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2014年12月06日16:45
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同床異夢のホールディングカンパニー制度 安倍政権が本年6月に閣議決定した「日本再興戦略(改訂2014)」には、「医療・介護等を一体的に提供する非営利ホールディングカンパニー型法人制度(仮称。以下、ホールディングカンパニーと略)の創設」が盛り込まれました。それ以降、医療関係者から、この制度にどう対応すべきかについて質問されることが多くなりました。それに対して、私は、大要以下のように答えています。 <ホールディングカンパニーは、2013年8月の「社会保障制度改革国民会議報告書」でも提起されています。ただし、報告書では、「地域における医療・介護サービスのネットワーク化を図るためには、当事者間の競争よりも協調が必要であり、その際、医療法人等が容易に再編・統合できるよう制度の見直しを行うことが重要である」とされ、そのために「非営利性や公共性の堅持を前提としつつ、機能の分化・連携の促進に資する」制度改革の一例として、ホールディングカンパニーが示されています。 それに対して、「日本再興戦略」のベースになった「産業競争力会議医療・介護等分科会中間整理」(2013年12月26日)のホールディングカンパニーは、「アメリカにおけるIHN(Integrated Healthcare Network)のような規模を持ち、医療イノベーションや医療の国際展開を担う施設や研究機関」という巨大事業体まで含んでいます。これは社会保障制度改革国民会議が想定しているものとはまったく異なり、両者は同床異夢です。ホールディングカンパニーの具体化は、厚生労働省の「医療法人の事業展開等に関する検討会」で検討されていますが、そこでも議論は錯綜しています。同検討会は年末までに結論を出すことになっているので、医療機関はそれを待って対応を考えればよいでしょう。> 10月10日の上記検討会で、厚生労働省は、「地域包括ケアシステムを実現するためのマネジメントの受け皿となる法人」の「選択肢」として、「地域連携型医療法人」を提案しました。これは、国民会議報告書が提起したものの具体化と言えます。 しかし、医療関係者等の中には、産業競争力会議の松山幸弘氏(キャノングローバル戦略研究所研究主幹)が提唱している年商1兆円規模の「メガ医療事業体」の創設を政府の既定の方針と誤解し、「住民を囲い込み、グループ以外の医療機関等は淘汰される」、「米国のような病院チェーンが日本に参入する地ならしになる」等の「地獄のシナリオ」を語る方が少なくありません。 そこで、本稿では、日本では、「メガ医療事業体」の創設はありえないことを示します。ホールディングカンパニー全般については、上記検討会の報告がまとまった段階で、改めて検討する予定です。 「メガ医療事業体」論とそれへの批判 松山幸弘氏は、いろいろな場で、日本でも、アメリカの巨大IHNに比肩できる「メガ医療事業体」の創設が必要であることを、精力的に主張しています。例えば、厚生労働省の第3回上記検討会(2013年12月4日)で、大規模医療事業体は「医療の質向上とコスト節約を同時達成するための必須要件」として、「医療産業集積の核となりうるメガ非営利事業体(IHN)の創造」を提案し、それが「少なくとも2、3カ所できれば、海外[のIHN]と対抗できる」と主張しました。 さらに松山氏は、持分のある医療法人は営利事業体であり、それらが「複数集まりホールディングカンパニーを形成することは、ほぼありえない」と、国民会議報告書の提案を否定し、「ホールディングカンパニー機能を与えて改革するメインターゲットは、公的セクターの病院群である」として、「国立大学から附属病院を分離」し、「大学より大きな医療事業体を創る」ことを提唱しています。ただし、松山氏もこのような「Mayo ClinicやUPMC[共に年収1兆円規模]と競争できる大規模医療法人」は「2つないし3つあれば足りる」として、「地域包括ケアの中核事業体」としては、「担当医療圏人口約100万人、事業規模1千億円が標準」であり、「約100の中核事業体IHNを創る余地がある」とも主張しています(『Monthly IHEP』2014年3月号)。 日本の医療提供体制の現実も歴史的特徴も無視して、アメリカ型のメガ事業体の移植を主張する松山氏の壮大な(?)提言には驚かされます。しかし、上記第3回検討会では、松山氏の主張に賛同する委員は皆無であり、逆に、橋本英樹委員(東京大学大学院医学系研究科教授)から、次のような本質的批判を受けました。(1)松山氏の想定しているIHNはアメリカ国内の動きとしても「かなり古いタイプ」、(2)アメリカのメガIHNの主たる収入は「医療本体そのものよりは臨床治験、新薬開発のところで、オープンラボを動かして、企業からたくさん[委託研究費として]お金が入るようになっている」、(3)「[アメリカと日本では医療の]価格が全然違う」。松山氏自身も、(3)については、「確かにおっしゃるとおり」、「[日本と異なりアメリカでは]医療機関側が値段を決める」と認めました。そのため、その後の厚生労働省の検討会では、松山氏の提案は一顧だにされなくなりました。 なお、松山氏が「日本版[巨大]IHN」を最初に提唱したのは『人口半減日本経済の活路』(東洋経済,2002)であり、そのときには「最有力候補は九州大学のある福岡」と主張しました。実は、私は、1998〜2000年に、「[日本の]複合体と[アメリカの]IDS(Integrated Delivery System。松山氏のIHNと同義)の日米比較研究」を行い、IDSは規模と機能の両面できわめて多様であることを明らかにしました(『21世紀初頭の医療と介護』勁草書房,2001,第V章)。この点から見ると、松山氏が紹介しているIHNは、アメリカ国内でも例外的な、超巨大例(「最高度統合システム」)です。 病院統合により医療費は増加する 私の日米比較研究では、アメリカでは、IDSが様々な経営的・経済的効果を持つと理念的・理論的に主張されていたが、それを実証した研究は皆無であることも明らかにしました。私はそれを「理論・事例研究と実証研究との乖離」と表現しました。 それだけに、松山氏がメガ医療事業体を「医療の質向上とコスト節約を同時達成するための必須要件」と主張していることに違和感を持ちました。そこで、改めて文献検索したところ、アメリカの有名なシンクタンク(Robert Wood Johnson Foundation)が2006年と2012年に発表した2つの体系的文献レビューにより、病院統合が医療費を増加させることが疑問の余地無く確認され、しかも医療の質の向上も実証されていないことを知りました。 2006年の研究では、1990年代〜2000年代初頭に発表された費用についての実証研究13、効果についての実証研究10の結果が統合され、病院統合により病院側の原価は多少低下するが、医療機関に支払われる価格・医療費は5%増加する、質についての結果は一定しないが、厳密な研究では質の低下が示されたと結論づけられました(Williams CH, et al: How has hospital Consolidation affected the price and quality of hospital care? Web上に全文公開)。 2012年の「追試研究」では、2000年以降発表されたアメリカとイギリスの実証研究の結果が統合され、病院統合で医療機関に支払われる価格・医療費が増加することが再確認されました(Gaynor M, et al: The impact of hospital consolidation - Update)。この研究では、オバマ政権の医療保険改革法以降急増している医師と病院との統合についての実証研究の結果も統合され、それが医療の質の向上も医療費の低下ももたらさないと結論づけられました。 アメリカと異なり、日本では診療報酬は全国一律であるため、アメリカの結論がそのまま当てはまるとは言えません。しかし、私は、日本でも医療統合・ホールディングカンパニーにより、傘下の病院で提供される医療がより高額なものへシフトし、費用が増加する可能性が大きいと判断しています。
グローバル経済の台頭に違和感を覚え、公共の利益を追求する市民の力が弱まっていると分析しているのが、ベストセラー『がんばらない』著者で諏訪中央病院名誉院長の鎌田實氏。鎌田氏がアメリカのオバマケアの弊害と、それが日本に与える影響について解説する。 * * * アメリカがどれほど病んでいるかは、11月中旬発売予定の堤未果『沈みゆく大国アメリカ』(集英社新書)にも詳しく記されている。 日本と違って医療保険に入っていない人が5000万人いるアメリカは、全国民の保険を義務化した“オバマケア”を推し進めたことによって、保険会社がべらぼうな利益を上げるに至った。 薬の価格を自由に変えられるアメリカでは、製薬会社が保険を利用して薬代を釣り上げられる。保険&製薬会社は、莫大な献金を民主・共和両政党に送り、どちらに転んでも自分たちがかるようなシステムを作り上げた。“オバマケア”を立案、実践した官邸のスタッフの中にも保険のプロが密かに入り込んでいた。そういう輩は目的を達成すると、保険会社に戻って特別なポジションを与えられ、法外な給料が与えられる。 あるC型肝炎の患者は、医師から新薬をすすめられた。保険に入っているにもかかわらず、自己負担額は、3か月で840万円だったという。日本では考えられない数字だ。 また“オバマケア”が作られたことによって医師たちが保険会社にコントロールされ、保険会社のための書類を作成することに忙殺される。患者のために的確な治療をしても、保険会社から保険が下りず、患者からは責められっぱなし。精神的に追い詰められた医師たちが多く自殺しているという。 そして、アメリカで行なわれた悪行は日本にも迫りつつある。日本の宝ともいえる国民皆保険制度を崩壊させようと、米の民間保険会社が虎視眈眈と狙っているのだ。“自由競争”という錦の御旗の下、TPP妥結の際に日本の医療崩壊も、その序章が始まる。医療や介護もグローバル化させ、一部の人間だけが莫大な富を得るシステムに移行させようと企んでいるのだ。 安倍首相は“非営利ホールディングカンパニー型法人制度”(仮称)の創設を考えているようである。これが出来れば、ひとつの資本で病院や特別養護老人ホーム、障がい者施設など全部をコントロールできるようになる。 だが、日本の医療や介護は、日本独自のシステムで守っていく必要がある。それは地域での生活背景に微妙な違いがあり、特に介護は、この微妙なズレに配慮していかなくてはならない。金太郎飴のように、どこを切ってもまったく同じような、経済効率だけを考えた介護は絶対阻止せねばならない。 ※週刊ポスト2014年11月14日号
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