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2026年07月05日13:00

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アブナー伯父の事件簿

を昨日読んだ。M・D・ポースト著/菊池光訳
天の使い
 8歳の「私」ことマーティンは、牛の代金である大金を持たされ、馬に乗って旅立った。
日が暮れかけた頃、後ろから追いついてきたのはディックスという牛飼いだった・・・。

 他に誰もいない宿屋で「私」が襲われそうになったときに颯爽と現れるアブナー伯父。
そこでアブナーがこれまでこの物語では一切語られていない事件の調査経緯を話し出すのには驚いた。
もちろんディックスが関わる事件ではあるのだが、なにしろ全く初耳の事件なので読者の置いてきぼり感がすごい(笑)
そしてアブナーが現場にやってきた理由もすごい。要するに神のお告げなのだ(笑)
 ミステリー黎明期(1910年頃)の作品なので全てルール通りにはいかないとは予想していたが、いきなりこんなすごい変化球が飛んでくるとは予想外だった(汗)

悪魔の道具
 ベティ・ランドルフと幼馴染のエドワード・ダンカンの婚約のお祝いに出かけたアブナー伯父と「私」だったが、ベティが悲しみに暮れているのに驚くことに。
彼女が持っていた十字架についていた3つのエメラルドが盗まれ、その嫌疑が彼女の母親に等しい黒人ばあやのライザにかかっていたのだ。

 事件の証拠品を躊躇無く破壊するアブナー(笑)

私刑(リンチ)
 夜にアブナーと「私」が馬で通りかかった道で、脇道の入口に男が立って誰も入らないようにしていた。
しかしアブナーはその脇道に進む。
果たしてその奥では今にも牛飼い達によって2人の牛泥棒がリンチされようとしていた。

 嫌疑をひっくり返すかと思いきや、なにより法の執行を優先するのがアブナーらしくてかっこいい。
しかし「そこにいた」はどうなのか(笑)

地の掟
 アブナーと「私」はダドリ・ベッツの住まい近くの蜂の巣箱のある牧草地にいた。
ケチで有名な老人ベッツは、寝ている間に溜め込んでいた金貨を全て盗まれてしまい、途方に暮れていたのだ。
戸締りは厳重にされており、誰も出入りをした形跡はなく・・・。

 常識的に考えてそれしか無いという真相なのだが、なんでベッツにそれが思いつかなかったのか???

不可抗力
 郡共進会の最終日に、アブナーと「私」はナイフ投げの芸を観る。
老人の投げたナイフは、次々に娘の周りに正確に刺さっていった。
ところがそこに人が通りかかったとき、老人の立っていた台が壊れて崩れ、老人が右手に握っていたナイフが通行人に突き刺さった。
周目の中の事故だったが・・・。

 解説にもある通り手紙の文面が紹介されていれば完璧だったとは思う。そしてそれが翻訳版でどうなるかも見てみたかった。

ナボテの葡萄園
 エリヒュー・マーシュの射殺事件の法廷は近隣の住民がつめかけてすし詰めだった。
数ヶ月前からマーシュのところで働いていたテイラーという男に嫌疑がかけられていたが、マーシュの娘が自分が犯人だと告白し・・・。

 意外すぎる犯人のことより、2人の男が黙っていたせいで真の死因が明かされずに法定が開かれているという異常事態の方が気になった(汗)

海賊の宝物
 チャーリー・マディスンは20年前から行方不明で死んだとみなされていた兄ダブニィが戻ってきたことで受け継いだ遺産を取られないか気が気ではなく、酒浸りになっていた。
しかしある日兄がベッドからいなくなり、飼っていた犬が殺されているのが見つかり・・・。

 身元もわからずに20年も・・・???とか、いろいろともやもやするところはある。
しかしそれよりも気になることが。
このシリーズは途中から「悪魔の道具」に出てきたベティ・ランドルフの父親がホームズでいうところのワトスン的な立場でアブナーと同行するのだが、流石にどこまでも甥がくっついているのは変だと思ったらしく、「私」は登場しなくなる。
だったら普通は3人称にすると思うのだが、1人称はそのままで、それはランドルフの視点ではなく、相変わらずの「私」であり、その証拠にアブナーのことはひたすら「伯父」と書かれているのだ。
なのでこの話からの「私」はマーティンの幽霊になっている(笑)

養女
 ヴェスベイシャン・フローノイは遺産相続で手に入れた美少女の奴隷を、ランドルフに自慢していた。
彼の兄が先日急死したのだ。
医師のストームは外傷は一切無く、死因は不明だと言うが・・・。

 しっかりと法的に管理される奴隷制度。
本作の時代背景は19世紀中盤で、奴隷制度が廃止される10年くらい前らしい。
 そしてあまりにも凄腕すぎる(汗)
あの時代にはそのくらいの腕前の持ち主が普通にいたのだろうか。
ちなみに「死の三徴候」は20世紀前半に定着したらしい。

藁人形
 巡回裁判の初日にイーストウッド邸にやってきたアブナーと治安判事のランドルフ。
屋敷の持ち主であるダンカン・ムーアが侵入者に殺された事件の調査のためだったが、アブナーはいつもは鍵がかかっている引き出しが、その日は鍵がかけられていなかったのにこじ開けられていることに注目していた。
犯人はその引き出しがいつも鍵がかかっていたことを知っていた者なのだ。
ところが・・・。

 珍しくミスリードもあってミステリーらしい好エピソード。

偶然の恩恵
 オハイオ川の岸に建っている居酒屋ジョージ三世の奥の特別室でアブナーを迎えたのは、商船エルドラドの船主のエヴリン・バードだった。
彼の船はここに着くときに岸にある開拓者たちの小屋をひっくり返しそうになり、剣呑な雰囲気になっていた。
アブナーはここに来るまでにバードの船を目にし、その船室内で火が燃えているのを目撃していた・・・。

 このシリーズはアブナーが誰かと2人きりで話をし、結果的に相手の犯罪が暴かれるという展開が非常に多い。
つまり話を始めるまではその事件のあったことさえ読者は知らないわけで、しかも事件現場さえ出てこないことも多く、これをミステリーと言っていいのかどうかは微妙なところがある。
 ところで最後の「神の創造物の中でもっとも能力の低いこのわし」というのはいくらなんでも謙遜がすぎる(笑)

悪魔の足跡
 アブナーは彼の土地と境を接するディルワースの所有地に足を踏み入れ、そこで悪魔の足跡に出くわす。

 このシリーズで興味深いのはなんと言っても1800年代中期あたりのアメリカ(シリーズの主な舞台はヴァージニア州)の様子そのもので、中でも牛の放牧とそのための土地を中心とした経済活動に関わる話が多いのは、生活の中でのその比重の重さがうかがえる。
 このエピソード自体はまあいつものパターン(笑)

アベルの血
 朝早くベンスン判事の家に向かって馬を進めていたアブナーは、途中で伝道師のアダム・バードと出会った。
バードは現在ベンスン判事が行おうとしている判決は罪深い行いだと糾弾する。
ベンスン判事はもう1人の判事と組んで遺産相続の判決を出し、結果的には自分が欲しい土地を手に入れようとしていると言うのだ。
ところが2人が判事の家に着くと、当の判事は殺されており・・・。

 このシリーズのもう1つの大きな特徴が、キリスト教(プロテスタント)の考えが深く根付いているところで、この話では伝道師のバードが登場するが、アブナー本人もいつも聖書を持ち歩いており、なにかというと聖書の一句を例に出す。
これもまた当時のアメリカの雰囲気が伝わってきて興味深いところである。
 そしてこのエピソードは展開にひねりが加えられていてなかなか面白いが、最後の象徴はちょっとやりすぎのような気もした(笑)

闇夜の光
 暗闇の中で馬を進めるアブナーは山の頂上にたどり着き、そこにあった小屋から出てきた男ブラントに迎え入れられる。
ブラントは伝道師のバード老人に罵られるような男だったが、彼の机の上には古びた立派な聖書が置かれていた・・・。

 これまた毎度のパターンだが、3つの象徴を組み合わせることで特徴的なエピソードになっている。
それにしてもアブナーが足跡から読み取る情報量の多さよ(汗)

<ヒルハウス>の謎
 長途牛を追った帰りのアブナーが、足元がおぼつかない様子の罠猟師のジェファスンと出会う。
ジェファスンがなにかから逃げ出そうとしていると知ったアブナーは彼を説得し、勇気を得たジェファスンは自分の家に引き返していった。
次にアブナーが出会ったのは素晴らしい若牛数十頭を連れた大きな男だった。
この近くでそれほど見事な若牛を持っているのはヒルハウスのバタスン老人だけなので、その若牛は男がバタスンから買ったものだと思われた。
更に馬を進めると、今度は若い牛飼いたちを引き連れたディックスと出会う。
なんとバタスン老人が殺されて金を奪われたので、犯人が州境を越えない内に捕まえるのだという・・・。

 このエピソードは中編でなかなか読み応えがあり、それなりに展開もあって面白い。
なにより初めて3人以上の容疑者が出てきたので(笑)、本書の中では一番ミステリーっぽい作品かも。
しかしその真相はなかなか予想外すぎるかも(笑)
 このエピソードの中で化夢宇留仁の興味を引いたのは、「先史時代にこのあたりに住んでいた古代人の古墳」という件で、アメリカにインディアン以外に先住民なんていたっけ?と思って少し調べてみたら、いっぱいでっかい古墳や古代都市が見つかっていた(汗)
どうやら白人が先住民族に高度な文明があったと認めると色々と都合が悪いので隠蔽し続けていたらしい(汗)

 ちうわけで面白かった。
アブナー伯父のキャラクターがとにかく正義の塊のような存在で、それ以外の個性というものがほとんど見られないが、それもまたある意味個性的(笑)
ミステリーとして完全にルール通りと言える作品は無いが(そんなルールは当然当時には無かった/笑)、それでもミステリーとして十分に楽しめるし、上でも書いたがなんと言っても当時のアメリカの雰囲気を味わえるのが一番のポイントで、ミステリーといういつの時代でも成立する物語を通して当時の生活や文化に触れるのはとても楽しい。
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