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2010年02月24日22:05

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携帯小説 「白鳥たちの晩餐」 進行状況 ��

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プロローグ

あたしは思い出す。
小さい頃、沼で迷子になっていた鴨の赤ちゃんを保護し、庭にこしらえた小屋のなかで飼っていた。
餌をたっぷり食べさせ、寝床の藁を丁寧に取り替え、快適な環境で気持ちよく成長出来るようにした。
大きくなって。
小屋では狭くなったので、近くの公園の大きな池に放すことにした。
あたしは一人で鴨を抱きかかえ、元気でね、と声をかけ、池に放した。
鴨は最初はおっかなびっくり、のろのろと泳いでいたけれど、泳ぎ方を思い出すと悠々と羽根を伸ばして颯爽と泳ぎ出した。
それを見てあたしはとても幸せな気持ちになり、にっこりと笑った。

しかし。

どこからともなく、白鳥の群れが現れ、鴨を追い回し、頭目掛けてつつき回した。何度も鴨を水のなかに沈め、執拗につついていく。
それを見て、あたしはめちゃくちゃに泣きわめいた。石を拾って白鳥の群れに投げつけたけど、白鳥たちはいじめるのをやめなかった。鴨はとうとう水のなかに沈み込み、それっきり浮かび上がってこなかった・・・

第一章 可南子

その団地は灰色だった。空は分厚い曇り空で、はるか向こうを黒々とした雨雲が下痢のように雨を降らせているのが見えていて、団地の灰色っぷりを際立たせていた。

灰色のなかで生活していると、住人たちも灰色に染まるもので、特に心の色は限りなく黒に近い灰色になっていく。

団地の最上階の角部屋に住む専業主婦の可南子は、ここに引っ越してきた当時は、新婚ほやほやだったこともあって、心は真っ白、食欲がわくような純白ぶりだった。

しかし。

灰色の住人たちと近所付き合いをしているうちに、だんだん心は汚され、薄汚くなり、ついにはいくら漂白しても戻らなくなってしまった。
居住六年目。
可南子は三十路の半ばを越えた今、ベランダから低く垂れ下がった雨雲を眺めながら、頭のどこかでミルクのなかに墨汁を一滴落とした後の光景を思い浮かべていた。

ぽちゃん。モクモク・・・

それが今の可南子であった。
けっして、今の生活が不満というわけではない。この不況のご時世、夫は十分な稼ぎがあるし、新婚当時から愛情は少しも薄れていない。夫とのあいだには小学三年生の娘がいて、その明るいふるまいは見ていてほんとうにかわいらしいし、癒される。

ただ。

二人がいない、まだ帰らない時間のあいだに感じる心のなかに垂れ下がる雨雲がちょうどベランダから見えるというシンクロぶりに、可南子はちょっと眉をひそめただけであった。

可南子は外の空気を吸いにベランダへ出た。2月の冷え冷えとした空気に湿り気と温さが混じり、嫌な花粉の到来を予感させる息苦しさを連想すると、可南子は鼻を手で覆い、天を仰いだ。

と。可南子の灰色に染まった視界を遮るように、耳のなかに子供の泣き声が飛び込んできた。

反射的に。可南子は泣き声が聞こえてきた方向に視線を移した。
コ型になった団地の内側の端っこに可南子はいるのだが、同じ内側の向かいの端っこの部屋のベランダに、一人の男の子がうずくまっていて泣いているのが見えた。
まだ2月だというのに、Tシャツと短パンという格好である。

たっぷり10分は眺めていて、可南子は歯を剥き出してゆっくりと笑った。獲物を見つけた肉食獣の気持ちはきっとこんな感じだろう・・・可南子は自分自身の内側から沸き上がる熱いものに思わず喘ぎ、はらわたがねじれる感触に呻いた。


・・・・・・




BGMはジュリー・クルーズの「Falling」。
ちなみにプロローグの鴨のエピソードは私自身の実際のトラウマです。

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