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2014年10月17日18:54

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ナカタチカマスとヤッパタ

去年今年とヤッパタの当たり年でして、春先のキンメダイ漁の外道として山ほど入荷しておりまして、仲買人もだいぶクロシビカマス(小田原早川漁港でスミヤキ、房州勝浦でエンザラ、那智勝浦でヨロリ。ヤッパタは伊豆伊東のみのローカル名)という名前を覚えてまいりました。良いことです。

クロシビカマスはスズキ目クロタチカマス科に属し、アジ科サワラ属とタチウオ科に挟まれた地位におります。見かけも中間ぽい。カマスとの近縁関係はあまりありません。同科には科名のクロタチカマスのほかワックスエステルで悪名高いバラムツとアブラソコムツがいます。まあスズキ目の極北と思っていただければw

さて。先日。

「ナカタチカマス」なる魚が入荷したんですよね。なんだよナカって。日本産魚類全種の検索(東海大学出版会)を愛読する私は即座に「そんな魚はいない」と思ったしメートル超えの5キロ超えというこの巨体はクロタチカマスに決まっておるわ喝!と看破したわけであります。こんな怪魚です。

フォト


んで、今ぼうずコンニャク引いてたらやっぱなんのことはないクロタチカマスでした。記事です。
http://zukan-bouz.com/sp/detail.php?id=1481
そして、クロシビカマスの3倍ほどにも成長するため伊豆あたりではクロシビカマスのローカル名に「長(ナガ)」をつけて呼ばれることが多いことも分かりました。ナカは訛りでもとはナガ。そしてキンメダイの外道であるクロシビカマスよりさらに外道ぽい位置にいることもなんとなく分かりました。私、こういう話だいすき(笑)。

そしてここからが本題です。記述のなかに「真鶴半島でナガヤッタバ」とあります。嗚呼、もしもこっちの名前を先に知ってしまっていたら、今の認識にはたどり着けてないだろうな…ヤバイとこだった、と胸を撫で下ろしております。

たしか2001年頃、神曲という芝居に伊豆伊東の大室山を出そうと思い、鈴木大介(あかねの兄)を伴い一日ロケハンをした帰りに、伊東駅前の今はなき黒潮寿司てのに入ったらメニューに「ヤッパタ」ていうのがあったのです。ヤッパタのエンガワの軍艦てものが出てきました。旨かった。旨かったがなんの魚だかてんでわからなかった。まだネットの情報も少ない時代でなんの手がかりも得られなかった。

ついで2009年だったか今度は加藤友香さんとわざわざ調査に行って、どうやら伊東漁港のあたりは八幡地区と言うらしいことと、黒潮寿司の大将への聞き書きから魚体の特徴をつかみ、職場に戻っていろんな人に聞いてどうやらそれは小田原早川漁港でスミヤキと呼ばれてる魚だと分かってきました。この時点でようやくヤッパタがクロシビカマスであることを同定。

だが、まだ分からない。なぜここでだけヤッパタと呼ばれるのか。八幡神社があることも確認できたけどそれがなんだというのか。2010年の初め、こんどは4名のパーティを組んで三度伊東でフィールドワークをしました。だが、どう見てもなんの変鉄もない伊豆の田舎です。でもだからこそ、八幡神社とヤッパタに関係がないはずはない、との確信を得ました。

スミヤキは見かけ通りの名です。ナワキリも。エンザラはちょっと密教風味があるけど分からない。ヨロリは…と調べると、ヨロリの由来について知っている人がいた。

熊野新宮は補陀落渡海の本場です。渡海僧の袈裟が死後ボロボロになることを、クロシビカマスの鱗のない、こすれるとすぐ黒い表皮が破れてなかの白身がむき出しになる様子から連想して補陀落で即身成仏した僧はヨロリという魚になって帰ってくるのだと。それだ!

紀伊でも伊豆でも三浦でも房州でも、クロシビカマスは黒潮が巻く半島東側の風避け海域で採れる魚です。そして阿波の海女が安房に到達したように、様々な漁法や習俗も西から流れてきたであろう。クロシビカマスを食うことも伊豆にいつかの時代に伝わったのだろうが、伊豆の人たちはヨロリの由来については理解できなかった。伊豆には補陀落渡海の習俗はないから。近隣の漁民がたんに見かけの連想からヨロリをスミヤキと読み替えていくなか、伊東八幡社を擁するこのほんの狭い地区の人々だけは紀伊発の伝承を、同じ海洋信仰である宇佐八幡宮に託してヤッパタと呼び出したのではないのか!そうだそうに違いない!

…たぶん、この認識にたどり着いてるのは僕だけだ。と思います。

その後2011年の初め、三浦の神奈川県水産試験場の紹介で、公開実験飼育をしている最中のアクアマリン福島にお邪魔し、バックヤードで様々お話をうかがい、死んだ魚体をいただいて干物にして(笑)稽古で食べました。津波はその2ヶ月後でしたからギリギリ間に合ったことになります。

僕は芝居と魚のことしか能のない人間ですが、このふたつを結びつけるのは僕の仕事だと思ってます。ヤッパタに関する芝居はまだ書いていません。まだ死ねませんね。^^
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