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三十分作成小説(ベジタブル編)コミュのニートの公式(その45)

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自分の浴衣姿にしばらく見とれた後、

休憩室に戻ると、

老婆は相変わらず不機嫌そうな顔で

お茶を飲んでいた。

私が部屋に入ってきたことで、

視線がチラリと動いたのがわかった。

「ちょっとこっち来な」

老婆は有無を言わせない強い口調で私に言った。

私は素直に老婆の言葉に従うと、

老婆は自分の前に座るように言ってきた。

私が椅子に腰かけると、

老婆は私の髪に触れ、

器用に束ね始めた。

「浴衣は、髪を束ねた方が似合うんだよ。うなじが出ていた方が色っぽいだろ」

…そういうものなのか?

沸き上がる疑問は飲み込んで、

私は大人しく老婆に自分の身を預けた。

何かのために、

自分を美しくする感覚。

しばらく忘れていたことたが、

こういうのって、

何だかすごく楽しい。

やはり自分も女の子。

品のない生活を長い間送ってきたが、

オシャレを喜ぶ気持ちは、

まだ失われてなかった。


よし、と老婆に言われた。

私は手で触って、

どんな感じに仕上がったか確認しようとすると、

「せっかくセットしたんだから触るな」と、

かなり強い口調で注意された。

ま、それもそうか。

私は触れて確認するのをやめて、

再び、

鏡のあるトイレに向かった。


老婆によるヘアーメイクを見て、

私は素直に感心した。

ほほぅ、

これは確かにいい感じた。

髪を束ね、

首すじを出したことで、

私にはなかったはずの色気が出ていた。

その色気と、

幼さの残る可愛らしい浴衣のコラボが、

いい具合に噛み合い、

いい味を出していた。


私は鏡の前で色んな決めポーズをとり、

その度に自分に惚れ惚れした。

10分ほど繰り返し、

ようやく我に返った。

いかんいかん、

私は何をやっているんだ。

そろそろ準備のために

一旦アパートに帰った男が戻ってくる頃だし、

私も休憩室に戻って大人しく待機していよう。


花火大会の開始時間は7時半からだった。

店の閉店時間、

後片付けの時間などを考えると、

間に合わないことはわかっていた。

休憩室のソファーに座り、

老婆の用意した冷たいお茶を飲みながら、

男が来るのを待っていると、

遠くの方から、

低く響き渡る衝撃音が聞こえてきた。

「始まったみたいだね」

老婆はつぶやくように言った。

最初は大きな音が一発。

そして少しすると、

その音はリズムよく

次々と空気を揺らした。

私は目を閉じて、

花火の音が聞こえる度に、

夜空にあがる色鮮やかな閃光をイメージした。

「全く…。せっかくの花火大会なのに、あのバカは何をモタモタしているんだろうねぇ」

老婆は不満いっぱいの口調でつぶやいた。

私も同感だった。

そもそも男を待つ理由なんて特にないし、

このまま彼を置いて、

一人で行こうかと本気で思った。


しかし残念なことに、

今日の私はオシャレをしたせいで、

とても機嫌が良かった。

あと10分だけ待ってあげよう。

そんな優しさを持って、

私は花火のBGMに耳を傾けていた。


(つづく)

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