mixiユーザー(id:4632969)

2020年05月30日20:45

132 view

『シードラゴン様はサガ成分が不足しているようです』

 2020年の双子誕作品です。
 聖戦後復活設定でロスサガ・ラダカノ前提。
 誕生日を一緒に過ごすためにカイーナにカノンを招いたラダマンティス。しかし現れたカノンはサガの姿をしたぬいぐるみを抱えていて…という話。
 カノンのブラコンぶりが度を過ぎて、相変わらずちょっと気の毒になるうちのラダです。
 しかし兄のぬいぐるみを抱き締めて「寂しい、寂しい」と言ってる男(28歳)が、「うわーっははは!おれは大地と海の神になるのだーっ!」と高笑いしてたとか、いやー、色々とこじらせた上司を持つ海闘士の皆さんは大変ですねー(棒)。
昨年の双子誕作品はこちら。『まどろみ』https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=11160455

『シードラゴン様はサガ成分が不足しているようです』

 5月30日は、双子座の黄金聖闘士であるサガとカノンの誕生日である。
 今は教皇アイオロスの首席補佐官を務める兄のサガは聖域で、海将軍筆頭・海龍を兼任しているカノンは海界でと、二人は普段は別々に過ごしている。
 なので、誕生日のその日は、いつもは離れ離れになっている兄弟が二人そろって一緒に過ごして親睦を深めるのがいつごろからかのお約束となり、サガの恋人である射手座のアイオロスも、カノンの恋人である冥界三巨頭の一人、天猛星ワイバーンのラダマンティスも、互いの恋人の同胞に遠慮して、その日は自分の恋人に誘いは掛けないでいた。
 だが、今年は違った。理由は、新型コロナウイルスの流行である。
 狭い海界に新しい疫病を地上から持ち込んでは大変だと、カノンはサガとの接触を避けることになった。
 チャンス到来!と思ったのが、ラダマンティスである。兄弟仲の良い双子たちにはいささか悪いが、冥界ならば疫病にかかる心配はないと、ラダマンティスは誕生日にカノンを自分の居城たるカイーナに招いた。予定のなかったカノンはもちろん、彼の招待を受け、ラダマンティスは「久々にカノンとラブラブな誕生日の夜を過ごせる!」と、期待に胸を躍らせてその日を待った。カレンダーの日付を眺めつつ、待った。ひたすら待った。とにかく待った。
 そしてカノンの誕生日の当日、カイーナを訪ねてきた待ち望んでいた恋人の姿に、ラダマンティスは目を丸くする羽目になった。
 なぜなら、カノンは全長が五十センチを超えるだろう、大きなぬいぐるみを抱えていたからである。
 丸っこい二頭身のそのぬいぐるみの髪は、薄い青色のフェルト生地で作られていた。最初、そのぬいぐるみを見た時、ラダマンティスはカノン自身の姿を模した物かと思った。
 だがすぐにそうではないと彼は気づいた。そのぬいぐるみは、黒い生地に金糸で刺繍をされた法衣を着ていて、カノンというより、双子の兄サガの姿を模した物であるらしかった。
 ラダマンティスの私室に入ったカノンは遠慮なく長椅子にどっかりと腰を下ろすと、そのぬいぐるみを膝の上でむぎゅーっと抱き締めた。
「…カノン、そのぬいぐるみはどうした?」
 ようやく、ラダマンティスが尋ねる。カノンが寂しそうにため息をついて答える。
「ああ、これか…。海界のニンフが作っておれにプレゼントしてくれたんだ」
「誕生日の贈り物か?」
「まあ、そんなところだ。ちょっと早いがな」
 そしてぬいぐるみを「むぎゅー」っと抱き締めたまま、カノンは再び大きなため息をついた。
「サガに会えないんだ。もう何か月も…」
「ああ、新型コロナウイルスの流行が収まらないからな」
 ラダマンティスの返答に、突如、カノンは大声を上げた。
「あー!サガに会いたい!会って、ぎゅーって抱き締めたい!髪に顔をうずめて、くんかくんか匂いを嗅ぎたい!ほっぺにちゅーって『おはよう』や『おやすみ』のキスがしたい!二人で食事をして、『あ〜ん』ってご飯を分け合いたい!一緒に風呂に入って、背中の流しっこをしたい!手をつないで、同じベッドで眠りたい!サガー!サガに会いたい!ちくしょー!おれがこうしている間にも、アイオロスの奴が邪魔する者もなくサガといちゃついているかと思うと…むかつく!むかつくーっ!くっそーっ!」
 兄の代わりに、兄の姿を模したぬいぐるみを抱き締めながらカノンがまくしたてる。そしてカノンは長椅子にがばっとぬいぐるみを押し倒すと、柔らかなその胴体に顔をうずめた。
「うう…サガに会いたい…。今のおれにはサガ成分が圧倒的に不足している…っ!」
「……」
 サガ成分とは何だろう、とラダマンティスは考えながら恋人の姿を眺めた。サガの髪の香りの分子か何かだろうか?兄の恋人のアイオロスに嫉妬する様を見せたり、一緒にいる時は二人を邪魔したりと、相変わらず「兄弟仲が良い」と通り越して、怪しいまでに親密すぎるブラコンぶりが大爆発しているカノンの様子に、恋人としての自分の存在意義をふと疑ってしまうラダマンティスであった。
「…うん、まあ、今は新型コロナウイルスの感染対策があるから、教皇とサガもそんなにいちゃつけないのではないか?」
「だといいけどさぁ…。ともかく、それでおれがサガに会えなくて落ち込んでたら、ニンフが『せめてもの慰めに』って、このぬいぐるみを作ってくれたわけ」
「ああ、なるほど…」
 サガに会えないストレスから相当にカノンが荒れていたのだろうなぁ…と、ラダマンティスは海界にいるカノンの側近たちに同情した。きっと周囲に八つ当たりをしまくっていたに違いない。それを見かねてニンフたちが知恵を絞った結果が、「サガを模したぬいぐるみをカノンに与えること」だったのだろう。
 はあ、と、ため息をつきながら、カノンが体を起こして長椅子に座りなおす。相変わらずぬいぐるみは抱えたままだ。
「しかし、いくら気に入っているとはいえ、カイーナにまで持ってこなくても…」
「だってさぁ…。最近、これを抱いてないと寝つきが悪いんだよ」
「……」
 お気に入りの毛布がないと安心しない幼児か!?と「ライナスの毛布」の逸話を思い出し、内心でラダマンティスは突っ込んだ。そしてふと気づいた。
「…いや、ちょっと待て、カノン。もしかして、今夜もそのぬいぐるみと一緒に寝る気か?」
「?なにか問題が?」
「いやいやいや!さすがにそれはおれが嫌だ!」
 慌ててラダマンティスが拒否を示す。
「え、なんで?」
「サガの姿をしたぬいぐるみだぞ!おれとお前の情事をサガに監視されている気になるではないか!?」
「え〜…」
 カノンが不服そうに言う。
「それならそれで、いっそう燃えない?」
「燃えん!おれにはそういう趣味はない!とにかく、今夜はそのぬいぐるみは別室に置いておけ!」
「でもこれがないと寝つきがな〜…」
 ぬいぐるみを眺めながらカノンがぼやく。
「今夜はおれが寝かせてやるから!心配するな!」
 思わずそう言ったラダマンティスに、カノンは目に艶っぽい光を浮かべた。
「へぇ…」
 ちろり、と赤い舌先をのぞかせてカノンが己の唇を舐める。
「お前がおれを寝かせてくれるんだ…」
 色っぽいカノンの仕草に、どっきゅーん!と、ラダマンティスの心臓がエロス神の矢で貫かれた。
「お、おお!」
 どぐばぐと脈打つ心臓と頭に上った熱い血を自分でも持て余しながら、ラダマンティスが相槌を打つ。にいっとカノンが凄艶な笑みを見せる。
「今夜は期待してるぜ、ラダマンティス」
「ま、任せておけ!」
 勢いで請け負ったまま立ち尽くしているラダマンティスに、カノンは色めいた視線を送り続けた。
『これは…誘われている!』
 ラダマンティスはカノンの誘惑に応じることにした。愛しい恋人に飛びつこうとした、その時。
 扉をノックする者がいた。
「ラダマンティス様、お時間です」
 扉の外から声をかけたのは、ラダマンティスの副官たる天哭星ハーピーのバレンタインだった。カノンに飛びつこうとした姿勢のまま、ラダマンティスが固まる。
「どうした、ラダマンティス?」
「…いや、実は一件、亡者の裁判が残っていて…」
 ラダマンティスの答えに、途端にカノンの機嫌は奈落まで落下し、美しい顔が険しく変わった。
「こんな日まで仕事かよ」
「す、すまん。本当にすまん、カノン…」
「ったく、亡者の裁判なんか、さぼればいいだろ。アケローン河にでも適当に流せよ。そしたらあとは河の流れが勝手に片づけてくれるだろ」
「お前はまたそういうことを…。そういうわけにはいかん」
 はあ、とため息をついて、くそ真面目な顔でラダマンティスが自分の法衣に袖を通して詰襟を閉める。
「すぐに戻る。酒でも飲みながら待っててくれ」
「そうする」
 そしてカノンは目を細めて、流し目をラダマンティスに送った。
「早く戻ってこい。でないと…一人で始めるぞ」
 熱を込めたささやきに、再びラダマンティスの心臓にエロス神の矢が刺さった。カノンに飛びつきたくなる衝動を必死に抑えて、ラダマンティスは謹厳な判官の表情を作ると、泣く泣く法廷に出かけていったのだった。

 そして法廷から戻ってきたラダマンティスが見い出したのは、兄のぬいぐるみを抱きかかえたまま長椅子の上で身体を伸ばして昼寝をするカノンの姿であった。

<FIN>

【小説一覧】https://mixi.jp/view_diary.pl?id=1585571285&owner_id=4632969
0 0

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する

<2020年05月>
     12
3456789
10111213141516
17181920212223
24252627282930
31      

最近の日記