日本の高度経済成長は1955年から1972年までだが、ちょうど自分が生まれてから高校生になるまでの時期と重なっている。
小学校のころだったか、もう中学生だったかははっきりしない。同級生の家に遊びに行ったことがある。小学校のすぐ横にある家だった。我が家は校下の端で、子どもの足では通学に30分ほどかかった。
うちは借家の二階だけで、友だちを家に呼べるような環境ではなかった。もっとも、当時は外で遊ぶことが多く、それを特別不自由だと思った記憶もない。
その彼と特別に親しかったわけではない。高校生になってたまたま再会したとき、彼が少年合唱団に入っていたと聞いて驚いた。当時は、教師が声のいい子を推薦して入団させていたはずで、実際、年を重ねても少年合唱団のOBには、声のいい人、歌の上手い人が多い。自分には縁のない世界だと思った。
彼の家で、お母さんが紅茶を出してくれた。ティーバッグだった。
「これ、何?」
「ティーバッグだよ」
砂糖をスプーンで入れる。甘くて、いい匂いがした。
ずいぶん後になって別の同級生と話したら、「でも、彼の家も借家じゃなかったかな。引っ越したし」と言われた。そうだったのかもしれない。
その後、自分はインスタントコーヒーを飲むようになった。紅茶のティーバッグは、何杯おかわりしても色があまり変わらず、どこか着色されているように感じられて、しっくりこなかった。
高校合唱部の一学年下の後輩の家に行ったとき、紅茶の缶がいくつも並んでいて、「これがアールグレイ」と言って飲ませてくれた。家族というより、彼自身の趣味だったように思う。
自分がインスタントコーヒーからドリップに変えたのは、たぶん三十を過ぎてからだ。今でも、紅茶はちょっぴり遠い世界にある。
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