を読んだ。E・R・バローズ著/厚木淳訳
私(バロウズ)のところに奇妙な予言を記した手紙が届き、やがてその差出人と直接会って話をすることに。
その男はカースン・ネーピアという資産家の冒険家で、なんと彼は火星を探検すると宣言し、しかもその様子をテレパシーのような能力でバロウズに伝えるというのだった。
やがてロケットに乗って火星へ向けて出発したカースンだったが、思わぬ見落としによってそのコースは大きくずれ、到着したのは金星だった・・・。
いつものバロウズ節で面白いのだが、本作は非常に突っ込みどころが多いのも特徴の1つだと思う。
まずはいきなり地底世界シリーズのスピンアウトのような始まり方であること。
いきなりバロウズにジェースン・グリドリーからの電話がかかってきて、ターザンとともに地底世界を冒険して帰還したが(地底世界シリーズ4 地底世界のターザン)、フォン・ホルスト(地底世界シリーズ5 栄光のペルシダーの主人公)を置き去りにしてしてきたことを気にしている様子が描かれるのだ。
異なるシリーズでここまであからさまに他シリーズの状況に言及したのは初めてで、なんだかマーベルの例のシリーズみたいだと思った(笑)
またその後カースンがバロウズにテレパシーを送れる云々の展開があるのだが、このへんお冒頭部分は明らかに単行本化の際に付け加えられたものらしく、あとでカースンが宇宙で死んでいくのを誰にも知られることはないと、矛盾した想いを抱いたりしている。
本作最大の突っ込みどころは初めてまともに描かれた宇宙旅行の部分で、なにしろ火星シリーズではわけのわからない精神パワーみたいなので火星と行き来していたので(笑)、そういう意味では大きな進化とも受け取ることができるが、どうも流石のバロウズ先生も正面からの物理学となると執筆当時の1933〜1934年頃ではなんだかよくわかっていなかったらしく、読んでいて何度もひっくり返りそうになった(笑)。
まず火星を目指すロケットだが、なんとこれには軌道修正の手段は一切与えられておらず、弾道飛行で火星に向かうのだ。
それはまあ発射のタイミングと各惑星の重力の影響を計算すれば不可能ではないと思うし、実際そのように実行されるのだが、なんとカースンは重力の計算に月を組み込むのを失念していたのだ(笑)
その結果色々な天体の重力の影響で(ここの説明も突っ込みどころが多い)金星にたどり着いてしまうのである。
ところでこのロケットだが、1年分の水と食料と電気を確保している。
いったいどうやったらそんなことができるのか、この時点でも驚きだが、それよりもその確保すべき要素に酸素が含まれていないのが超びっくりポイントである。
なのに最後の金星突入時には酸素ボンベが登場するのだ(笑)
重力に関しても、上に書いた通り惑星の重力がロケットのコースに影響するという描写はあるのに、船内の無重量状態には一切言及されず、それどころかカースンは船内で普通に料理したりコーヒーを淹れたりしているのだ(笑)
その割に金星が近づいて機首を下にして金星に突っ込んでいくシーンでは、重力が変更して機首方向が下になるという描写があったりする(笑)
ちうか金星の重力に引っ張られて加速しているのだから、むしろ重力は逆に働きそうな状況のような・・・。
そしてそもそもどうやって目的の惑星に降り立つのかというと、なんと惑星の大気圏に入ったらパラシュートを開いて減速し、十分に減速されたらカースン自身が簡易宇宙服をつけて(ここで酸素ボンベが登場)パラシュートで単独落下するという豪快な方法なのだ。
ちなみに惑星突入時のロケットの速度は秒速16kmを越えている(笑)
というわけで宇宙飛行シーンはあまりにも豪快すぎて目を白黒させるしかないのだが、金星に降り立ってからはいつものバロウズ節が炸裂し、非常に魅力的な異世界が描かれる。
最初にカースンが遭遇したのは超巨大な木々が密集した森の樹上に作られた金星人の街で、そういう異世界を描くのはお手の物なので細かい描写にも説得力がある。
またこの世界はガスに覆われているので太陽光は入ってくるが誰も太陽を見た者はおらず、世界も円形だと考えられていて、カースンはこの世界の地図の中心部が実は金星の赤道であると気付くとか、金星語の文法も説明されたり、奇妙だけど陽気な鳥人のキャラクターとか、まさにバロウズの真骨頂と言える内容で実に面白い。
またこの世界独自のテクノロジーとして放射性元素を組み合わせて武器や動力など、様々な形で利用するという描写があり、そこで言及されるのが元素番号93と97と105で、いずれも執筆当時は発見されていないのだが、実際の元素の性質が描写と全然違和感の無いもので、もしかしたら金星のテクノロジーを再現できるのではないかとさえ思わせる。
その後カースンが樹上世界から逸脱してしまったあとは、タイトル通り海賊ものになってやっぱり魅力的なヒロインも登場し、これまたやっぱり盛り上がる。
また本作は執筆された年代の影響もあるのか共産主義の本質をとらえた描写も非常に多く、まさに今現在に起こっている状況とそっくりな展開などもあったりして、ほんとに見どころが多すぎる。
ちうわけで突っ込みどころと見どころ満載で非常に面白かった。
やっぱりバロウズ先生の器の大きさは桁違いなのだ。
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