「海が好き!2020」
https://www.pixiv.net/artworks/82683485参加作です。
バイアンの不用意な発言から海将軍たちが遠泳をする羽目になる話。なんかやっつけな話ですみません…。
時期としては本編開始の四年前で、アイザックとソレントはまだ海界に来てない設定です。ソレントが泳ぎが苦手という設定は『倫敦三重奏』
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=3351082にちょっと出てきます。
一応、マイオリジナルの海界設定(『ポセイドニア・コモーディア』
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=3455689あたりを参照)を踏襲してますが、気にしなくても読んでもらえます。
昨年の参加作はこちら。『クラーケンの覚醒』
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=11401494
はるか様、今年も楽しい企画を開催いただき、ありがとうございました!
『海で泳ごう!』
スニオン岬の岩牢から海底神殿にたどり着いたカノンが、アテナの壺の封印を解き、ポセイドンの魂を解放してからおよそ九年後。
大海の表に満ちた海皇の意志に惹かれて、ポセイドンの戦士たる海闘士たちが海界に集結しつつあった。
中でも最高位の闘士である海将軍は、海将軍筆頭・海龍を名乗るカノンを始め、海馬のバイアン、スキュラのイオ、クリュサオルのクリシュナ、リュムナデスのカーサの五人がそろい、空位の海将軍位は海魔女とクラーケンの二つとなっていた。
そんなある日の夏、十四歳になる海馬のバイアンが突然、カノンにこんなことを言ったのだ。
「シードラゴン、バカンスにはいつから入るんです?」
「…は?」
執務机の前で読んでいた書類から顔を上げ、意味が分からないという感じのカノンに、バイアンはさも当然というふうに続けた。
「え?いや、夏でしょう?夏になったら、長期休暇をとってバカンスに行くものではないんですか?」
「………」
いまだに地上の生活感覚が抜けていないらしいバイアンの言に、カノンは眉をひそめて険しい顔になった。地上の豊かな先進国の人間ならいざしらず、夏だからとのんべんだらりと仕事を休んで長期休暇を取るような贅沢をする余裕も習慣も、海界の民にはない。「昔ながらの」と言えば聞こえはいいが、科学技術文明が地上ほど進んでいない分、不便で慎ましい生活をせざるを得ないというのが海界の実情である。
そこへ、ちょうどカノンに書類を運んできた十三歳のイオがバイアンの言葉を聞き、「はい!はい!はい!」と慌てて手と声を上げた。
「バカンス!?シードラゴン、それなら、私は海に行きたい!海で泳ぎたい!海に遊びに行きましょう!」
「海、海、海!」とイオが騒ぎ続ける。さらにカノンの仕事を手伝っていた今年十七歳になるリュムナデスのカーサまで、こう言い出した。
「夏に海水浴ですか〜!いいですね〜。南国の青い海!白い砂浜!そこで波と戯れるボンキュッボン!な女の子たち!行きましょうよ、シードラゴン!」
「皆で海水浴か…。たまにはそういう行事をするのも楽しそうだな」
普段は謹厳を絵に描いたような十五歳になるクリュサオルのクリシュナまでもが「皆で海にバカンスに行く」話に乗り気になる。
まだ海界に来て日も浅く、カノンの恐ろしさをよく知らない若い海将軍たちは、実に無邪気だった。なんといってもまだ思春期の少年たちなのだ。使命感よりも遊びたい気持ちのほうが強くても仕方ない。
「そうか、そんなに海で泳ぎたいか、お前たち…」
わいわいと「皆で行くバカンスの計画」を勝手に話し合って盛り上がっている年若い海将軍たちに、カノンはにやりと危険な笑みを頬に浮かべた。
「そうか、海で泳ぎたいか。そうか。ふっふっふ…」
「シードラゴン?」
きょとん、とした顔になった海将軍たちの前で、カノンは剣呑なオーラを振りまきまくったのだった。
「…というわけで、二週間後に遠泳大会を開くことにした。お前たちに海で一〇�劼魃砲い任發蕕Α3銅�、この二週間の間に水泳を特訓しておけよ」
その三日後、カノンに呼び集められた海将軍たちは、一〇�劼留鷄紡膕颪粒�催を彼から知らされて、さーっと青ざめたのだった。
「海で泳ぎたいんだろ、お前たち?たっぷりと泳がしてやるぞ。嬉しかろう。ん?」
意地悪げに笑いを見せるカノンに、バイアンが頭を抱えた。
「違う…。海で泳ぎたいって、そういう意味じゃない…」
「鬼!悪魔!人でなし!シードラゴン!」
イオがカノンを非難して叫ぶ。
「一〇�辧帖�やべぇ…絶対に溺れる…」
カーサも蒼白になり、クリシュナに至っては無言だった。
「やかましい!バカンスだのなんだの、何をたるんだことを言っているか!お前たちには、地上粛清のためのポセイドン様の闘士としての覚悟と自覚が足りん!」
実際のところ、カノンが考えているのは「地上を粛清してポセイドン様のもと理想の世を…」などということでは全然なく、自分が大地と海を支配するという野望実現だけであった。だがそれはそれとしても、夏のバカンスがどうたらと言っている他の海将軍たちの呑気さ加減には呆れ、かつ危機感を覚えた。己の手足となってアテナ軍と戦うはずの海将軍がこんな有様ではアテナとの聖戦での勝利など見込めず、自分の野望実現もおぼつかない。そうブチ切れた結果が、この遠泳大会の開催と相成ったのであった。
カノンに激しく叱り飛ばされて、その怒鳴り声にさすがに若い海将軍たちが身を縮めた。さらにカノンは畳みかけた。
「それに海将軍たるものが泳げないようなことがあっては、ポセイドン軍の恥だ!この際、徹底的にお前たちの心身双方を鍛えなおしてやるぞ!覚悟しておけ!」
「…でも一〇�劼皹砲�なくても…」
イオが性懲りもなくぶつくさと文句を言う。だが即座にカノンの反論が飛んだ。
「本来なら二〇�劼榔砲�せたいところを、半分にしてやったんだ!それだけでもありがたく思え!それにおれも一緒に泳いでやるんだから、これ以上は文句を言うな!」
「「「「ひえ〜〜〜〜〜っ」」」」
カノンの怒声と年長者の威厳の前に、海将軍たちは悲鳴とともに沈黙した。
バイアンは不用意な自分の発言を後悔したが、今さら遅かった。
かくして海将軍たちが誰一人として望んだわけでもない夏の遠泳大会が、強制参加で開かれることになったのだった。
そして遠泳大会の当日。ボートに乗せられて一〇�劼硫�合まで運ばれた水着姿の海将軍たちは、文字通りカノンによって海に蹴り落され、浜辺を目指しての遠泳が始まった。
「無理…無理…。もう死ぬ〜…」
ジャバジャバと海面を掻きながら、溺れているのか泳いでいるのか分からない有様でイオが海の中でもがきつつ、それでも浜に向かって前進していた。
「スキュラ様、頑張ってくださーい!」
「もう半分は消化しましたよ!あと少し、あと少しですよ!」
万が一、溺れた者がいてもすぐに救えるようにと、海闘士の雑兵たちがボートに乗って泳ぐ海将軍たちに並走して、彼らのサポートについている。そんな雑兵たちがボートの上から泳いでいる海将軍たちに激励を飛ばした。
「…ってか、なんで雑兵たちは泳がせないで、私たちだけ泳がせるんですか。不公平じゃないですか」
「あいつらは前に基礎訓練でおれが二〇�劼留鷄砲鬚気擦拭J原腓鮓世辰討覯砲�あるなら、さっさと泳げ、バイアン」
「……」
自分の知らぬうちに、自分たち以上に雑兵たちがカノンにしごかれていたと知り、バイアンは黙って遠泳を再開した。長い髪をまとめたカノンは他の海将軍たちの後方を泳ぎ、脱落者がいないかしっかりと彼らを見張っていた。
そんなバイアンの横をクリシュナがすいすいと泳いで彼を抜き去っていく。
「…クリシュナ、お前、意外に泳ぎがうまいな」
「故郷では毎日のように海で泳いでいたからな。『セイロン島のソードフィッシュ』とは私のことだ」
「そ、そんな二つ名がお前にあったとは…」
驚きながら、バイアンも遅れまじとクリシュナの後について泳いでいく。そんな二人を横で抜き去る人影があった。それは長い髪をまとめたカノンの姿だった。
「…あれ?シードラゴン?」
「我々の後ろを泳いでいたのでは…」
不思議そうな顔でバイアンとクリシュナが自分たちを抜き去っていくカノンを見る。だがその時、後方からカノン本人の怒声が飛んできた。
「くぉら!カーサ!おれの姿に化けて、おれの能力を使って泳ぐな!自力で泳げ!」
「…ちっ、ばれたか…」
カノンの姿でカーサが舌打ちする。
「ずるいぞ、カーサ!」
「そうだ、そうだ!」
「へ〜いへい。自分の姿で泳ぎますよ」
バイアンとイオに非難され、カーサは姿をカノンから本来の自分にと戻した。
「お前たち、遠泳が終わった後はバーベキューを用意してるからな。焼肉を食い放題だぞ!それを楽しみに泳げ!泳がなければ食わさんぞ!」
背後から容赦なく海将軍たちをカノンが叱咤激励する。
「鬼だ…鬼がいる…」
「地獄の鬼より怖ぇ…」
「くっそーっ!肉!肉!肉!こうなったら、肉を山ほど食ってやるー!」
「うおおおおーっ!」
こうしてカノンに背後から叱咤されながら、海将軍たちは小宇宙を燃やして何とか一〇�劼魃砲�切ったのだった。
「肉〜…!肉がうまい〜…!」
遠泳大会後の焼き肉大会で、イオは涙を流しながら炭火で焼いた脂分たっぷりの上質な牛肉にかじりついた。
一〇�劼魃砲�切った直後は砂浜でへたっていた彼らだったが、そこは若さもある。間もなく復活し、さらに焼き肉の香ばしい匂いがしてくると、食欲に誘われるがまま、バーベキュー台の周りに群がったのだった。
「皆さま、追加の肉ですよー!」
雑兵たちが追加の肉を海将軍たちに差し入れる。牛一頭を食いつくす勢いで、思春期の少年たちは肉を食いまくった。
「おお、ありがとう!」
「どういたしまして。おれらも向こうで楽しんでるんで」
「お前ら、好きなだけ食えよ。今のうちに食べて、しっかりと体を作るんだ」
鷹揚にカノンが後輩たちに勧める。
「はーい、シードラゴン!」
「しかしうまい肉ですね、これ」
鬼だの悪魔だのと罵ったことも忘れてて、あっさりとカノンに胃袋をつかまれる育ち盛りの面々であった。
そんな彼らの中で、クリシュナだけは黙々と野菜を食べていた。
「クリシュナ、お前も肉を食べたら?」
「いや、私は菜食主義なので」
「それでは体がもたんだろ」
「大切なのは肉体よりも精神を鍛えることだ」
そう言って野菜だけを選んで食べるクリシュナであった。
「クリシュナ、あっちにお前の食べられるチーズとか東洋のトーフとかの皿を用意させたから、それを取ってきて食え」
「ありがとうございます、シードラゴン」
こんな感じで、和気あいあいとした雰囲気の中、バーベキュー大会は続いた。ビール瓶を手にして中身をラッパ飲みしたカノンが皆に言う。
「しかし、皆、よく今日は頑張った。これなら来るべき聖戦でも十分に力を発揮してくれることだろう。ポセイドン様もお喜びだ」
「…いや、キンキンに冷えたビールを片手に言われても説得力が全然ないんですけど」
肉をほおばりながら、冷めた目でカノンを見たバイアンが答える。確かに、海パン一丁にパーカーを羽織っただけのカノンがビール瓶をラッパ飲みしながら海将軍たちにもっともらしい説教をしても、真剣さに欠けていた。カノン自身からして「ポセイドン様の御ために」などとは毛ほども思っていないのだから、言葉がなおのこと嘘くさく空々しいのであった。
「あ、飲み物はあっちの水槽で冷やしてあるからな。お前たちも好きなものを取って飲め。ただしお前たちはソフトドリンクだけだぞ。未成年なんだから」
と、カノンはドリンクを用意させた氷入りの水槽を指差した。海将軍たちが各々、好きな飲料を中から取る。その中で、カーサが一人ビールをあおっているのをカノンは目ざとく見つけた。
「こら、カーサ!お前はまだ十六歳だろうが!十八歳になるまで待て!」
海界では十八歳が成年とされる。カーサの未成年飲酒の現場を発見したカノンは彼を叱り飛ばした。
「え〜、いいじゃないですか、あと一年ちょっとくらいの差ですよ〜」
「だめ!」
「…なんでそういうところは厳しいんすかね…」
カーサはしぶしぶとビールを手放し、水槽から別のソフトドリンクを選んだ。
「ああ〜。でもこういうのもなんかいいよな〜」
ノンアルコールのシードルを飲みながら、イオが呑気に言う。
「そうだな。一体感というか、達成感というか…。これはこれで楽しかったな」
イオの言葉を受けてバイアンが発したその感想に、カノンがこう続けた。
「そう
か。じゃあ、毎年やるか」
「……え?」
遠泳大会の開催を唐突に知らされた時のように、若い海将軍たちは再び、さーっと青ざめた。
「まだ空位の海将軍職が二つあるしな。そいつらが泳ぎの出来ない奴だったら話にならん。決めた、毎年やるぞ」
「「「……………っっっ!?」」」」
若い海将軍たちはもはや悲鳴も出せなかった。
こうして海将軍たちは毎年一〇�劼留鷄砲鬚垢襪海箸砲覆辰燭里世�、最後にやって来た海将軍のソレントだけは夏に間に合わず聖戦が始まったため遠泳大会に参加せず、「唯一泳ぎが苦手な海将軍」になってしまったのだが、それは後の話である…。
<FIN>
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