将棋の話である。
第74期王座戦(日本経済新聞社主催)挑戦者決定トーナメント一回戦、木村一基九段対千田翔太八段。結果は先手の木村九段が131手で勝った。
木村九段(52歳)は昨年から負け越しが続いているものの、通算成績は774勝506敗、勝率0.606。千田八段(31歳)は356勝193敗、勝率0.648。どちらも勝率6割を超え、棋戦優勝やタイトル獲得の実績を持つトップ棋士である。
木村九段は、プロ棋士の間でも受けの強さに定評があり、「千駄ヶ谷の受け師」と呼ばれている。もっとも、トップ棋士というのは攻めも受けも強くなければ務まらない。にもかかわらず、あえて「受け師」という異名が定着しているのは、それだけ木村将棋の受けが際立っているからだろう。どこか「寝技の名人」のような響きがあるが、実際に棋譜を並べると、確かにそう感じる場面がある。
「この局面で受けるんか」
という手が出てくるのである。
この将棋もオーソドックスな矢倉戦。木村九段が先手から攻め込み、途中で何度も受けの手を織り交ぜながら、そのまま押し切った。派手な殴り合いではない。しかし、相手の反撃の芽を丁寧に摘み取りながら、少しずつ優勢を拡大していくあたりに、木村将棋独特の味がある。
地味といえば地味である。だが、こういう将棋こそ、プロの技術と感覚がよく見える。AIの最善手合戦とも違う、人間同士の駆け引きの濃さがある。木村九段の「名局」と呼びたくなるような一局だった。
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