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夜とスージーと文学とコミュのダンテの遺稿

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げげっ、やくざな貌して、ひそかに文学部好みの、ばっちり本格派なわけね。ニック・トーシュNick Tosches, 1949-. 著『ダンテの遺稿』。最初はね、ページをめくってみるってえと、おいぼれたマフィアみたいなやつが現れて、いかがわしい暗黒街の、変態じみた性のおたのしみが見せつけられるんだ。聞かせられる話はといえば、酒とセックスと儲け話に殺生沙汰だ。で、次は場面がさっと変わって、なんだか知らないが、9つの空の真理、巻き毛の美しい女、そして幼いダンテの奇跡について、語られる。




で、次はどうなるかっていうと、(図々しくも!)ニック・トーシュと名乗る男(つまり作家「本人」)が登場して、みずからの体験……暗黒街との遭遇… …を語りはじめるんだ。で、いったいなにをしたんだ、この男は? クスリかなにかの地下取引か? それとも殺しか? なんだなんだなんだ「作者」のくせしやがって。




そんなこちらのとまどいをよそに、この「作者」は、いつのまにかエズラ・パウンドの詩についてなんか語りはじめるんだぜ。楽園を表す言葉などありえない? はいはいはい、覚えておくよ、主題だろ? でもって、ようやく物語がちらちらと見えはじめる。ボルシア家の、図書館の掠奪について。




と、おもったのもつかのま、こちらの物語への期待をはぐらかすように(!)、この「作者」が文学と出版業界についてのしょうもない考えを、あのヤマ師のフィリップ・ソレルスばりに開陳しはじめるんだから、ピザでも投げつけたくなってくる。ところが、その(しょうもなさげな)モノローグが、気がつけばダンテにまつわる主題にじりじりとにじり寄ってゆくんだから、あぁ、油断ならない。





で、結局薬局、どうやらこんな話らしいんだ。ダンテの『神曲』の手稿が発見され、「作者」はその真贋鑑定を行なった(これがまた実に、テキスト・クリティックとハイテク鑑定の時代を感じさせる描写でね。ダンテ研究の知見もばっちり活かされている)。でもって、そのダンテの文字が、本物とわかる。その瞬間、ギャングはそれを独り占めするため、このニック・トーシュを狙いはじめたっていうことらしい。




さらには、その、いわば「こっち側の話」に対して、もうひとつ(さっきもちらっと出てきた)「向こう側の話」があって。それは遥か中世、ダンテ自身の、いわゆる、「人生の道なかばにして道を見失った」男の、そう、追われ、逃げ、つねに張りつめた精神を生きる男の物語であり、そっちとこっちのふたつの話が、手稿を介して、暗に相似形を描き出すっていう寸法らしいんだ。




こういう作品は、ナボコフやパワーズ、はたまた暴投でストライクを取ってしまうピンチョンあたりの線で批評すべきなんだろうけれど、さすがに、それらAAAクラスには及ばないものの、再読三読への尽きない関心を呼び起こすあたりは立派な手腕だ。おれはエーコの『薔薇の名前』はめんどくさそうだから読まなかったけど、ああいうの好きな人にはオススメか。訳文にややひっかかりを感じるのは、気のせいか。




ニック・トーシュ著『ダンテの遺稿』熊井ひろみ・訳 早川書房刊2003年







ニック・トーシュNick Tosches, 1949-. は、アメリカ人、小説家、評伝作家、ジャーナリスト、詩人。詩とロックンロール雑誌で書き始め、2冊目の著作”Hellfire”1982年は、ジェリー・リー・ルイスの伝記。日本語に翻訳された小説に、『抗争街』(講談社文庫)がある。『抗争街』は、版元の紹介文に拠ると、「世界の麻薬市場を牛耳る中国人結社に、年老いたボスがイタリアン・マフィアの誇りを賭けて闘いを挑んだ。香港でミラノでニューヨークで、裏切りと悪の限りが尽くされる。“裏社会の実権を取り戻す”と誓いをたてた甥のジョニーも、暗黒街での抗争に次第に才能を発揮してゆく。冷酷非情、傑作アクション巨篇」だそうな。

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