ついに言ってしまった。
「歌っている時に、こっちをチラッと見るな」と。
彼は、自分の考えている音と違うと感じた時、必ずこちらを見る。露骨な非難というより、半ば無意識の癖なのだろうが、受け取る側としては「お前、違うやろ」と突きつけられているように感じる。
以前から気になっていた。視線を向けられるたびに、「自分が間違えたのか」と不安になる。こちらも音に集中している最中だけに、その一瞬で集中が揺らぐ。正直、人の様子をうかがうくらいなら、自分の音と向き合うべきではないかと思っていた。しかも彼は、本番でも指揮を見ず、楽譜を追うことに終始している。違和感はなおさら強い。
いずれ伝えようとは思っていたが、実際に口に出た言葉は、自分でも驚くほどきつかった。言った直後に、わずかな後悔も残った。
ただ、問題は言い方だけではない。合唱は互いに聴き合うことで成り立つが、それは確認のために視線を向けることとは違う。人をうかがう視線は相手の集中を乱し、不信感を生む。無意識であればあるほど厄介で、本人に自覚がないまま周囲に影響する。
一方で、自分の側にも問題はある。気になりながら言葉にせず溜め込み、限界で一気に出した。その結果、必要以上の強さになった。伝えるべき内容と伝え方は分けて考えるべきだ。
結局の問題は、言ったことではない。その後どうするかだな。
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