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2015年10月27日13:35

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藤田嗣治の全戦争画をみる

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先日の上京時、わずか1時間だけでしたが
東京国立近代美術館へ行ってきました。
戦後70年にあたる今回の常設展では
洋画家・藤田嗣治が描いた戦争画14点すべてが
はじめて同時公開されています。

ときどき彼の戦争画を目にしたことがありましたが、
全部を見られるとは千載一遇の機会と考えました。
基本的に私は反戦を支持しています。
しかし、どんな思いで高名な洋画家が戦争画を描いたのか
興味がありました。

藤田嗣治は乳白色の裸婦像や猫の絵が特徴で、
人目で彼の作品だとわかる作品が多いのですが、
戦争画となると、彼の一般的な画風はなく、
大胆な構図かつ細密描かれています。

藤田がかなり真剣に戦争画に取り組んでいたかは
作品から感じられるのめり込み度やエネルギーで
すぐに知ることができます。
また「国のために戦う一兵卒と同じ心境で描いた」
という言葉からも意気込みが感じられます。

『アッツ島玉砕』という作品は、
どす黒い茶褐色の大画面の中に、
日米軍の血みどろの肉弾戦が描かれています。

また『サイパン島玉砕図』という作品は、
米軍に攻めこまれ、非戦闘員の日本人さえも
崖から飛び降りたり、自決する姿などが描かれています。

これら2作品が特に印象的でした。

展示室には資料が置いてあり、
藤田の戦争画にはヨーロッパの名画の影響が
いろいろ見えかくれしている旨が記されていました。

たとえば、『アッツ島玉砕』の日米の兵士が刺しちがえるシーンは
ヴァチカン美術館にはるジュリオ・ロマーノ画の
『ミルウィウス橋の戦い』の中に
それと瓜二つの図像があるそうです。
ヴァチカンに行ったことがありますが、全然、覚えていないw。
その他、レオナルド画のデッサンとの類似なども指摘されていました。

私は『アッツ島玉砕』から
バロック絵画的なうねりのような印象を持ちました。
エル・グレコの絵画にも通じるでしょう。
また兵士が倒れ、折り重なり、埋もれる姿が
悲劇の曼荼羅のようにも見えてきました。
残酷な姿をありのままで描くのは
ヨーロッパ的な感覚と言えるのではないでしょうか。

戦争画の目的はプロパガンダであり
戦意高揚と悲劇讃美であるという点では
藤田の作品はかなり成功していると思います。
「玉砕」という軍部にとって都合がよい言葉、私は嫌いですが…。

藤田の戦争画は
かなり芸術のレベルまで高められているものだと思うし、
決して、見てはいけないものとは思いません。
しかし戦争画の展示には細心の注意が必要だと思いました。
要らぬ誤解をされないように。

藤田の戦争画は、戦争の悲惨さを
リアルに伝えているには十分であるし、
戦後生まれの私ですが、
二度と戦争はしてはいけない
という気持ちになりました。

戦後、藤田は軍部に加担したという濡れ衣を着せられ、
日本画壇を追われたそうです。
逆にそれが彼にとっても、後世の私たちにとってもよかったかも。
結果的には日本の画壇と縁を切ることで、
遠い異国で自分の芸術を熟成させることができたからです。
洋画家として彼ほど世界的に成功した人はいないと
私は考えています。
彼の作品が好きかどうかとは別の話ですけどね。

(下の画像は、展覧会のチラシの裏側です。)

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