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暇だから読んでやろう。コミュの砂漠の雪 ※長文ですよ〜続き物ですよ〜

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さいごにねがいをかなえよう、とそのひとはいいました。
 でもわたしにはこたえられません。
 そうしたら、そのひとはじかんをあげるよ、といってくれました。
 じかんはむげんにあるのだから、いちばんにかなえたいねがいをもっておいで、と。






 かなえられるものは、そのただひとつしかないのだから。






 風が、渡る。
 近くに、遠くにある砂の山、その形をサラサラと変えながら、微かと言っていい程のささやかな風が、大地を渡る。
 足元で砂が崩れた。足元だけではない。視界の先にある地平、振り返った後方―――仰いだ天の空以外、見渡すもの全てを、砂が埋め尽くしている。
 生命の息吹を欠片ほども感じられない、乾いた空気。
―――そう、ここは、いつ果てるともない広大な砂漠の、その中程なのだ。
 そこに、子供はただ一人、佇んでいた。
 粗末な木綿の服は擦り切れ、所々で無造作に引き千切られている。袖は肩の所でばっさりと切り落とされ、裾は膝よりも上でぱつんと途切れていた。身に合わないその服は、子供が誰からも顧みられない存在である、という事を、物言わず表していた。
 じりじり、と、遮るもののない太陽が、遠慮もなくその力を辺りに振りまいている。その熱で大地は乾き、砂は焼け、渡る風さえもを暖めていた。
 それでも、子供は動かない。ただ黙って、表情の浮かばない無感動な瞳で、ただじっと足元を見つめている。
 そこには、不自然な色彩がごろり、と固まって、打ち捨てられていた。砂のくすんだ、もしくは明るい、黄色、茶色、黄土色、一色のグラデーションが染め上げる視界に、不自然に目を引く紺色と白の塊。
「………………」
 声にもならないような不明瞭なうめきを発して、塊がごろり、と転がった。
 人だった。
 若い男だ。
 ぼろきれのようになりながらも、まだ、生きている。
「…み、…」
 水、というただその一言さえはっきりと口に出来ず、ぜいぜいと浅い呼吸を繰り返している。
「……………」
 無表情にそれを見つめていた子供が、不意にしゃがみ込んだ。その予感を感じさせない、唐突な動作だった。
「…まだ、生きてるの?」
 高い声は、幼さそのままに澄んでいる。これは何?と見知らぬものを問うような、他意のない口調は、瀕死の男を見つけた子供にはしかし不釣合いで―――違和感を感じさせる。
「…だ、れか、…いるのか?」
 子供の声を聞きつけて、男が弱々しく頭を上げた。
「ああ、生きてるんだね」
 単なる事実の確認、という調子の声で、またも子供が呟く。それは問い掛けでも会話でもなく、独り言の響きをはっきりと聞かせていた。
「水を…水を、持ってねえか…」
「水はないよ」
「…お前は…」
 瀕死の自分。砂漠の真ん中。あまりにも平然とした、子供の声。
 そのどれもが酷くちぐはぐだ。
 男は霞む目を何度か瞬かせ、無感動に自分を見下ろす子供を見つめた。
「…お前、何だ…何で、こんな所にいる?」
 我ながら酷え声だ。乾いて掠れて、ひび割れて聞き難い。
(こんな状況でも、自嘲ってなあ出来るモンなんだな…)
 ふと苦く笑いながら、男は子供の答えを待った。
「わたしはサミア。…おじさんは?」
(…おじさん呼ばわりかよ…)
「…ザッカ。ザッカだ。サミア(砂の精)?…お前、人じゃねぇのか」
「ううん」
 私は人だと思うんだけど。
 でもずっとここにいるの、気が付いたらここにいるの。
 ここに来る前何をしてたのかも、どこに住んでたのかも、どうしてここに来たのかも憶えてないけど。
 でも、多分、人間だと思う。それしか知らない。
 子供は淡々とそう語り、自分の番は終わった、とばかりにザッカを見た。
「…そうか」
 だがザッカには、そう合鎚を打つしか応えなどあろうはずもない。だが彼は、応えながらも、抜け目なく子供を眺めていた。
(…まだ10歳になるか、ならねえかって所か…これ位なら、一番いい年頃だ)
 いい値がつく。下働きにするんでも、好色なジジイの玩具にするんでも、一番いい年頃だ。あまり高値はつかないだろうが、俺がこの疲れた身体を回復させる間、食っていくだけの金は稼げる―――。
(…そうだ)
―――こんな所で死んで堪るか。
 自分をここへ打ち捨てた仲間の顔を思いながら、男はよろよろと上体を起こした。それだけの事をするにも、随分な努力が必要だった。思ったよりも、身体は衰弱しているようだ。
 それでも、ずっとここで、ぼろきれのように転がっている訳にはいかない。先刻までは仕方がないと思っていた。俺はここで死ぬのか―――と。
 けれど、それでは、あまりにも馬鹿馬鹿しすぎる。
「…どこか、…日陰はねえか」
 腕の力でやっと上半身だけを起こし、男はまだしゃがみこんだままで自分を見つめている子供に問い掛けた。
 子供は、まっすぐに指を差す。少しだけ移動すれば、高い砂丘のふもと、烈しい太陽の届かない場所がある。
 男は片腕を差し出した。
「頼む…そこまで、連れて行ってくれ…」
 子供はやはり表情の見えない顔のままで、しかしこくんと頷く。
 そして、案外しっかりした力で、男の片腕をその小さな手に取ったのだった。

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