を読んだ。昨日。フィリップ・K・ディック著
父さんに似たもの
大森望訳
夕食の準備ができたので父を呼んでくるように母親に言われたチャールズだったが、彼は行きたくなかった。というのもさっき父親がガレージにいるのを見たのだが、その時父親が2人いたのだ。
そうこうするうちに父親が戻って来るが、チャールズはそれが「もうひとりの方」だと気づいて戦慄する。
いきなりホラー。
昔のSFホラーで非常によく見かける展開だが、1954年の発表と思えばまだほとんど手垢もついていない頃だろう。そしてありきたりなテーマだったとしても、やはりディックのそれは一筋縄では行かず、スリルと雰囲気があって面白かった。
ちうかストレンジャー・シングスを思い出した(笑)
アフター・サーヴィス
大瀧啓裕訳
コートランドが夜に自宅で仕事をしていることろに訪問したセールスマン風の男は、聞いたこともない機械(?)スウィブルのメンテナンスサービス員だった。
仕事を邪魔されて機嫌が悪かったコートランドは男をさっさと追い返すが、あとで考えてみると腑に落ちないことが多かった。
そして男が落としていった紙に男の会社が1963年創業だと書かれていたことで、コートランドはある事実に気づき・・・。
現在読んでいるとピンと来ようがないのだが、この作品が書かれたのは1955年頃なのだ(笑)
そうして男と再会して未来の情報を得ようとするわけだが、それが実は・・・というのが本編である。
この予測のつかない展開はディックの面目躍如と言えるだろう。
自動工場
大瀧啓裕訳
核戦争後の世界で、生き残った人たちは自動工場からの物資で生活していたが、それは破滅へのカウントダウンでもあった。
というのも全ての物資と工業を工場が独占しており、人間はそれに関与も意見もできない状態で、このままでは資源が尽きて破滅が来るのは火を見るより明らかだったのだ。
なんとか自動工場と意思の疎通をし、自分たちに主導権を取り戻そうとする人々は、工場がよこした牛乳が工場にはわからない理由で飲めないという嘘をなんとか工場に伝えると・・・。
「パーキー・パットの日々」もそうだが、核戦争後の世界の環境というありがちな設定なのに見たことのない世界を構築しており、さらにそこに予測不能のアイデアをぶっこんでくるのが素晴らしい。
1つのテーマの短編だと思って読んでいると足元をすくわれるのもディックの特徴で、これのオチには驚いた。
そこで「あれ」の登場ですか(笑)
人間らしさ
友枝康子訳
レスター・ヘリックは仕事しか頭にない冷酷な男だった。
妻のジルは子供好きな優しい女性だったが、最早我慢の限界に来ていた。
ところがレクサーIVへの出張から帰ってきたレスターはすっかり別人になっており・・・。
途中からオチは予想がつくが、その予想通りのオチに持っていく流れがなんだかかっこいい。
ベニー・セモリがいなかったら
大瀧啓裕訳
最終戦争のあとで火星からやってきて10年も復興に努めてきたジョン・ルコントは、ケンタウルスから艦隊が到着したのを苦々しく受け止めていた。
というのもケンタウロスから来た人々ももともとは地球から移住したのだが、彼らは最終戦争の影響を全く受けておらず、最新の科学力を有しているのだ。
対してジョンの眼の前にあるのはようやく実用レベルで使用されるようになった蒸気機関の乗用車だった・・・。
相変わらず核戦争後の世界が作品ごとに全然違う(笑)
ディックの短編であるから、このあと更にヘンテコなアイデアをぶち込んできてクラクラさせられるのだが、本作は後期の作品だけあって文章に趣もあって目が離せない。
ただしこの話のオチは本編の濃さに対してちょっと弱いと感じた。
おお!ブローベルとなりて
浅倉久志訳
かつての異星人との全面戦争において、地球人も異星人ブローベルもお互いの姿になりすましてスパイ活動を行っていた。
戦後地球側のスパイだったマンスターは人間の姿に戻ったが、まだ後遺症で一定時間スライムのようなブローベルの姿に戻ってしまうので仕事にも就けず苦悩していた。
ロボット精神分析医のジョーンズ博士に相談すると、博士はある女性を紹介してくれたが・・・。
核戦争だけではなくて異星人との戦争のあとの状況も、ディックの場合は斬新なもので、そこに更に斬新な展開をかぶせてくる。
展開だけならロミオとジュリエットか賢者の贈り物みたいでもあるが・・・。
父祖の信仰
浅倉久志訳
ハノイの街頭で、董(トン)は傷痍軍人である物売りから怪しい嗅ぎタバコを売りつけられる。
その後職場で董は2つの論文を読み比べて偽の愛国者が書いたものを見破るという試験を課され、自宅に戻って論文を読んでいると突然テレビで首席の演説が始まる。
首席は100年以上も指導者で清聴する必要があったが、イライラしていた董は売りつけられた嗅ぎタバコを吸い・・・。
中国がアメリカを打ち破った世界が舞台で、趣的には「高い城の男」に近いものがあるが、ベトナム戦争の記述があることから、どうやら冷戦以降の戦争の結果らしい。
とか思っていると、いつものように更に異様すぎる展開に目が点になる。
どうしてディックは異常な世界を舞台に、更に異常な展開を描き出せるのだろうか。
通常は異常な展開を見せるときには普通の舞台を用意する。そうじゃないと異常が異常にならないからだ。
なのにディックは異常な世界を舞台に異常な展開をかぶせてそれが異常だと認識させ、しかもそれが非常に効果的に働く。
電気蟻
浅倉久志訳
事故で負傷したガースン・プールは、医者に告げられて自分が電気蟻だということを知る。
自分の体を調べてみたガースンは、自分にはプログラム機構は備わっておらず、更に脳への情報は全て胸部内にあるテープから送られる情報だと知る。
つまり彼が外部の情報だと思っていたものは、全て胸の記録装置から送られたものだったのだ。
そのテープを操作すれば現実を改変できると考えたガースンだったが・・・。
いきなりなにを言っているのかわけがわからないようなものすごい設定(笑)
突っ込みどころは山ほどあるが、そこは勢いで突っ走っている印象で面白い。
また本作の舞台は1992年なのだが(書かれたのは1969年頃)、その中で「宇宙大作戦」を観るという記述がある。
1992年の宇宙大作戦といえば、TNGに他ならない(汗)
もちろんディックはTOSの再放送という意味で書いたのだと思うが、なんだか彼の場合はぼんやりと未来を予見しているように感じて興味深い。
時間飛行士へのささやかな贈物
浅倉久志訳
「究極のSF」に収録されているものと同内容。
筆者による追想
この本は元は1と合わせて1冊の短編集だったのだが、そのあとがきである。
これもなかなかディックらしい辛辣さと意味不明さが面白い。
この本はまさに粒選りの好短編集で、どれもしっかりとした中身があってどれも違う味でどれも面白い。
もともとは1冊の短編集だったものを2冊に分けたのだが、おおむね発表年順に掲載されていてこちらは後期の手慣れてきてからの作品なので読みやすさも上がっている。
最初にディックを読むのにも向いている本じゃなかろうか。
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