mixiユーザー(id:809109)

2009年06月18日16:02

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「空」 が複数形になるとき。

  



曇り fafrotskies が、

   what “FAlls FROm The SKIES” 「空から降ってくるもの」

の略であることは、すでに、申しゃげました。

曇り ここで、サンダーソンが “from the sky” でなく、“from the skies” としている点を見逃してはいけません。アッシゃあ、このワケを、ずっと、探っていました。
曇り これがなぜか知りたくて、英和辞典を引いてみても、たいして役に立たないことがわかります。親切な辞典で

   「天気について言うとき複数形になる」

くらいのことが書いてあるかもしれません。カンジンの 「なぜ、複数形になるのか」 が書いてない。

曇り 「空」 sky に複数形がある、というのは、日本人からするとフシギです。しかし、英語では、とりわけ、

   “天候” の観点から 「空」 に言及するときに複数形を用いる

のです。たとえば、天気予報を引用するなら、

   Today's forecast calls for clear / sunny / cloudy skies.
   天気予報によれば、今日は、晴天/曇りらしい。

となります。
曇り あるいは、次ような例でも複数形になります。

   Rain falling from the skies over Milwaukee contains levels of mercury
   more than ten times higher than what the U.S.
   Environmental Protection Agency considers "safe" for the Great
   Lakes and other waterways, a new report reveals.

   ミルウォーキー上空から降る雨には、米国環境保護庁が五大湖およびその周辺の
   河川にとって “安全” とみなす基準の10倍以上の水銀が含まれていることが、
   あらたな調査報告からわかった。

曇り こういう場合、インターネットというのは便利です。

   rain falling from the sky …… 8,470件
   rain falling from the skies …… 8,200件

曇り つまり、ネイティヴでも 「雨」 が降ってくるモトになるのは、sky / skies で判断が五分五分です。


曇り 次の用例を見ると、別に、降ってくるのは 「雨」 でなくてもいいらしい。

   The task of defending Earth from objects falling from the skies seems
   most fitting for NASA.
   空から降ってくる物体から地球を守るという任務にいちばんふさわしいのはNASAでは
   なかろうか。

曇り どうも、「天候」 であるとか、「何かが降る」 という場合に、sky は複数形になるようです。




曇り これには、おそらく、中期英語で起こった 「ある語義の変化」 が影響しているようです。

曇り 古期英語 (700〜1100) には、次のような単語がありました。

   heofon [ 'heofon, 'heovon ] [ ' ヘオフォン、' ヘオヴォン ] 「空」。
   sċēo [ 'ʃe:o ] [ ' シェーオ ] 「雲」。
         ※現代語 cloud は、古英語では 「岩山」 の義。1280年ころから 「雲」。

曇り heofon は現代語では heaven 「天国」 に転じています。ドイツ語の Himmel と同源の語です。古英語の後期になって、「天国」 の語義を獲得しました。


曇り これが中期英語でこうなります。

   【 雲 】
   sċēo 「雲」
    ↓
   skie [ 'ski: ] [ ス ' キー ] <可算名詞> 「雲」。1250年ころ〜16世紀半ば
    ↓
   cloud [ 'klaʊd ] [ ク ' らウド ] <可算名詞> 「雲」。1280年ころ〜


   【 空 】
   heofon 「空」
    ↓
   skie(s) [ 'ski:s ] [ ス ' キー(ス) ] <しばしば複数形で> 「空」。13世紀末


曇り ここから何が起こったか読み取れるでしょうか。

曇り 最初に起こったのは、「雲」 という単語が、sċēo 「シェーオ」 から skie 「スキー」 に変わったことです。これは同源の単語なんですが、sċēo が英語本来の単語であったのに対し、skie は古ノルド語 (古北欧語)、すなわち、北欧から移住してきたヴァイキングのもたらした単語である、と言うことです。
曇り ヴァイキングの持ち込んだ古ノルド語は、本来の英単語に取って替わることもあったし、語義の異なる単語として、英単語と併存することもありました。

曇り ゲルマン語で sk- で始まる単語の場合、古ノルド語系の語彙は、語頭に sk- を保存し、本来の英語では口蓋化を起こし、 sh- に変化しています。たとえば、

   shirt 英語 ── skirt ノルド語

などがそうです。


曇り 理由はわかりませんが、中期英語の時代の13世紀の半ばに、「雲」 という単語は、本来の sċēo からノルド語の skie に変わりました。

曇り ところが、古英語の時代から、「空」 と 「天国」 の両義に使われていた heofon 「ヘオヴォン」 が嫌われたのか、「雲」 を指す skie はデビューしてまもなく、13世紀末に 「空」 の意味でも使われるようになります。
曇り おそらく、それを嫌って、「雲」 に cloud という新しい単語が当てられました。しかし、skie(s) が 「雲」 と 「空」 の両方を指す時期は、14世紀、15世紀、そして、16世紀の前半まで続くのです。

曇り おそらく、天候について言うときに skies 「スカイズ」 という複数形を用いるのは、この時代の慣用表現が伝えられているのでしょう。中期英語の skies は、「雲」 のみでなく、「霧」、「かすみ」 なども指したようで、中期英語時代の英国人は、「雲、霧、かすみ」 の集まった総体が 「空」 である、と認識していたかもしれません。


曇り ですから、“to fall from the skies” と言う場合、“to fall from the clouds” の意味の化石的表現かもしれないのです。




曇り こうして見ると、サンダーソンが

   what “falls from the skies” 「空から降ってくるもの」

と sky を複数形にした理由がわかります。
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