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夜とスージーと文学とコミュのトルコの怪獣ジャナワールの背後になにがあるのか?

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高野秀行著『怪獣記 』講談社刊は、いっけん東スポか学研の『ムー』みたいなトンデモ本のようだが、まったく違うのだ。むしろ愚直なまでに正攻法な、UMI、そう、Unidentified Mysterious Animal、「未知動物」探求のルポルタージュなのだ。いや、そう言い切ってしまうのもまた違う。たしかに本書はトルコで1997年、複数の人間に目撃されたとされる怪獣ジャナワールを追い求めはする。だが、それと同時に(実はここから先が大事なのだが)著者はもちろんジャナワールの実在/非在も関心があるのだが、むしろそれ以上にジャナワール幻想の背後に、おもいがけない性格が存在していることを知り、そっちの方によりいっそう目をらんらんと輝かせるのである。それは・・・。



いやぁ、この著者の、二枚腰なスタンスが良いじゃないの。つまりね、ぶっちゃけ著者は怪獣ジャナワールの実在なんてもんは、べつにそれほど「信じている」わけじゃなく、正直言えば、むしろ大いに疑っている。だいたいジャナワールはCNNがちょいとヒマネタとして取り上げたところ、おりしもネット社会の黎明期であったゆえ、そのニュースが世界中で一気に広がって大騒ぎになった、ジャナワールはおそらくメディア発の共同幻想に過ぎないだろう。そもそもCNNが流した映像は短く、曖昧で、しかも映像は3回に分けて撮影され、ツッコミどころ満載じゃないか。





ところが、そうおもいながらもあらためてCNNのサイトをクリックしたところ、著者はそこで知る、ジャナワール撮影者がウナル・コザックなるトルコ人であり、かれがユルンジュ・ユル大学で生物学の助手をしていることを。しかもなんとコザック氏にはジャナワールに関する著書まであり、その上、著者はそのコザック氏の(トルコ語で書かれた)著作を、東京のアジア専門図書館で手にしてしまう。(むろん著者は、たかが本があった程度では、ジャナワールの実在を信用なんかしないわけだが、むろん読んでみるわけである)。





そこで著者は知る、ジャナワールには肯定説もあれば否定説もあることを。肯定説は述べる、「水陸に生息するアパトザウルスのような恐竜が生き残っているのではないか」、「クジラのような大きさで背中にギザギザのついた生物」、「体長約20メートル、水中を揺れる体毛、背骨がない印象を与える生物」・・・。否定説は述べる、「どうせ湖上を飛ぶ鳥の影を見間違えたにすぎぬ」、「精神障害による幻覚だろう」、「そもそも閉じられた湖に、そんな巨大な生物がいるわけがない」、「ま、観光産業のキャンペーンでしょうな」・・・。もうこのあたりで、著者は、はい、はい、やっぱりガセネタですよね、ジャナワール・・・とおもいかけるのだが、しかしそのとき著者は知るのである、このコザック氏が、ヌルシーという宗教指導者を支持する集団と関係があることを!



なに!?? ジャナワール幻想の陰に、宗教あり!?? しかもまだ先がある、このヌルジュ派の思想は、トルコの世俗化し、西洋化してしまった現体制を全面的に否定し、コーランとイスラム法に立ち戻り、最終的には世界を統一するイスラム国家を樹立することにあるそうな。このヌルジュ派、国内では影響力はあるものの、トルコ政府からは危険思想と見なされ、最近まで弾圧され地下活動をしていたそうな。しかも、かれらはたんにイスラム原理主義を掲げるのみならず、同時に、科学と宗教の合一をももくろんでいるというではないか。その上、クルド人問題も見え隠れ!?? さぁ、がぜんおもしろくなってきた。著者は、急いでトルコを目指すのである。写真家のパートナーと、そしてトルコ通と、連れ立って。



森清氏に拠るカラー写真やモノクロ写真は、ルポルタージュを記録しようという目的もそこそこはありながら、むしろ気持ちのいい写真作品になっていて。その写真を見れば、森清氏が、ジャナワールの実在がどーしたこーしたという問題にまったく関心がなく、いわば作品撮りを目的にこの本に関わっていることがよくわかる。そしてその森氏の、本書の主題にまったく無関心な気持ちのいい風景写真に拠って、本書の魅力はいっそう増している。いやぁ、おもしろいよ、この本。






(たかの・ひでゆき)1966年生まれ。早稲田大学探検部在学中に書いた 『幻獣ムベンベを追え』(集英社文庫)で、デビュー。タイ国立チェンマイ大学日本語講師を経て、その後は「辺境作家」として活躍中。




高野秀行著『怪獣記』講談社2007年

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