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2016年10月18日03:41

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『レーテの女怪』第2話

『レーテの女怪』第2話

 レーテ河では河につかって水を飲む順番を待つ亡者たちが列を成していた。ラダマンティスは河筋にそって飛行しながら、異変のある場所を調べた。すると、河の中で亡者たちが群れを作っている個所を発見した。
「あそこか…」
 ラダマンティスが高度を落とす。すると亡者たちの群れの中央からざばっと河の水が水柱となって立ち上った。水柱は、下半身が魚とも水蛇ともつかぬ姿をした、長い髪を持つ女の形に変わった。水で形作られた女怪が歌うような声を上げる。
『まあ、素敵な殿方が来られたこと。コレクションのしがいがありそう』
 長大な下半身をくねらせて河面を進み、女怪はラダマンティスの前にと進み出た。
「近頃、亡者たちの魂を集めて輪廻転生を妨げている魔物とはお前のことか。この河から出ていってもらうぞ」
『いやよ。この魂たちは私の大切な宝物よ。渡さないわ』
 女怪が笑う。
『うふふ、見える…見えるわ、あなたの心が…。大切な人に去られて傷ついているのね…』
 女怪の体を形作る水が動く。女怪は姿を変え、ラダマンティスにとってはなじみ深い人間の姿になった。それは、恋人であるカノンの姿だった。
『さあ、いらっしゃい。私の腕の中で、ずっとあなたに楽しい夢を見せてあげる』
 カノンの姿をとった女怪が微笑み、ラダマンティスに腕を差し伸べる。
「断る!」
 ラダマンティスは水面を蹴り、女怪に向かって突進した。
「カノンの姿を取ったこと、後悔させてくれる!」
 そして彼は必殺技を放った。
「グレイテストコーション!」
 だがラダマンティスの拳の衝撃波は、女怪を形作る水を弾いただけだった。離散した水滴は再び集合し、カノンの姿となる。
「…ちっ!」
『ふふふ…』
 女怪の姿が分裂した。カノンの姿が十数人にもなり、ラダマンティスの周囲を取り囲む。
『さあ、本体はどこかしら?』
「くそ…っ」
 次から次に襲い掛かってくる無数のカノンを、ラダマンティスは拳で攻撃した。だが水は分散するごとに、新たな「カノン」となって彼にとびかかってくる。入れ代わり立ち代わり、「カノン」がラダマンティスに接近しては、遠ざかる。まるで彼をからかっているかのようだ。
「ええい、鬱陶しい!」
 ラダマンティスは急上昇し、女怪から距離をとろうとした。その時、直下からレーテ河の水が吹きあがった。水がラダマンティスの体を捕えるかのようにまとわりつく。
『レーテの水の姉妹たちよ。その男を捕えて!』
 女怪が声を上げる。「忘却」の力を持つレーテ河の水が幾本もの筋となってラダマンティスに追いすがる。ラダマンティスは翼を旋回させた。蛇行し、自分を追う水の動きを回避して振り切ろうとする。だがカノンの姿をとった水の化け物たちが再びラダマンティスの前方から距離をつめ、水の体でもって彼を絡めとろうとしてきた。間近に迫るカノンそっくりの顔にラダマンティスは苛立ちを隠せなかった。幾人ものカノンの顔が、自分を誘うように艶然と笑いかけ、次々に自分をのぞき込んでは離れる。
「このまがいものが…!」
 ラダマンティスは間近にあった「カノン」の顔を殴りつけた。だが単純な攻撃は、女怪を形作る水の姿を乱すだけだった。女怪はラダマンティスを傷つけることは出来ないでいたが、ラダマンティスも女怪にダメージを与えることは出来ずにいた。やがて攻撃を繰り返すうち、ラダマンティスの体に疲労が溜まってきた。そしていつしか彼の周囲にはレーテ河の水からなる大小無数の水滴が浮いていた。
「むっ…!」
 息の上がったラダマンティスが動きを止めた一瞬、周囲の水滴が一斉にラダマンティスに襲い掛かり、集中した。それは大きな水球となって彼の体を覆った。「忘却」の河の水の魔力がたちまちのうちにラダマンティスの意志を絡めとる。そして彼は水球の中で意識を失った。 

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