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2015年09月22日00:45

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『常識についての一考察』第7話

 双子女体化ネタの後半です。
 この話のオチは、「ハーデスが一番常識的」ってところ。まぁ、ギリシャ神話ではハーデスは「最も理性的な神」だからなぁ。他の神々がぶっ飛びすぎているともいうが…。
 ちなみに『オデュッセイア』には、ポセイドンが気に入った女の子を騙して手籠めにして、「神との閨が実を結ばぬことはないのだ」と一発で双子(ペリアスとネレウス)を孕ませる様子が描写されてます。

『常識についての一考察』第7話

 ホテルのバーで女になったサガと対面したカノンは、盛大に噴き出した。
「サ、サガ…、お前、本当に女に…」
 そうして肩を震わせていたカノンだが、やがてこらえきれず、腹を抱えて大笑いした。
「あっははは、はははは!本当に女になってやがる!なんだ、それ!あはは、ははは…ひー苦しい…」
「カノン…」
 机を叩いて笑い続ける弟に、サガは憮然とした顔をした。バーにいた他の客たちも、笑い声に何事が起きたかとカノンたちのほうに視線を送る。
 いつまでも笑い転げている弟の様に怒りを覚えたサガは、立ち上がってテーブルに手をついて身を乗り出すとカノンに抗議した。
「そんなに笑わなくてもいいではないか!私はこんな姿になって、本当に困っているのだぞ!背だって低くなったし、手足だって短くなったし、筋力だって弱くなったし、衣服だって風呂だってトイレだって…それなのに!」
「いや、悪ィ…でもその姿…、…ぶっ…くくく…」
 笑い声をおさえはしたが、それでもカノンはしばらく笑い続けた。やがて笑いの発作が治まると、カノンは大きく息をした。
「あー…おかしかった…。でもいいじゃないか、その姿。可愛いぞ。スタイルも良いし、モデルも顔負けの美人だな」
「そんな風に言われても…嬉しくない」
 座ったサガはむっとしたような顔になった。
 サガが着ている衣装は女性用のニットセーターとパンツ姿だったが、これはアテネ市に出かけるというので、聖域内の他の女性から借りたものだ。サガも現代風の衣装は何着か持っていたが、それは当然のこととして全て男性用であり、女の体になって小柄になった今のサガにはサイズが合わなかった。
「…で、さあ…。もう元には戻れないのか、サガ?」
「分からない。壊れた祠は復旧させたが、ニンフの呪いが解ける気配はないし…。どうやったら呪いが解けるのか…。アケローオス様が教えてくださったのだが、ニンフの怒りは相当なもので、アケローオス様でもなだめるのは難しいのだそうだ。今まで誰も自分を祭る者がいなくなっても、それでも聖域を守ってきてやったのに、よりによって黄金聖闘士が自分にこんな仕打ちをするとは何事か、と…」
 カノンが隣でボウモアをロックで飲んでいるアケローオスに視線を送る。
「アケローオス、あんたさぁ…サガが女のままでいるほうが都合がいいから呪いを解くなとか、こっそりニンフに言いつけたりしてないか?」
「そんな真似はしていない」
「ああ、そう。でも早速、サガにプロポーズしたっていうし…」
 くつくつとカノンが笑う。
「断られたがな」
「ざまあみろ。しかし本当に手が早いよなぁ、あんた」
 笑いながら、カノンもグレンモーレンジの水割りを口にした。
「まあ、あんた、昔から『サガが女だったらさらってでも嫁にする』って、いつも冗談みたいに言ってたものな。当たり前といえば当たり前の行動か…」
 そうしてカノンは額を押さえ、少し暗い表情になった。
「おれは…一度もそんな風に言われたことなかったな…」
「お前はおれを嫌っていただろうが。お前にそんなことを言ったところで、蹴りを喰らっていたのがオチだ。それが分かっていてなぜ求婚せねばならん」
「今なら…どうだ?」
 妖しく笑いかけ、カノンはアケローオスの肩に手をまわして彼を引きよせた。
「今なら…おれが女になったら、求婚してくれるか?」
「お前が望むなら、してやるよ」
 アケローオスはそう答え、軽いキスをカノンの唇に与えた。
「おれとサガと両方が女だったら、どうするんだ?」
「その時は二人まとめて妃にしてやる」
「正妻にできるのは一人だけだろう?」
「どちらを正妃にするかは、くじ引きで決めればいい」
「いい加減な奴…」
 そう笑ったカノンは河神の首筋に両手をかけて、彼に深々と口づけた。
「それで…」
 口づけを終えたカノンが、アケローオスの胸にすり寄って甘えながら言葉を続ける。
「サガにお前とアイオロスの子を産ませたいって…本気か?」
「本気だ」
「ふ〜ん…」
 カノンが兄に流し目を送る。
「サガ、お前、心まで女になったのか?」
「そんなわけはない。体はともかく、私の精神は元のままだ」
「それでよく子供を産もうなんて思ったな」
「うん…」
 そうしてサガはうつむき、考えをまとめて話し始めた。
「最初はあり得ぬことだと思ったけれど…。でも私とアイオロスの子を残せるかもと思ったら、二人の愛の証を形にできるかと思ったら…、その、産んでみたくなったのだ。それに、私が人であるということは、アケローオス様を置いていつか死ぬということだ。私が…私たちが死んだら、アケローオス様はきっとものすごく悲しまれるだろう。もしその時、アケローオス様との子を残せて差し上げていたなら、その子が、その子が死んだあとはその孫が、孫が死んだあとはその曾孫が…そうして子孫がずっとアケローオス様に寄り添ってくれるのなら、それはアケローオス様にとって慰めになるのではないかと、そう思って…」
 そしてサガはカノンに戸惑うような視線を向けた。
「お、おかしいかな、私。体が女になったことで、心のほうにも影響が出たのだろうか…」
「まぁ、いいんじゃないか。お前が産みたいと言うのなら、産んだら」
「カノン…、お前は、反対はしないのか?私が、アケローオス様とアイオロスとの間に子を設けることについて、お前はどう思う?」
「う〜ん…」
 カノンは前髪をかきあげ、天井を仰いだ。
「…おれは男だからな。アケローオスとは結婚できないし、まして子供なんて産めない。まあ、仮に女になってもごめんだけど…。だからお前が産みたいというなら、おれの代わりにこいつの子を産んでやってくれよ、兄さん」
「カノン…」
「ああ、でもそれは、あくまでおれが子供を産めない代りだからな。男より女が好きだから女になったサガの方がいいとか、サガが自分の子を産んでくれたからとか、そんな理由でサガをエコひいきするなよ、アケローオス」
「心配するな。サガが女になろうと子供を産もうと…今まで通り、ちゃんと平等に愛してやる」
「ふふ…」
 そうしてアケローオスとカノンは改めて口づけをかわした。
 サガが女の体になったことは、本質的に男性よりも女性を好むアケローオスにとっては、歓迎すべきことだったのだろう。彼はしげしげと聖域に姿を見せ、サガのもとに通ってその女体を愛していた。そしてサガのもとに通うということは、「サガとカノンを平等に愛する」という彼の義務に基づき、カノンにもせっせと声をかけねばならないということだった。結果、以前より頻繁にアケローオスに求められるようになったカノンは、そのことに一応の満足を見せていた。代わる代わる双子の夜の相手を務めるアケローオスの姿に、「あなたも大変ですね」とアイオロスは同情半分、苦笑半分に声をかけたほどだ。
「サガ」
 と、カノンが目を細めて兄を見た。
「女になったお前の体…見てみたいな。おれにも見せてくれるよな」
「…うん、カノン。全部、お前に見せるから…。今夜、一緒にアケローオス様に愛していただこう」
 そう答えたサガは弟の手をそっと握った。

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