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三十分作成小説(ベジタブル編)コミュの提灯道

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外に出ても落ち着かない。

家に篭っても落ち着かない。

祭のある日は朝から居場所がなく、

どこにいても「音」が私を攻めてくるのだ。


私は母にそれを訴えた。

しかし、母は私の訴えに取り合ってはくれなかった。

「太鼓とかの音でしょ。祭の日なんて、賑やかなもんよ」

違うの。

私はそう言ったが、

母は私の主張を無視した。

太鼓の音などではない。

もっと大きな音が、

この町に近づいてくるのだ。

私はそれが怖くて仕方がなかった。

どうしてみんなには聞こえないんだろうとも思った。

外に出れば道行く誰もが

これから行われる祭に心躍らせ、

恐怖など微塵も感じさせてなかった。


夜が近づくにつれて音は大きくなった。

賑やかな祭囃子でもけしてごまかせないほど、

何かがうごめく音は巨大だった。

私は怖くなって叫び声をあげたら、

父に「うるさい」と言われて叩かれた。

私はこれだけの音が

何でみんなに聞こえないかが不思議だった。


すっかり日が落ちると、

「音」はこの町のどこかにとどまった。

私は毎年のように訪れる「音」が一体何なのかを確かめるために、

恐怖を振り払い家を飛び出した。

「あんまり遅くならないうちに帰るのよー」

祭に出かけたと思った母が、

私の背中に向かって呑気に声をかけた。


幻想的な光に照らされ、

色鮮やかな屋台の群れに目を奪われながらも、

私は「音」を探した。

「音」自体が動かなくなったことと、

人々の賑やかさや楽器の奏でる音色により、

「音」の探索は思ったよりも困難だった。

ただ、

家にいた先程よりも

それに近づいているのは確かだった。


ふと、

山の影が動いたような気がした。

私は何か直感的なものに誘われ

提灯が導く光の道から外れ、

暗い山道に入っていった。


月の光は頼りなく

何度も転びそうになった。

途中、風に揺れる茂みに驚き足を止めては、

前に進むことをためらたった。

しかし、

その度に「何か」がすぐ側にいることを感じ、

私は恐怖を振り払って前に進んだ。


獣道を上りきると、

古い社があった。

たどり着いたのと同時に、

音も気配もなくなった。

私はクルリと来た道を振り返ると、

小さな光と音があちこちで賑わいをつくり、

今日という日を祝っていた。


帰るのが遅くなったことで、

母からも父からも怒られた。

しかし、

私はそれほど悪いことをしたと思っていなかったので、

特に反省はしなかった。

それよりも気になったことがあったので、

長いお説教が終わった後、

祖母の部屋に向かった。


祖母は下半身だけを布団に入れ、

上体は起こしてテレビを見ていた。

私は部屋に入るなり祖母に尋ねた。

「ねぇおばぁちゃん。今日って何のお祭りなの?」

祖母はテレビの音を少し小さくしてから答えた。

「今日は、この町の守り神様に感謝の気持ちを伝える祭だよ。私達が安心して暮らせるのは、守り神様のおかげだからねぇ」

「守り神様はどこにいるの?」

祖母は口の中でそうねぇとつぶやいた。

「お空の上かな」

私はふーんと言った後、さらに尋ねた。

「今日みたいに賑やかな日だと、私達の近くまで来たりするかな?」

祖母は優しく笑い、

私の頭を軽くなでた。

「祭囃子に誘われて、来るかもしれないねぇ」

私は「きっといたよ」と祖母に伝えた。

祖母は何も言わなかったが、

その笑顔はとても優しかった。


(終)

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