。
14年の米国製ゴジラを圧倒する。

だが以後世界へ危機が拡大し、国連が東京に核を落す段階になると、
物語は途端に上辺をなぞる内向きの展開へと落ち込む。

被災で政府上層は消え、事態収束は矢口たち変人(異能)集団の凍結作戦にかかる。*1
凍結作戦では巨災対や自衛隊の“仕事”の描写へ集中。以外の要素を削ぎ落す。
割り切り方は良い。*2

ただ、課題や相手は国内だけではなく世界へと広がる。
ところが映画は巨災対の狭小な視点のみしか描写をしない。
「コネ」の「一言」で物事は回り、凍結溶液の増産は電話一つで解決し、
攻撃遅延の説得は大使に頭を下げ続ける臨時首相のカットのみだ。

国連の採決や各国の描写といった「相手」の視点を物語はもはや喪失する。
上辺だけ。中心のみしか描写されない内向きさ。*3
それが絶賛される「リアル」なのか? 疑問が残る。*4

各国の思惑や行動の様子、
被災した負傷者や死亡者が描写されないこともそうだ。*5

とはいえ、この上辺と内向きな文法は庵野作品お得意の手法だ。
それこそ庵野映画の限界なのであろう。*6


※1 ある意味では現場の礼賛。ある意味では「クリエイターこそ第一だ」と打ち出す監督そのままでもある。ただ、変人集団ゆえ閑職(かんしょく)へとあずかる彼等が(映画で津田寛治が“そう”いうしね)、はたして非常事態に産業分野や技術分野を説得するコミュニケーションとコネをもっているのか? この作品に不足しているのは集団のアイデアを周囲へとつなぐ“脇役”の人々の強い描写だ。

※2 本作は「仕事」と「虚構存在へどう立ち回るか」でできている。それ以外をいれたらば、ぶれてしまうだろう。

※3 人類趨勢の問題だというのに、その対話や交渉をやりとりする「世界」と「人間相手」の描写がないのだ。あっても彼等は非常に協力的か、上記でしめしたように相手を描写せず電話一本、場面一つで終る。(A) 「こちらの事情」しか描写をしない作品。(B) 「こちら」と「あちら」を描写し、ミックスさせ、やりあい、落し所を得る作品。どちらがすぐれているか? どちらが「内向的」で「外向的」か? 結果は明白だ。本作は前者だ。譲歩して解釈するなら、その「相手」を“虚構的ゴジラ”にしぼったともいえるが――。※6も参照。

※4 「日米安保」「国家自衛」「危機対処」を問題にすえるのはよい。ただ、この問題は日本の問題だ(9条解釈を含め。そもそも、まず本作最初の疑問は、どうして「9条解釈か?」ということだ。怪獣 = 人的関与存在ではない自然災害なら、首長すら災害派遣要請の決定ができる。治安出動ではない。ゆえ秩序保持の目的で武器使用も可能だ)。本題へと戻れば、たとえば石原さとみが「この国は愛されているわね」というが、はたして、その台詞や問題が、どれだけ世界の人々の共通感覚(コモンセンス)へと響くか? その間口の狭さ。間口の狭さ = 内向だ。一方、14年の米国製ゴジラは人間的ドラマを、はなればなれになった家族の愛へしぼり、より多くのパイをひろう。間口が広い。

※5 あまねく作品へ“配慮”は必要であって、負傷者や死亡者の欠如は“配慮”なのであろう(あるのは1回だけであった)。ただ、これが「リアル」というならば災害現場においてブルーシートの覆い、遺体搬送、救急車両の描写はあってもよかったはずだ。自分は、その“配慮”に逆に、表現の“逃避”を感覚する。

※6 冒頭で国連軍が使徒撃退に失敗し、全権は異能集団NERVへとゆだねられる。以後、「エヴァ」はジオフロントと第3新東京市の狭い範囲で人類存亡を描き、NERVの関係者の描写へ注力。世界と“それ以外”を切り捨てる。これが「エヴァ」の手法で、本作はどうか? 一緒だ。「エヴァ」の場合、登場人物の屈折した内面を描き、物語は、さらなる「内向性」をしめす。この内向きの手法の発明は、ある意味では天才的だ。物語の視点を収束させ集中させるからだ。でも本作の手法は一緒だ。まったくもってだ。結局、庵野秀明はそういう手法しかとれず、そこが限界で、同時に一部人々を熱狂へ巻き込む。


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