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2013年03月13日16:41

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今年4本目!新作戯曲「チェリースープ・ハーヴェイ」

チェリースープ・ハーヴェイ





時 夏至の夕暮れ
場 エストニア中部山間の町、チュリ
人 ハーヴェイ・キルス
  那智こよみ
  岡野知里
  ウルマス(登場せず)





頌歌 日時計


がらんどうの空に
むちゃな口笛吹きつけて
「おお かたむく世界!」

ポケットには
あやしのすきま風うずまき
かれくさの残り香

 丘にのぼるとき
 やぶれ靴かたる
 ひるの星座めぐる
 旅の由来

 草穂はさざめき
 こがねのわたつみ
 ひとかけのパンのごと
 雲のかげよぎる

街をたたむ闇に
そっと日時計のかけら
なぜて胸にきざむ





こよみ どうしても行くの?
知里 うん。
こよみ 港まで4時間かかるってよ。
知里 たぶん間に合う。今夜中にヘルシンキに渡りたいから。
こよみ 船、出るのかな。
知里 夏至だよ? 一晩中お祭りだよきっと。大丈夫、こういうのは運を呼びよせる意志力とカン。
こよみ 旅馴れとるねー。
知里 まぁ、タクシーエンコすんのは計算外だったけど。こよみはどうするん。
こよみ とりあえずもう一泊して、ゆっくり天窓から白夜見るかな。あした海岸まで下って、だんだん南へ、ラトビアへ。
知里 タリンとかなんで行かないのさ。世界遺産だよ。
こよみ ただのいなかを回りたくて。いい季節だし。
知里 ふーん。
こよみ 首都はどのみち首都だもん。
知里 それで国際空港使わないんだ。
こよみ シベリア鉄道はさすがに厭きたけどね。速いのが駄目なん。歩きか自転車くらいが合ってるんだ。急ぐの?
知里 うん。バンコク――アムスの30日間フィクスなんよ。デンマークからバルセロナに下りてまたオランダまで戻ってこなくちゃ。
こよみ いやー私には無理だわ。気をつけて。
知里 あんたも。特にハーヴェイ。
こよみ 彼が?
知里 たらしだから。
こよみ ああ。いかにもだよね。
知里 あれが宿のオーナーってやばくない? 泊まり客に手出すタイプ。
こよみ いんじゃん、如才ないよ。
知里 そうかな。なんかふっと雰囲気が濃くなるんだよね。
こよみ それ口説かれてたんじゃないの?
知里 そうか。でも私、宿から動かない人とか合わんと思う。旅人同士ならありかも。
こよみ ウルマスとか。
知里 ウルマス! いや熊は無理無理、でぶでモミアゲとか勘弁。やっぱひとりが伸び伸びできるや。短い夏、短い休暇、好き勝手やらなきゃね! さて、もう行けるのかな。(窓から階下へ)ヘーイ、ウルマース! こっちこっち。もう走れる? え、大丈夫? オーケー、ありがとう!
ハーヴェイ (入ってきて)元気ですね。
知里 びっくりした!
ハーヴェイ 準備は、チリ。
知里 (紅茶飲み終え)ばっちり。すぐ発てます。
ハーヴェイ なんかすみませんでした、ポンコツのSAABで。昼過ぎには直ると思ってたんですが、手強かった。
知里 あなたのせいじゃないです。色々ありがとう。助かりました。
ハーヴェイ とんでもない。こんな田舎の一軒家ですから本当、嬉しかったです。
こよみ トラクターで引っぱるとは思わなかった。
知里 ロバばっか見てきたから、救いの神に見えたよね。
ハーヴェイ たまたま整備しててラッキーでした。夏しか使わないので。
こよみ 木いちご摘むのに?
ハーヴェイ そうです、そうです。
こよみ あれ美味しいですね、チェリースープ。
ハーヴェイ そう? ありがとう。季節ですから毎晩出ますよ。
知里 でもあれ冷たくした方がよくありません?
ハーヴェイ ああ、冷たいのもありますよ。お口に合いませんでしたか。
知里 あったかい果物の料理って日本にはないから…。
ハーヴェイ そういえばそうですね。ここは冬が長いのでジャムが大切なの。
こよみ なるほど。
ハーヴェイ さあ行きましょう。間に合わなくなる。
知里 はい。
ハーヴェイ ただ、さっき港に問い合わせたら、今夜は11時と12時にも臨時便があるそうです。
知里 なんだ、よかった。
ハーヴェイ ゆとりのあるご旅行を。アクシデントはつきものです。
知里 ですね。じゃあこよみ。行くね。
こよみ うん。また、
知里 また、縁があったら。今月中には帰国する。
こよみ 私も九月には。気をつけて。
ハーヴェイ 荷物、持ちますよ。
知里 ありがとう。チャオ。(ふたり出ていく)

こよみ、ひとり残り、瞑目してゆっくりと気功。昨日の会話が再現される――。

(――え、日本にいらしたんですか? 半年の研修でそんなに話せるってすごいですね。――研修ってタリンに出す日本食レストラン。なるほどねえ。…キッチンとギャルソンとどちらが向いてます? ああ、両方こなさないとね、それはそうか…。――へえ、新小岩ですか。私、津田沼なんです。じゃあすれ違ったことあるかもですね…。――気候は、はい、おだやかですよ。館山までいけば一月から菜の花が咲きだしますからねえ。――似てますか、千葉とエストニアが? そうかな。ああ、丘ね。それって東金より先ですね、房総半島の丘…川の様子とか、そういえば似てるかも…。――この塩漬け、川魚ですか…! ――いや、美味しいです。ほら日本はバタークリームって食べないから、小ブナとナッツと黒パンとか、イメージで結びつかないんです。ほんと美味しいや…。――これ、きのこのポタージュ。私きのこ大好きなの。でもこれ摘んでくるんですよね、毒きのことか見分けられるんですか。はあ、確率…。はあ、当たるときは当たる…。そういうもんか…。――ここはいいですね。日が沈んでも長い長い夕暮れが続く…。花になったヒュアキントスが、穏やかな西風に包まれている…、ううん、ごめんなさい、少しぼーっとしてました…)


ハーヴェイ (居て)送らなくて良かったの?
こよみ ええ。バックパッカーのお別れはこんなもんです。
ハーヴェイ お腹の具合は。
こよみ ええ…。
ハーヴェイ (その腹をさすり)まだ重いですか。
こよみ いえ、もう丸二日、さすがに治りました。
ハーヴェイ エストニアは肉料理が中心ですから、慣れてない日本の方は試し試し食べるのがいいね。
こよみ そうね。ウルマスはてんで平気だったんだけど。
ハーヴェイ あいつは生粋ですから。あれでしょ、スルトゥ。
こよみ 煮こごり、豚の。どこでもこれがメインだよって言われたけど、あなたのメニューにはないんですね。
ハーヴェイ もちろん作れますし作り置きもあります。でも私、どこかエストニア人じゃないから。
こよみ そうなの?
ハーヴェイ 国籍は何代も前からここです。でもハーヴェイってケルトの名前。
こよみ アイルランド系。
ハーヴェイ そうかも。分からない。
こよみ どういう意味です。香りだっけ。
ハーヴェイ 香りはハーヴェストかな。意味――to serve――勇気、それだと思います。
こよみ 勇敢。
ハーヴェイ そう。昔、フィン族が東から押してくるでしょう。押されたノルマンがケルトにまた圧しかかる。ケルトは勇敢に迎え撃つ。それで名前が残った。
こよみ そういえばフィン族の西のはずれなのにエストニアって東の、ていう意味ね。
ハーヴェイ ノルマンから見て東なの。
こよみ 恨みとかないんですか?
ハーヴェイ 昔むかしの話です。それに、部族の事情と個人の愛情は別。
こよみ そうね。
ハーヴェイ 料理とか段々ミクスされていくでしょ、それと同じです。
こよみ でも、言っちゃなんですけど、ずっと植民地だったでしょ。ドイツにもスウェーデンにもロシアにも全然同化しなかったのね。
ハーヴェイ 言葉がね、まるきり違うんですよ。語彙も文法もスラヴやノルマンとはてんで違って、彼らの言葉で話す時とイスティで暮らす時は僕たちセパレートなんです。語順はむしろ日本語です。
こよみ ああ、それで。
ハーヴェイ そう、学びやすかった。さっそく新宿へナンパに行った同期もいます。
こよみ あなたは。
ハーヴェイ 僕は妻がいたから。
こよみ 真面目なんだ。
ハーヴェイ もういませんが。
こよみ なぜ? ――ごめんなさい。
ハーヴェイ 構いません。ここ、旧道なんです。滅多にお客がない。もともと夏しか開けないんだけど、充分に豊かに暮らせない。妻はもとが都会っ子なんで、やっぱりタリンがいいそうです。
こよみ ここ、いいところですよ。
ハーヴェイ 旅するにはね。住むには地味すぎますよチュリは。あなた少し変わり者ね。
こよみ 褒めてるの?
ハーヴェイ もちろん。メッジレベッシュ、また召しあがります?
こよみ ありがとう。もうそんな時間?
ハーヴェイ 7時になります。
こよみ 夏は寝不足だぁ。
ハーヴェイ 僕ら冬眠しますから、ツーツーです(去る)。
こよみ (見送り)日本語うますぎ…。ん?(携帯に着信があった。メール返信)
ハーヴェイ (食事運びつつ)チリですか?
こよみ うん。ウルマスに口説かれてるって!
ハーヴェイ モテるなあ。
こよみ あなたも口説いたじゃん。
ハーヴェイ いえ、僕はあなたの方がいい(去る)。
こよみ はい?! 言うね。(ひとり)まー、ウルマスはやめときなって…。
ハーヴェイ (運びつつ)ウルマスはやめといた方がよかないですか。
こよみ そう送りました。でもどうして?
ハーヴェイ 堅気じゃないよ。
こよみ またそういう難しい言葉を。マフィア?
ハーヴェイ 夏の間は大人しいです。
こよみ 夏の間…。
ハーヴェイ おふたり、東のナルヴァからいらしたでしょ?
こよみ ええ、ロシアから川を渡って。渡ったらバス停がなくて、彼がいました。
ハーヴェイ タクシーは副業。湖があったの分かります?
こよみ ええ。
ハーヴェイ あれ冬は氷結します。そこをあのポンコツで無理矢理渡る、暗い昼間に。
こよみ それって…。
ハーヴェイ ええ。密輸。
こよみ いったい何を…。
ハーヴェイ 密輸ですから、言えないもの。
こよみ 一応、送っとくわ…(送る)。
ハーヴェイ (給仕しつつ)うちの国旗の黒い帯ね、あれは暗黒史のことで。コロンの膿はまだまだ残ってる。暗い昼が続く。夏は、ほんのひとときの平穏な季節なのよ。僕らの艱難なんか外国の友人には背負わせたくないんだけど、やつがそこまで考えるか…がさつだからなあ。
こよみ ちょっと彼にやめとけって言ってよ。あそこふたり言葉通じないんで。
ハーヴェイ 電話いかれてるんです。やつの番号も知らない。知り合いってほどじゃないんです。まあチリ、旅馴れてるようだから大丈夫じゃない? どうぞ。
こよみ わ、オードブルになってる。
ハーヴェイ ごゆっくり。
こよみ 普通のクラッカーじゃないんだ。
ハーヴェイ ライ麦とヘーゼルナッツ。
こよみ これは?
ハーヴェイ コイの幼魚を岩塩で押して、にんにくヨーグルトに漬け込みました。
こよみ オリーヴが刻んである。――ハーヴェイ!
ハーヴェイ なんです。
こよみ あなた、料理うまいね!
ハーヴェイ (喜んで)ありがとう、こよみさん。きのこティーどうぞ。
こよみ そっち、チェリースープ?
ハーヴェイ ええ。数少ないバイラミン。取りましょうか。
こよみ うん。でもなぜチェリーなの? これブルーベリーよね。
ハーヴェイ さあ。たくさん生えてますからね。あんずも少し入れてます。
こよみ サワークリームとニッキ、あと…。
ハーヴェイ アーモンドエッセンスが少々。
こよみ うん、美味しい。
ハーヴェイ どうも。
こよみ 幸せ。幸せだなあ。
ハーヴェイ お口に合うとは思わなかった。
こよみ ドライフルーツとか大好きなの。
ハーヴェイ ほう、特には?
こよみ いちじくかな。
ハーヴェイ ああ、好物です!
こよみ やっぱり冬は野菜が乏しい?
ハーヴェイ まあね。と言ってもむしろ習慣のせいかな、もともとジャムって肉に添えるんです。
こよみ パンじゃなく?
ハーヴェイ 穀物を作るのは割と最近になってから。ここ、畑やるには寒いもの。狩人は肉とベリーでバイラミン取る。
こよみ なるほど。
ハーヴェイ 夏至でしょう。今夜はどこのうちもトナカイですよ。
こよみ (疑わしく)それ美味しいの?
ハーヴェイ 美味しいかって?! うまい肉といえばトナカイの腿とアザラシの脂です。
こよみ アザラシ。へええ。
ハーヴェイ なんでしたらお出ししますよ。豚のスルトゥほど重たくない。お茶は。
こよみ ありがとう、サモワール便利ね。あなた、お酒は飲まない?
ハーヴェイ あ、いきます? ビールしかないけど。
こよみ ううん、ちょっと思っただけ。
ハーヴェイ ドイツの影響でビールだらけなんですが、僕はそんなに飲まないです。醗酵なら乳酸菌、酩酊感なら薬用きのこで間に合う。
こよみ でもこれ何か入ってますよね。
ハーヴェイ きのこ紅茶にラムを垂らしてます。ラムはバニラで香りつけてる。
こよみ 和食とぜんっぜん感覚が違う。
ハーヴェイ ハンターの国ですから。そういえば、僕の苗字キルスっていうんですが、これチェリーの訛りなんです。チェリーは自生してないからなあ、やっぱり異邦人かもしれない…。
こよみ ねえ、もしかしてソバってなにかに使わない?
ハーヴェイ ソバ。ええと、実の粗挽きをパンに混ぜて焼いたりはしますが…。
こよみ そう? あの、あしたから私ハンガリーに向かうんです。最後はトルコまで。
ハーヴェイ え?
こよみ ハンガリーにもソバのクッキーがあるんだって聞いたことある。
ハーヴェイ ああ、同じフィン族ですからね。ソバはすぐ作れるんで、農耕に馴れない人がやるには良かったんじゃない?
こよみ そしてハンガリーもトルコもチェリーの産地ですよ。あなたのルーツかも。
ハーヴェイ なるほど。そうすると勇敢なケルトの戦士とフィンの果樹園のおかみさんを祖先に持つわけですか僕は。(笑って)なんて非ヨーロッパ的なんだ。
こよみ かっこいい。
ハーヴェイ 夢ですよ。
こよみ え?
ハーヴェイ 一晩中暮れない白夜の空みたいに、あったかどうか分からない過去をまるであったように思いだす。生きたかどうか分からない過去を。今夜は夢の晩です。僕もお茶を。
こよみ (注ぐ)どうぞ。
ハーヴェイ ありがとう。すみませんお客さんに。
こよみ これくらい。
ハーヴェイ そうか、ハンガリーですか…。
こよみ (思いあって)――訊かないの?
ハーヴェイ なにを。
こよみ なぜ旅をしているのか。
ハーヴェイ そういうこと、話したがらない人もいますから。ルーツ探しですか。
こよみ そんなような、そうでないような。
ハーヴェイ どうぞおっしゃって。
こよみ 何年か前の夏、中国にゴルムドっていう町があるの、チベット高原に上がる手前に。ちょうどチベットが荒れてて、パーミットはあったんだけどバスがそこまでしか行かなかったのね。仕方ないんで降りて、町の食堂で焼き飯みたいなの頼んだら、お米じゃないんです。大麦なの。分かる? バーリー。
ハーヴェイ ああ、僕らもカーシャにします。
こよみ 私の田舎も大麦作ってるとこなんで懐かしく食べてたら、目の前の道を、古い市バスが通ったのね。日本からのお下がりの、それこそ走るのかなってガタピシで、日本語の広告とかも貼りっぱなし。
ハーヴェイ ははは。
こよみ で、ボンネットの行き先のとこにね、「東金行き」って出てた。
ハーヴェイ ――。
こよみ 私、一瞬どこにいるのか分からなくなって。津田沼の駅前から東金行きってあるんです。東金には死んだ爺ちゃんが住んでた。小学生の時、始発から終点までだから大丈夫だろうっていわれてそれで爺ちゃんに会いに行ったのが私の初めての一人旅…。このゴルムドの東金行きは、私をどこに連れて行ってくれるんだろうって、なんか急にすごくドキドキした。

窓の外で鳥が啼く。ハーヴェイ、立って空を仰ぐ。

こよみ 話、つまらない?
ハーヴェイ ミサゴです。小さな鷹。今は雛を育てる季節。(もう一度鳥、啼く)
こよみ 少しは暗くなるのね。
ハーヴェイ いちおう夜です。緯度もラップランドほどじゃない。

こよみ、窓辺に並ぶ。

こよみ (陶然と)――ここはいいですね。日が沈んでも長い長い夕暮れが続く…。花になったヒュアキントスが、穏やかな西風に包まれている…、ううん、ごめんなさい、少しぼーっとしてました…。
ハーヴェイ こよみさん。なにか、昂ぶってますね…。
こよみ うん…、なんか変…。胸が熱い…。
ハーヴェイ 今夜はみんなそう。そういう夜です。
こよみ あなたがあなたの祖先に見える。
ハーヴェイ どっちの。果樹園ですか。(両手を嗅いで)木イチゴくさいや。
こよみ (その手を嗅ぎ)ほんとだ。(三たび、鳥、啼く)
ハーヴェイ ――乗らなかったんですね…。
こよみ え…。
ハーヴェイ その、東金行き…。
こよみ うん。
ハーヴェイ 乗ったらどこに行ったんでしょう。
こよみ 少なくとも、乗ったら、今ここにはいないわ…。だって、
ハーヴェイ ええ。
こよみ 乗りはぐったバスに乗ってみたくて、私は旅をしてるんだもん。
ハーヴェイ はい。
こよみ 新潟から出航してナホトカから汽車。乗ってる2週間、どう動くか考えた。
ハーヴェイ (低く)どう動くんです…。
こよみ 思ったようには動けないね。ポンコツのSAABのせいで。
ハーヴェイ 運命は決められません。
こよみ 決められなくても、望むことはできるわ(手を重ねる…)。
ハーヴェイ …ようこそ、チュリへ。

静かな間――。着信。

こよみ のろけかな(見る)。

ハーヴェイ、離れて、自分もチェリースープよそって食べる…。

こよみ これ…、
ハーヴェイ …。
こよみ ハーヴェイ、これ、なに…?
ハーヴェイ なんです…?
こよみ これ!(画面見せる)
ハーヴェイ 「たすけて」…。何だろう。
こよみ 何だろうじゃないよ、何かされてるんだよ、ウルマスに。
ハーヴェイ ええ? そうかなあ。メールできるのに?
こよみ すぐ彼に連絡取って。
ハーヴェイ 電話がない。
こよみ だって、どうやって船の時間訊いたの?
ハーヴェイ 通った車に聞いたんです。
こよみ どうしよう。
ハーヴェイ 落ちついて。(お茶注いで差しだし)何を心配してます?
こよみ そりゃ女だから、決まってるでしょ…。
ハーヴェイ ウルマスの住み家は分からないし、本名かどうかも分かりません、でも車のナンバーは分かる。今は無理でも、事後に追跡することはできます。
こよみ 外国人旅行者の行方不明事件とかは?
ハーヴェイ 聞きませんね。それに、さらうつもりならあなたを残すはずがない。一緒にさらうでしょ。
こよみ そうか。じゃあ大丈夫かなぁ。
ハーヴェイ まぁ、も一度チリさんに尋ねてみるしかないでしょう。
こよみ もう送りました。
ハーヴェイ 彼女も子どもじゃない、国際線途中下車するようなつわ者ですよ。まず大丈夫。
こよみ 急に心細くなっちゃった。
ハーヴェイ 旅をするってそういうことです。ある程度の覚悟は要る。ウルマスは軽いやつですが、せめて彼女にとって、一夜の恋になればいいかな。
こよみ ハーヴェイ。ひとつ、どうしても確認しておきたいの。あなた、彼の仲間じゃないでしょうね?
ハーヴェイ (落ちついて)その心配はもっともです。僕はこう答えるしかありません。たったひとりで運命を渡っていくなら、ご自分の眼を鍛え、信じればいい。それだけです。
こよみ ううん、そうじゃない。あなたがどうしたいのか、あなたの言葉で聞きたいの。私やっぱり変かな。
ハーヴェイ 私は――。分かりました。では答えます。(ゆっくりと)仮に私が悪党で、罠を張ってあなたを待っていたのだとします。だとしても私はあなたをおもてなしするし、愛します。いかがです?
こよみ 分かりました。ありがとう。
ハーヴェイ きのこティー、もう少しいかが。
こよみ ええ――。







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