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三十分作成小説(ベジタブル編)コミュの花畑(その11)

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立ち話も何だったので、

俺と女の子は席に着いた。

スズは従業員を呼び、

自分のぶんのコーヒーと

俺のぶんのココアを注文した。

ちなみに俺はココアが好きではない。

この注文は女の子のリクエストだ。


従業員が席を外すと、

スズはすぐに会話を再開させた。

「それにしても本当に可愛らしい神様ですね。言われなかったら、普通の小さな女の子に見えます」

普通なら見えないんだけどね、

と心の中でつぶやいた。

女の子は褒められたことが

素直に嬉しかったようだ。

表情こそ同じだが、

内心照れているのがわかった。

「尚更、名前をつけた方がいいと思うんですけどね。女の子ですし、お前とかコイツで呼ぶのは失礼だし可哀相ですよ」

…まぁ、別に意地になってまで

つけたくないという訳でもないし、

ただ単に面倒だったのと

何だか照れ臭かったわけで…。

…。

今更、別にいいじゃないかと

提案しようとしたが、

スズの穏やかな表情の奥には

有無を言わせない妙な力強さがあった。

女の子は女の子で、

名前をつけてもらえると思い、

すでに喜んでいる。

いつの間にか俺は、

絶対につけなければいけない状況に

追い込まれていた。


俺は保留案を口にするのは諦めて、

女の子の名前を考えた。

考え始めて三十秒、

俺は最初に浮かんだ名前を口にした。

「市でどうかな。市町村のシって書いてイチ」

市松人形の「市」からとったもの。

はっきり言って見た目のまんま。

まぁ古風な感じは

女の子のイメージに合っているし

いいかもしれない。

俺の提案の後、

スズの肩のピエロが今日初めて動き、

例の耳打ちをした。

二日ぶりに見たが、

やはり見た感じはかなり悪い。

耳打ちが終わると、

スズは女の子を見てクスリと笑った。

「そうですね。ピッタリだと思います」

名前の由来でも聞いたのだろうか。

これは最初に思いついた名前だったが、

なかなかいい名前だと思っている。

昔、ものすごく美しいとされたお姫様の名前も

確かこの名前だった気がする。

そう考えると少し贅沢か。

「私、市。名前は、市」

当の本人も気に入ってくれたようだ。

明るくはしゃぐ声は、

その落ち着いた外見とはマッチしていない。

椅子の上で跳びはねるほどの喜びぶり。

今日は一日中ハイテンションだが、

その中でも今が一番だ。


あまりにも喜んでいるので

少し落ち着かせようとしたとき、

注文していた飲み物が運ばれてきた。

別に普通の人には

市の姿は見えないのだから、

人目を気にする必要はないのだが、

何故か市は騒ぐのをやめて

おとなしく椅子に座った。

従業員はスズの前にコーヒー、

俺の前にココアを置き、

一礼して席を去った。

俺は従業員が立ち去るのを確認してから、

ココアを市の前に置いた。


注文したものが運ばれてきたことで、

場の雰囲気が変わり、

賑やかだった空間は一気に静まりかえった。

元々、今日は呑気な世間話をしにきたわけではない。

先程は名前を決めることで

和気あいあいとしたムードになったが、

互いのベースにあるのは緊張感であり、

張り詰めた雰囲気になるのは

ある意味当然の流れだった。


言いたいこと、

聞きたいことはたくさんあったが、

こうして面と向かい合うと、

何から聞いていいのかわからなかった。

「…心配ですか?」

先に口を開いたのはスズだった。

何に対して言っているのかは、

すぐにわかった。

チラリと市の方を見たが、

彼女はココアの上の生クリームに夢中で、

こちらの話は聞いてなかった。

視線をスズの方に戻すと、

彼女はクスリと笑った。

「大丈夫ですよ。私は全てを知ったうえであなた達の前にいます。他人に言うつもりはありませんし、軽蔑するつもりもありません」

スズの笑顔には、

少しのブレも見えなかった。

見た限りでは、

嘘をついているようには見えなかった。

…信じて、いいのだろうか?

このようなことは、過去に例がない。

スズのように神様に相談したかったが、

残念ながら市には

ピエロのような能力がなかった。

全ては自分で判断しなければならない。

「…何が、目的だ?」

例え過去を知り、

それを受け入れたとしても、

俺と関わる必要性は感じられなかった。

自分とは別の神様に対する興味だとしても、

危険性を考慮すると、

会う理由としては弱いように思えた。


俺の質問に対し、

スズは少し黙った。

短い沈黙のなかで、

彼女の雰囲気が明らかに変わった。

微笑みの奥に微かな怪しさが見え、

俺は背筋に嫌な冷たさを感じた。

「フカダさんは、神様がどういう存在か、理解していますか?」

俺は正直に答えるか迷ったが、

肩のピエロの存在を思い出し、

おとなしく頷いた。

市が

いつ、

どこで、

何のために生まれたのか、

自分なりではあるが

理解しているつもりだった。

「もちろん私も、神様が何なのかは理解しています。ただ、フカダさんの神様と私の神様が同じ存在なのか、この目で確認したくて、わざわざこのような席を設けました」

ピエロを見たとき、

一目でわかった。

姿や能力は違えど、

あれは市と同じ存在だと。

ただ、

だからこそ、

スズがピエロを神様と呼んでいることが

不思議で仕方なかった。

市は…


「私が自分の幸福を手に入れるためには、神様だけでは足りないのです。…お互いにメリットがあるわけですし、仲良くしましょうね、フカダさん」

説明が少な過ぎる言葉だったが、

俺の心が見抜かれているのは十分にわかった。

どうも、全てを知られるのはやりにくい。

嘘も強がりも隠しごとも、

スズの前では何の意味もなかった。


一番不気味なのは、

スズの気持ちが

イマイチわからないことだった。

俺のメリットは自分のことだからわかるが、

彼女にとってのメリットとは何だろうか?

自分や市の存在が、

一体何の役に立つのだろうか?


(つづく)

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