将棋界には、プロ棋士になるための「新進棋士奨励会」という機関があります。全国各地の将棋トップの子供達が集結し、プロ棋士になるために切磋琢磨する。その門は東京大学に入るよりも難しいと言われ、さらにその中からプロ棋士になれる人は、ほんの僅かです。
「電王戦Final」第5戦の将棋ソフト「AWAKE」の開発者・巨瀬亮一氏は、そんな奨励会に所属していたプロ棋士の卵という経歴を持ちます。子供の頃から「天才将棋少年」と言われ、大人にも恐れられる将棋の神童。2002年、満を持して奨励会に入り、進学も捨て「自分はプロ棋士になる」と将棋一本に邁進してきたそうです。
しかし、そんな彼でも、将棋界の厳しさは想像を絶しており、「周りはもっと強い」「どんなに頑張っても強くなれない」と苦悩の日々。結局、6年間の切磋琢磨も実らず退会することに。
退会届を出す日、母親に「もう少し頑張ってみれば?」と声をかけられたものの
と、返したそうです。そして、自分の全てだった「将棋」を辞め、無となった彼は、途方に暮れていたそうな。
しかし、そんな彼が将棋ソフトを作って帰ってきた!!
↑コンピュータ側予選「電王トーナメント」に優勝し、コンピュータ側・総大将となる。
「電王戦Final」。第4戦にて、対コンピュータ将棋の第一人者と言われていた村山七段が、怪物「Ponanza」に完敗。プロ棋士はついに2勝2敗の五分に戻り、「コンピュータ vs 人類」の結末は、最終・総大将戦に託されました。
電王戦Final 第5戦 阿久津主税八段 vs AWAKE
しかも最終戦の舞台は、プロ棋士の総本山・千駄ヶ谷「将棋会館」。コンピュータ側予選で、怪物「Ponanza」に唯一の黒星を付け、総大将となった「AWAKE」の開発者・巨瀬氏は、8年ぶりにこの門をくぐる事になったと言います。
何という運命!!
2015/04/11(土) 朝10時。ついに人類の威信を賭けた、最後の戦いが始まります。序盤の数手は定石通りに進むものの、そこから阿久津八段が奇妙な手を打ち始めます。
解説「どうもコンピュータを研究した秘策のようですね」
阿久津八段が謎の手を打ち続ける。その次の瞬間、コンピュータが大駒「角」をタダ同然で捨ててしまう手を打ってしまう。阿久津八段が仕掛けた罠にハマってしまったのです。それに対し、阿久津八段が作戦通りという手で返すと
巨瀬氏「ここで投了します」
ゑーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!
解説「え、ちょっと。投了ですか!? あ、電王手さんがお辞儀し始めました…」
わずか21手、開始49分で、最終戦はコンピュータ開発者の意志による投了で幕を閉じました。別室は騒然、記者会見をしようにも記者が来ていないw 「記者会見は18:00から予定しています」って9時間後かよwww
この序盤で大駒「角」を失うと、プロ棋士相手に勝てる可能性はほぼゼロ。ここから無様なコンピュータ将棋を見せる必要はない、将棋に精通する元奨励会の巨瀬氏らしい判断とも言えますが、その後の会見で
巨瀬氏「プロ棋士がハメ技を使うとは思っていなかった」
と
怒りをあらわに。
そう、実はこの手は、コンピュータ将棋にはありがちなミスを誘った手らしく、人間なら一見して悪手とわかるものの、実際に盤面上で不利になるのは十数手先のため、コンピュータは目先の有利を優先し、読み抜けしてしまう事が多いパターンだそうです。
阿久津八段も「AWAKE」との練習試合をし始めて、2、3日目には発見していたそうで、同僚の棋士達に「こんなの見つけちゃったんだけど、どうしようかなぁ」と話していたそうです。
そして、そのプロ棋士達の噂が漏れたのか、今年2月に行われた「AWAKEに勝てれば100万円」という企画で、アマチュアが同技を使用して「AWAKE」に勝ってしまうという珍事を起こし、将棋ファンの間にも知られる事となりました。
当の開発者・巨瀬氏は、この2月の企画でアマチュアに負けた時に、初めてこんな読み抜けがあることを知ったそうですが、電王戦は「プログラムの修正は不可」というルールのため、このまま最終戦を迎えることになったと。
阿久津八段「自分が勝つ可能性が高い戦術をとりました。終わるのが早いとは思いましたが」
と語ります。既に人類が勝ち越した状態で最終戦を迎えていれば、この戦術を取ることはなかったかもしれませんが、人類の威信を賭けた電王戦Final、しかも崖っぷちの2勝2敗。「プロ棋士はコンピュータより弱い」というレッテルのまま終わってしまえば、将棋界の存在意義にも繋がる。是が非でも勝ちに行くという、勝敗を優先した決断だったと思います。
また、阿久津八段によると「このパターンにならないこともある」との事で、今回も、もしこの誘い技が失敗しても、普通に対局を進められるように準備した陣形だったと。実は、第4戦「Ponanza vs 村山七段」でも、村山七段が別の誘い技を使ったものの、不発に終わっていたそうで、今回は運良くハマってくれたそうな。
それでも、納得がいかない巨瀬氏。やはり元奨励会員だからなのか、武士道を重んじるプロ棋士の世界を目指していた彼が、「理想の棋士像」とは無縁のハメ手に負けた怒りが収まらないというところでしょうか。ガックリと肩を落とした姿は、負けた事以上に
「また将棋に裏切られた…」と言わんばかり・・・。
↑投了直後。肩を落とし、目に涙を浮かべながら、質問に答える巨瀬氏。
一般人の我々から見れば「勝負なんだから勝ち負けが第一」「弱点があれば、それを狙うのは当たり前」で済むところでしょうが、そこはプロ棋士たちの
「武士道」という、我々には計り知れない何かが有るのかもしれません。
異例の結末を迎えた終戦後の記者会見では、様々な意見が飛び出し「そもそもコンピュータと人類が戦うこと自体が間違い」などという意見まで。何が公平なのか、何が正しいのか。
ただ昨今、人工知能が話題となり注目されている中、その最先端を走っていた「電王戦」から問題定義を起こせたのは有意義だったという事で、結論付けられていました。
そして、巨瀬氏はまさに
「将棋に呪われた男」なのかもしれません。これも人生。
という事で、これにて約3年間に渡る計4回の電王戦は終了。今回の最終戦もでしたが、結局、コンピュータ将棋と言っても、「人(開発者) vs 人(プロ棋士)」のドラマで、それが数々の感動を与えてくれたんだと思います。エンターテインメントとしても、最高の将棋でした。
そして、かつて将棋が好きだった私に、将棋の面白さを再度思い出させてくれた事が、「電王戦」の最大の功績だと思いますw お疲れ様でした!!
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