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2016年04月25日18:13

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【講評】2/24「煙草の無害について」「ねと☆ぼん」

2016/4/24、小平市ルネこだいらで行われました高校演劇多摩北地区のイベント「ルネこだいらPresents第21回春の高校演劇スペシャル」2日目(全日程2日間)出演校4校のうち、都立南多摩中等教育学校演劇部(上演作「煙草の無害について」)への講評を文字起こししました。



審査員(敬称略)

堀江辰夫(日本工学院講師、元関東高校演劇協議会顧問)
林成彦(不等辺演劇倶楽部主宰、特定非営利活動法人PAVRIC)



堀江:南多摩中等教育学校。この高野竜さんという人、僕は初めて知ったんですけど。どの辺にいるんですかね、皆さん。あ、そこにいる。それで、高野竜さんという人は埼玉県の人らしいんだけど、どこでこの人に出会いました?ていうかこの本に出会いました?
ひなた:ツイッターで。
堀江:あ、ツイッターで。
ひなた:(マイクないため聞き取れず。出演者募集に応募した旨述べる)
堀江:それで出たのあなたは。
ひなた:来月出ます!
堀江:あ、そうなんだ。埼玉県でなんかフェスティバルみたいなのあんの?
ひなた:是政のカフェで。
堀江:カフェで。あの方は色んなとこでやるみたいですね。庭でやったり、どっかの部屋の片隅でやってみたりして。そうか出るんだ、なるほどね。もうちょっと訊きたいのは、この「煙草の無害について」というの、あなたたちが「やりたい!」と思った筈だよね。「ねと☆ぼん」ていうのも。これを「やりたいなあ」ていうのはどの辺だったんですか。
ひなた:(聞き取れず。お年玉でもらった旨述べる)
堀江:お年玉。あ、ほんと。もらったんだけど、でも「やりたい」ていうのはなに?なんかあるんでしょう。
ひなた:(聞き取れず。読んで面白かったからと述べる)
堀江:そうかそうか。あなたの中になにか起きてたんだね。なんでこう突っ込んだこと訊いたかっていうとね、普通読んだら、これ高校生が面白いと思うかどうかって僕分かんないんですよ、今日脚本読みやろうねって思った時にさ。このネタ「煙草の無害について」っていうのは承知の通りチェーホフのボードヴィル、短編集みたいなのの中の「煙草の害について」なのね。煙草の害っていうのは、実は奥さんのことなのね。奥さんの害についての話なんですよね。これをパロディ化してこういう風にやったのね。良くやってんですよ。良くやってるんだけど、どっかね、このネタが、なんか合ってんのか?サトウキビの搾りかすみたいなの持ってきた時、あれってなに狙ってんだって思ったりしてね、この人のネタについては僕サッと落ちないのね(※1)。みんな良くやってるんだけど、ほんとの意味で、体にセリフが入ってないみたい。なんとなく、セリフを言わされてる。稽古不足かも知れないんだけど、ほんとのあなたたちの肉体・心から魂を通ってセリフが出てきてない。なんとなく座り心地悪いみたいな感じでね、一所懸命やってるんだけどなんかこう落ち着かない。同じことがね、次の漫才ね、これもすごい良くやってるんですよ、ほんとどちらもうまくやってるし、クオリティいいし、クスクスクスも笑いましたよ。だけど、これ映画ネタだよね、あなたこれ見てるの?これ知ってる?
ひなた:予告編だけ。
堀江:だからなんかね、僕が知らないせいかなあと思いながら、想像ができないんですよ。笑わせようとするんだけど、その映画が浮かばないもんだから、結構つらかったんですよほんと言うと。あの子たちは「絶対楽しい!」つってやってるんだけど、つらかったんですね、自分がよく分からないから。僕が悪いんだけど。ただ、もっと言うとこの漫才は、笑わせることを狙ったんだとしたら笑わせなきゃいけないよね。笑わせる気になるんだったら本気でバカにならなきゃ。関東の人がちょっと笑い取って大阪行ったら全然笑ってくれへんとかいう現象があってね。僕去年の夏大阪の審査行ったんですよ。彼・彼女たち、すごいエネルギーっていうかバカになるっていうか、身を投げ出してくるから、もしかしてそこまで行くと笑いは取れる。笑いを取るにはもうひとつあなたたちは突っ込んで身を投げ出すっていうことやらないと。ネタはもしかしたらみんなのネタに持ってこないと無理だったかも知れない。今の映画ネタに持ってこないと。作者の許可必要とするんだろうけど。ちょっとそういうもどかしさっていうのがありまして、みんなの情熱っていうのに対して僕の方が充分見切れなかったのがつらかったですけど、ただ皆さんの新しいものにチャレンジして、聞いたらあなたまた出演する?そういうのも素敵ていうか、僕も新しい情報・刺激をいただきました。ありがとうございました。

林:南多摩中等教育学校の皆さん、お疲れ様。堀江さんと僕はたぶんだいぶ受け止め方が違うんです。僕これ傑作だと思って見てました。二本立てですよね。二本合わせてこの作品でものすごく強い愛を描いてるというか、強い愛を表明してる人の人間らしさというか愛らしさというかちょっと変わった感じみたいなのが、このふたつの作品合わせて舞台から伝わってくるなあって思いました。前半の「煙草の無害について」はなにに対する愛かっていうとおそらく演劇についての愛でしょうしチェーホフという過去の大劇作家に対する愛ですね。で後半に関しては映画に対する愛でありエド・ウッドという監督に対する愛なんだろうと思うんですよね。愛があるからこそすごく細かいところまでこだわっていって気にしたり語ったりして、そのすごく気にしてる様子みたいなのが「なんでそんなにこだわってるの」みたいにちょっと離れたところから見ると見えてくる。その人間味みたいなのが全編通じて感じられたのがすごくいいなあと思いました。僕はそんなにチェーホフ詳しいわけじゃないし、演劇と較べるとそんなに映画は見ないしエド・ウッドのこの作品も見てないので、この人たちそんなにこれ好きなのか、みたいな感じで、共感するっていうよりはその偏愛ぶりみたいなのが面白かったですし、一方じゃあ自分は、例えば僕は高校演劇が好きなので高校演劇だったら3時間でも4時間でも語りますし、高校演劇こういうところが気になってるんだよねみたいなことも熱く語ったりするわけですけれども、そういう様子って端から見たらたぶん滑稽だったり変な人に見えたりするんだろうなあ、みたいに思えたのがすごくいいなあって思えました。
まず「煙草の無害について」に関して言うと、冒頭の曲が良かったんですね。ヒゲダンスのテーマですよね。なんでこの曲チョイスしたのかなあって思ったんですよ。僕が思うに理由はふたつあって、ひとつはこれ笑っていい作品なんですよってことを観客に提示したかったんだろうなと。あともうひとつは「鼻ヒゲがないんだ」みたいなことが作品の中で後半テーマになるじゃないですか、てことはヒゲダンスやってた志村けんと加藤茶は鼻ヒゲがあるから嗅ぎ煙草吸ってなかったんだろうなみたいなことをちょっと想像させたかったのかなとかね。そんな仕掛けがあの曲にあったに違いないことをあとで気づいて面白かったですね。マイクにスリッパが架かってるのも、なんか狙いがあるんだろうと思いながら見てたんですがあれに関しては僕の中ではこれはっていう明確な答えは見つかりませんでした(※2)。マーシャの語り口が面白いなあって思いました。いちばん最初のセリフをしゃべったりとかして重要な役どころになっているんですけれども、落ち着き払っていることが逆に面白いみたいな味わいが出ていて、たぶんそういう演技っていうのはチェーホフの作品の中では重宝されるんだろうなあみたいなことを想像しながら見ていました。あと皆さんの会話の中で、まずチェーホフの煙草の害についてっていう台本をやることに決めて、次に演出方針を自分たちで考えていて、この演出方針を語り合うっていうところが本編なわけですけど、方針が決まらないと配役も決まらないみたいに考えていっているその話の筋道が正しくていいなって思いました。僕も演劇を始めたばかりの頃チェーホフの「ワーニャ叔父さん」をみんなでやって、じゃどういう風にやるのかを話し合い、話し合わないと役決まらないよなあみたいなことを、やっぱり皆さんとおんなじような流れで作品作りを進めていたし、そして100年も前の作品なのでこれどういう意味なんだろうなみたいなのをやっぱり色々考えたんです。なので皆さんのセリフの、「もうちょっと奥がある」みたいな言葉が僕にはものすごく刺さったというか、そうなんだよそうなんだよ確かにそうなんだよ、それ以外の演劇の作り方も認めるけど俺が最初にやったのはこうだった、みたいなのを思い出させてくれたのが良かったなあ。嬉しかったですね。あとオリガの突っ込みがですね、すごいセンス良く、「セロ弾きのゴーシュか!」とかすげえなとか思いました、ものすごいボキャブラリーだなと思ったり。あと役の名前でオリガ、マーシャ、イリーナていうのが出て来てますけど、「三人姉妹」の三人姉妹の名前ですが、これおそらくこの演劇部の人たちのニックネームだろうなって思って、どこまでこの人たちチェーホフ好きなんだっていうのが感じられたのが…本名じゃないですよねこれ?ほんとにオリガっていう名前の3年生じゃないですもんね。だけどお互いのことオリガとか呼び合ってるのは…あ、そうか、じゃ、もしかしたら以前三人姉妹を上演していて、その時の役の名前を呼んでるっていう可能性もあるのか!(※3)なんかチェーホフ愛みたいなものがそういうところから透けて見えるのも良かったですね。欲を言うと、オリガとマーシャふたりのシーンがあって、そこにイリーナが大きい二宮金次郎的なものを持って現れる。そこで、それまでふたりが作ってた空気みたいなものがもうちょっと変化するといいなあっていう気がしました。学年でいうと2年生3年生の方が位が上なのでその空気に1年生が染まるっていうのはまあ自然かも知れないんですけれども、演劇の構成上、3人目が入ってきた時にテンポがすごくアップするとかね、そういう変化があってもいいのかなって思いました。3人目のイリーナが大きく動いていて、動きの面ではテンポつけてるってのは分かったんですけども、おそらく見え方よりも「聞こえ方」のほうがチェーホフの場合だいじなんじゃないかって思ったんですよね。そこが前半部分のちょっと惜しいなって思ったところかな。
後半なんですけど、これまた笑点の曲で始まって、ゼッタイ笑って下さいね、笑う芝居ですからみたいな提示が曲であって、そして一本目の煙草の無害についてとは明らかに違うテンポで入ったのが良かったですね。この作品は僕にとってはすごく考えさせられる材料だったというか、皆さんがやってるのが漫才なのか、漫才の演劇なのか。漫才をやってる人たちを演じてるのか、それとも漫才がやりたいのか、どっちなんだろうみたいなことを考えながら前半部分を見ていて、その考えたという事実が僕にとって面白かったですね。僕の中での結論は、これは漫才ではなくて、漫才をやってる人たちを演じてる演劇、もっと言うと漫才の形式を借りて映画に対する強い愛、エド・ウッドに対する強い愛を語ってる人たちっていうものを演じてる演劇だって、僕の中では結論はついたんですけど、漫才なのか演劇なのかを考えたってのが良かったです。僕はよく演劇のワークショップをやって、課題の中でジェスチャーゲームっていう、お題をあげてグループワークでこのお題を全員で体で表現して下さいみたいなことをよくやるんですけど、ある時相撲っていうお題を出した時に、はっけよいのこったみたいな感じでやってたんですけど、これって相撲ジェスチャーじゃなくて相撲じゃないか。相撲そのものなんじゃないかっていう疑問が湧いた時とおんなじような疑問が皆さんのを見てて思ったのが僕にとってはすごく面白かったですね。
前半はその場にいないチェーホフについて強い愛を語り、あたかもチェーホフと対話をしてるかのような対話劇でしたし、後半はその場にいないエド・ウッドという人物について、エド・ウッドに聞かせたい、エド・ウッドとしゃべりたいみたいな、エド・ウッドに対する対話劇みたいに構成されていて、これやはり2本続けて見ることに意味があるんだろうなあという風にも感じました。もしかしたら順番は逆でも見てみたかったっていうのは僕にはありますけど、そういう意味ですごく面白かったですね。僕からは以上です。





※1:タバコ以外の原料による疑似タバコ製造についてはサトウキビをモデルに石垣島在住のかたが特許を取得しておられます。
※2:團伊久麿「パイプの煙」の「スリッパ」の章に答えがあります。渾身の引用だったんだが無理があったか。
※3:大当たりです(笑)。

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