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2026年09月30日21:24

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メタモルフォセス群島

を読んだ。筒井康隆著
毟りあい
 サラリーマン井戸が帰宅すると、家が警官隊に取り囲まれていた。
小古呂という脱獄犯が井戸の妻子を人質にして立てこもっていたのだ。
警察から状況を聞き、マスコミにマイクを向けられ、自分に味方はいないと悟った井戸は、ある決意を抱いて犯人の妻の説得役を名乗り出る・・・。

 昔読んだときにはさほど印象的ではなかった警察やマスコミの扱いが今見るとまさに的を得ているという感じで、特に現在のマスコミの状況を考えると筒井の目の確かさに感心する。
メインのストーリーはまさに1発アイデアから発展させたような感じだが、筒井ならではの一定のリアリティを残している空気感が面白い。
ただしオチはしょうもない(笑)

五郎八航空
 無人島へ取材に出かけた記者である「おれ」とカメラマンの旗山だったが、台風の接近により帰れなくなる。
「おれ」が編集長にクビにされるのをおそれてなんとか帰れないかと思っていると、島には不定期の怪しい航空便があることを知り・・・。

 五郎八航空の赤ん坊を背負った副パイロット(笑)が愉快で、描写の一つ一つが面白い。
また本作は描写や舞台などが化夢宇留仁が最近ちょこちょこ読んでいる「あやしい探検隊」シリーズの初期の雰囲気に近く、「あやしい探検隊」の途中からこそっと本作につなげても気づかなさそうだと思った(笑)

走る取的
 サラリーマンの「おれ」は同窓生の亀井と同窓会の打ち合わせがてら学生時代からの馴染みのバーで飲んでいた。
話は自然に同窓生の話になり、「松尾」が相撲取りみたいに太ったというような話をして笑っていたが、ふと見るとカウンターに取的が座って飲んでおり、こちらをにらんでいた。
「おれ」は亀井が空手の有段者ということもあって取的に睨み返したりしていたが・・・。

 筒井の代表作の一つ。
名作なのかどうかは化夢宇留仁にはよくわからないが、一度読んだら一生忘れられないくらいの印象深い内容なのは確かだと思う。
物忘れの激しい化夢宇留仁もこの作品の内容だけは忘れたことがない(笑)

喪失の日
 若手だが将来を有望視されている会社員藁井勇は、秘書課の野口圭子から「今夜ならOK」という言葉を聞いて舞い上がる。
というのも先日のデートでホテルに誘ったが、OKな日には伝えると言われて断られていたのだ。
藁井はエリートになるために勉強とスポーツに励み、24歳で童貞だったが、圭子は彼が童貞喪失するのにふさわしい相手だと選び抜いた女性だった。
有頂天になった藁井は、脳内で完璧な童貞喪失の夜を過ごすためのシミュレーションをはじめるが・・・。

 実に筒井らしいいわゆるドタバタだが、化夢宇留仁は本作を読み続けるのはほんとに辛かった。
自分の経験に照らし合わせているというのもあると思うが、それを口に出してしまうといういかにもな展開があわさって、なんとも言えない居心地の悪さを感じてしまうのだ。
普通に面白い短編だとは思うが(笑)

定年食
 定年を迎えた寺村は、会社を辞して帰宅する。
家には親類縁者が集まっており、彼の定年のお祝いが開かれようとしていた・・・。

 藤子不二雄の「定年退食」と比べられるのが宿命と言える作品。
「定年退食」は1973。本作は1975年の作品らしい。
当然筒井は「定年退食」の存在を知っていたものと思うし、だからこそ本作では更にエスカレートした内容にしたのだろう。
テーマ性をリアリティをもって描き出すという意味では「定年退食」の方が圧勝だと思うが、本作はそこに新たな要素を付け加え、その独自の狂気の方をクローズアップしているので並列に並べて比較するべき作品ではないとは思う。
ないとは思うが、流石にこれはないやろ(笑)

平行世界
 玄関のチャイムが鳴ったので出てみると、そこには「おれ」がいた。
しかしその「おれ」はどことなく様子が違った。
この世界はニヶ月前にパラレルワールドが平行に無数に並ぶ異常な状態になっており、その「おれ」は250層以上離れた平行世界から来た「おれ」だったのだ。

 上に山があり、斜面の住宅地を挟んで国鉄が通り、その下は海に続くという風景を上手く活かして「ラーマ」並の景観を読者に想像させた筒井の手腕に拍手。
そんな大スケールのSF的ビジョンを生み出しておいて、物語自体は下世話なところから一歩も出ないところが筒井の残念なところでもあり、素晴らしいところでもあると思う。

母親さがし
 久しぶりに大阪へ戻ってきた主人公のは弟のアパートに顔を出すが、弟は酔いつぶれており、見たことのない6歳の少年がいるのに驚く。
しかも半分寝ている弟に聞くと、少年は彼らの更なる弟らしかった。
幼い弟をこのままにはしておけないと母親(二人にとって)のところに連れて行こうとするが、母親が今住んでいる場所がわからず・・・。

 主人公の台詞でほとんどが占められたベタベタに大阪な落語みたいな作品。
非常にノリがよく、読んでいて楽しい。
オチもベタベタな感じで、それはそれでよし(笑)

老境のターザン
 年老いたターザンは相変わらず雄叫びをあげながら木々の間を飛び回ったりしていたが、老眼がひどくて木じゃないもの(サルの尻尾とか)を掴んだりしてしょっちゅう墜落していた。
ジェーンはというと丸々と太り、観光探検隊にターザンを見せてお金を得ることを生業としていた。
しかしターザンの体力はすでに限界であり・・・。

 そもそも本短編集を読み直すきっかけになったのが、ホームページの掲示板で本作への言及があったからだった。
しかし化夢宇留仁的にはターザンが雄叫びをあげながら木々の間を飛び回るという時点でそれが原作ではなく昔の映像のターザンがベースだとわかって半分興味を失った(汗)
展開としてはターザンが悪に目覚めて生気を取り戻すという筒井らしいものではあるのだが、原作のターザンは元々そういうこともやっているのだ(笑)

こちら一の谷
  源義経が老ノ坂を出発し、一ノ谷の戦いの決着がつくまでを描いた歴史小説。
しかし資料にあまりにも不明なことや辻褄の合わないことが多く・・・。

 本作の前半はまさに傑作で、ある意味では最も史実を忠実に取り入れようとした歴史小説だと思う(笑)
こんな視点で歴史を描いた作家は筒井以外には知らない。
後半はいつものドタバタがエスカレートして最後はダジャレで終わってしまうが(笑)、本作品集では化夢宇留仁が最も好きな作品である。

特別室
 秘書として4年間努めた会社の社長が実はマフィアだったと知って退職し、退職金100万円をもらったが、そんな金は早く使ってしまいたいという思いも手伝い、あるホテルの一晩100万円もかかる特別室に泊まることにした「おれ」だったが・・・。

 まずは高額の退職金として100万円が提示されたのに驚いた。
調べてみると発表当時(1974年)の平均年収は175万円くらいだったらしい。
確かにそれなら高額な退職金だが、ホテルの特別室の値段が100万円というのが現在ならありそうなところで混乱を招いていたのだ。
そうすると本作の特別室の一泊の価格は、現在で言うと400万くらい?そりゃあ高いわ(笑)
しかし退職金としてはそんなに大したことないような・・・???
 それはそれとして(笑)、本作は微妙に異常な環境というのがよく描けていて面白いのだが、オチがどうしようもない(笑)

メタモルフォセス群島
 度重なる水爆実験により50年近くも人が近寄らなかった南太平洋上の島々の調査を行う。
そこではあらゆる生物が凄まじい変異を起こしており、分類しようもない状態であり、更に原住民の行く末がどうなっているのかも気になるところだった・・・。

 実は筒井は生物学に詳しい作家でもあり、そのへんのインテリジェンスな描写と、いかにも筒井らしいダジャレの命名などの展開があったのち、筒井には珍しくSFらしいオチに収束する。
滅茶苦茶な内容なのだが、筒井作品としては最も普通のSFっぽい作品と言えるかもしれない。

 というわけでおそらく読んだのは4回目くらいかと思うが、非常に面白かった。
特に本作品集はどれもこれも全く違う内容でバラエティーに富んでいるのに、どれもこれも筒井らしい作品になっているのがすごい。
やっぱり筒井康隆は偉大だった。
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