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ミュリのオリジナル小説連載コミュの黒潮学舎 絵里華の場合2

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「お久しぶりです、総帥。」
オレを待っていた金髪の美丈夫はクリストファー・ラグナード。組織でも抜群の腕を持つSPだった。
「意外だな、クリストファークラスが乗船してるなんて。」
どうやら今回のオレの世話係は彼らしい。この船では組織専用クラスの客室には専任のバトラーがつくようになっていた。
「WKF総帥の命令で派遣されております。研修終了までお供いたします。」
どうやらクソ親父の命令でオレのお目付け役を任されたらしい。どこまで信用されてないんだが。
「すまないが頼むよ。」
オレはクリストファーに荷物を預ける。
「では、お部屋にご案内いたします。」
オレはクリストファーに案内されて船内を進む。701と番号がふられた部屋の前で彼は止まってカードキーで部屋を開けてくれた。その部屋はこの船にのるときはたいていオレに割り振られている部屋だった。船内で一番広いスイートルームだ。でも船のスペースには限りがあるのでスイートといっても通常のホテルのような広さはない。
「サンキュークリストファー。」
クリストファーはオレの荷物を部屋のクローゼットに収納してくれた。オレはそれを見ながら部屋のソファーに座る。
「では何か御用がありましたらいつでもお呼びください。」
クリストファーはそう言うと一礼して部屋を出て行った。オレは少しソファーで休憩した後に荷物を軽く整理した。ひと段落ついたオレが窓から外を眺めると乗船手続きがはじまったらしく船にむかってぼつぼつと人の列ができていた。この船はお手軽な値段でクルーズを楽しめる船として意外と人気があり、豪華な設備を備えている割に黒字運航をしていた。オレは窓のカーテンを閉めると休息をとろうとベッドの方に向かった。そのオレの足をとめたのは部屋に鳴り響いた電話の音だった。オレはため息と共にその電話を取る。相手は予想どおりというか沙樹だった。
「あたしたちも船のったわよー。後でそっち行くから起きててね。」
沙樹がやたらうれしそうな声で言う。こいつマジでオレ休ます気ねーな。まぁいつものことなのでオレは仕方なくソファーのほうに座って身体を休める。少し貧血気味なようだ。沙樹は電話の後30分くらいしてから真美を伴ってオレの部屋を訪れた。
「お前はオレを休ませる気はまったくねーな?」
オレは半ばあきらめた声で沙樹に言う。
「だって久しぶりの旅行なんだよ。寝るのもったいなくない?」
沙樹は目をらんらんと輝かせて言った。ドSぶりが前面にでている。オレはすべてをあきらめて二人を部屋の中に招いた。
「お邪魔します。」
真美が遠慮がちに部屋に入ってくる。真美も沙樹に付き合わされていつも大変だろうに。
「適当に座って、飲み物も冷蔵庫にあるのも基本自由だし、メニュー表にのってあるものならバトラーに注文すればすぐに持ってきてくれるから。」
オレは二人にそう言いながら冷蔵庫に入っていたミネラルウォーターを出して備えつけのグラスに注いだ。沙樹と真美はメニュー表をひっぱりだしてきて注文を決めている。
「絵里華は?」
沙樹がオレに注文を聞いてくる。オレはソファーに座りながら
「ローストビーフサンド。」
と答えた。とりあえず気分的に肉がたべたかった。沙樹はオレの注文を聞くと電話でオーダーをした。それが終わるとオレの向かい側に座る。
「そういえば絵里華、3日くらい前にシャレイル先生に提供したんだっけ?どうりで疲れてるわけだ。」
沙樹はオレの顔色を観察しながら言う。今更ながらな気がするが。オレはため息と共に答えた。
「まぁ、ほんのちょっとだけどな。研修の事は伝わってたから、研修に支障がでない程度には抑えてくれてるはずだ。」
そのはずだったのだが、若干血を吸われ過ぎな気がするのは気のせいか?
「久しぶりにシャレイルが派手に力使ったみたいでさ、オレと親父のを少しずつとあとは常備のやつで賄ったらしいけど。」
シャレイルは滅多にオレや親父の血を求めることはない。普段は提供者と呼ばれる神の血族から調達しているはずだ。オレと沙樹の不可解な会話を聞きながら真美が首をかしげている。真美にとってはまったく意味がわからない会話だろう。そんな真美に沙樹がそっと耳打ちする。
「絵里華は献血して貧血気味なのよ。だからこんな不機嫌なの。」
不機嫌ってなんだよ不機嫌って。確かに機嫌も悪いけど、それより寝不足のほうが大半だ。
「沙樹、その回答じゃ真美が誤解するだろう。真美は契約のこととかシャレイルのこととか知らないんだから。」
とりあえず献血という感覚ではない。献血よりずっと提供する量も多いわけだしな。オレは沙樹を軽く睨みながら言葉を続けた。
「ついでだ、今日はシャレイルのことでも説明しとくか。ただしめちゃくちゃ信じられないくらいぶっとんだ話だぞ?」
このままじゃ真美は訳がわからないままだろうからオレはとりあえずシャレイルとの契約の事を説明してみることにした。
「大丈夫、だいぶ耐性できたもん。」
真美はオレのセリフがわかっているのかどうか、軽口をたたく。とりあえず理解できるかどうかは別としてオレは話を始めた。
「オレたちの組織にいるのは人間だけじゃない。人間がヴァンパイアと呼ぶ者たちも所属しているんだ。」
オレの言葉に一瞬、真美の目が丸くなった。そりゃ映画や小説みたいな話したらぶっとぶわな。
「映画とか小説で書かれてるみたいには組織のヴァンパイアは人間襲ったりしないぞ。ただ血を飲むのは本当のことで、オレのような神の血族とかが提供者となって彼らを養っているんだ。そのかわりに彼らの持つ特殊能力を貸してもらったりしてるんだけどな。」
とりあえず言葉だけではわからないだろうからオレは自分の首筋を真美に見せた。そこにはうっすらと赤い痕跡がまだ残っていた。普段なら2-3日寝れば消えているだろうが休息が足りないせいで治癒が遅れていた。
「これ牙の痕だよ。今晩あたりには完全に消えるだろうけど。オレ達は人間と違って傷の治りが速いからな、普通の人間なら噛まれて一週間は痕が残ってる。」
真美の視線がオレの首筋に注がれているのがわかった。でもびっくりもしていなくて冷静に事実を受け入れられているようだ。さすがといおうかなんといおうか。
「絵里華はたまにシャレイル先生ていう組織でも幹部にいるヴァンパイアに血を提供しているの。シャレイル先生は普段は聖ラフィーユ大学医学部付属病院で医師をしているんだけど、たまに組織のミッションに関わったりしているわ。ヴァンパイアはね、基本特殊能力を使うと血を欲するの。別に人間の血でなくてもいいんだけど、人間の血が一番能力回復に効率いいみたいなのよね。あとは同族の血もいいらしいけど。」
オレの説明に沙樹が補足をする。真美はなんとなく理解できているようだ。
「てことは・・・絵里華噛まれたんだ?」
真美がぼそっと口にした言葉にオレは苦笑した。
「噛まれる時けっこう痛いんだけど、噛まれた後は気持ちよくなっちゃうんだよな。」
オレはシャレイルに噛まれた時を思い出しながら言う。真美を見るとなんか哀れみの目でオレを見ている気がする。絶対変な誤解してるなこいつ。
「ヴァンパイアの牙からは麻酔効果のある毒液がでるんだよ。命に関わる毒じゃないけど、それが苦痛を忘れさせて夢心地にさせてくれるんだ。別に痛いのが良いって意味じゃないからな。」
オレはとりあえず変な疑惑を晴らそうとしてみた。
「普段なら2-3日も寝ればすっかり回復するんだけど、ちょっと仕事が立て込んでてな。休みがとれてないから回復が遅れているだけだ。」
クソ親父の依頼とかがなければとっくに貧血も改善しているし牙の後も消えているはずだった。
「旅行中ゆっくりすればいいじゃん。今夜くらいは寝かせてあげるわよ。」
そんなオレに沙樹がとどめをさす。いったいだれのおかげで寝れてないと思っているんだ。
「そう思うならホットケーキ食ったら休ませろよ?」
オレが沙樹に言い放つと同時に部屋のチャイムがなった。オレが部屋のドアを開けるとクリストファーが注文した品が入ったワゴンを持って立っていた。オレは彼を中に招き入れる。
「ご注文の品でございます。どうぞごゆっくり。」
クリストファーがワゴンを部屋に置いて優雅に一礼してから出ていく。真美をちらっと見ると完全に涎がでそうなくらいな顔でクリストファーを見ていた。好みの美青年らしい。
「ほら、沙樹エサがきたぞ。」
オレは自分注文したローストビーフサンドの皿をつかむとワゴンを沙樹のほうにおした。
「うわー美味しそう。真美もサンドイッチ食べなさい。」
沙樹がさっそくホットケーキに手をのばしている。真美も最初は遠慮がちに手を伸ばしていたが一口たべると後はがっついていた。そうしている間に出港のセレモニーがはじまったらしく窓の外が騒がしくなっていた。
「そろそろ出港だな、一般客も乗り込んできてるし。」
オレはカーテンを開けて窓の外をみながら言った。
「このフェリーけっこう評判いいからな。プチ豪華クルーズという売り込みで黒字運航らしい。」
最初は組織の人間が黒潮学舎と本部との間を移動するのを目的に運行され始めた船だが親父が商魂逞しいせいでいつのまにか一般客も乗せて商用に転向されていた。
「まぁ一般客はAデッキまでしか入れないんだけどね。このLデッキは完全に組織専用だ。その分くつろげるからいいけどな。」
この船には組織用のスペースと一般用スペースが用意されていた。こうして組織の行事や任務の移動にも使われている。
「あたしもLデッキで大丈夫なの?みんなAデッキなのに?」
真美が心配そうに聞いてくる。そういえば他の研修メンバーはAデッキで部屋わりされていた。
「別にいいんじゃね?AデッキとLデッキの違いは各部屋専属のバトラーがいるかどうかだけだし、Aデッキでも2-3部屋くらいずつに専属バトラーがついてるから他のみんなも不便はないだろう。ちゃんといい部屋をわりふってあったしな。お姫様がここなのはお姫様だからだよ。」
とりあえず真美は親父のお気に入りでもあるわけだし。今回の部屋割は親父がやったので真美にはLデッキをあてたかったんだろう。
「いいじゃん、あたしと同じデッキの部屋なんだから。今回は一部屋ずつにしてみたけど、どっちかの部屋に泊りにきてもいいのよ?」
なるほど、今回の部屋割には沙樹も口をはさんでいたわけか。親父はけっこう沙樹とも仲いいんだよな。
「まぁ、組織の雰囲気になれる勉強だと思っておけばいいさ。お姫様はどっちかといえば特待生なんだから素直に甘えとけばいい。」
言いながらオレは部屋の電話をとってクリストファーに連絡をとった。彼が運んできてくれた皿がキレイに空になったので片づけてもらうためだ。クリストファーはすぐに片づけにやってきてワゴンごと下げてくれた。それを見送ってからオレは沙樹に対峙した。
「さて、休ませてもらおうか?」
オレが言うと、沙樹も覚悟はきめていたのか。
「はいはい。」
といってソファーから立ち上がる。真美もそれにつられて立ち上がった。
「あ、絵里華。これあげるね。」
沙樹が思い出したように服のポケットから紙包みを取り出した。どうやら薬袋らしい。
「ぐっすり眠れるお薬。イチゴ味にしてあるから、そのまま水で飲んで大丈夫だよ。」
オレは沙樹の言葉にくすくすと笑いながらそれを受け取った。
「やればできるじゃんか。じゃあオレはこれ飲んで寝るから、しばらく連絡つかないと思ってくれ。」
オレがバスで言ったことはどうやら無駄ではなかったらしい。オレは機嫌よくその薬袋を開けると残っていたミネラルウォーターをグラスに注いで一気に飲み込んだ。確かに甘いイチゴ味だった。
「じゃあお休み、絵里華。」
沙樹がそう言うと真美を連れて部屋から出ていく。オレは見送る気力もなくベッドに向かった。倒れこむようにベッドに横になると意外に速効性の薬だったらしくすぐに眠気が襲ってきた。とりあえず服は起きたら着替えることにしてオレは素直に沙樹の珍しい好意に甘えることにした。

沙樹の薬で寝こけてたオレは、突然感じた力の流れで意識が戻った。ぼんやりとした意識で周りを確認するとよく見知った顔が見えた。
「あれ、ミュリシス姉様?なんでいんの?」
オレの部屋にいたのはミュリシス・アル・カザード。オレの従姉妹でもあり男装の麗人の先輩でもある。現在は組織の仕事をしながら祖国であるリザド王国で軍人をしているはずだった。ミュリシスはリザド王国の現国王の娘でリザド王国では美しい王子として国民からとても愛されていた。
「今回だけ船長になってる、といっても名前だけだけど。総帥命令で念のためってとこかな。」
ミュリシスは普段護衛艦の艦長をしている。船に関してはそこそこ専門家だ。ミュリシスとクリストファー、組織でもトップクラスの能力を持つ人間が二人揃って偶然任務につくわけはない。
「今回の研修何かウラがあるな。クリストファーがバトラーで居たときから疑問は感じていたけど。沙樹もやたらと素直だし、気味悪いと思ってたんだよな。」
絶対この研修ウラがある。オレは直感的にそれを感じていた。
「ミュリシス姉様、力移したな?オレの身体にパワーが漲ってる。」
オレはミュリシスの手を掴んで言った。さっき感じた力の流れはミュリシスがオレに自分力を分け与えたものだろう。
「ほんの少しだけね。本当は絵里華が眠ってる間にこっそりあげようと思ってたんだけど、やっぱり薬が切れかけてると察知されちゃうね。」
そういえば沙樹にもらった薬がはやめに切れたらしい。やっぱり飲み薬だと安定感にかけるか。オレとミュリシスのやりとりを真美が不思議そうに傍で聞いていた。
「ミュリシス姉様のパワーを一時的に分けてもらったんだ。そのおかげでオレ今すごい調子いいよ。体調もばっちりだ。」
オレは真美を安心させるように言った。
「オレはあんまり力使わなくてもいいだろうから、絵里華にわけとこうと思って。まぁ気休めのお守りみたいなもんだよ。」
ミュリシスは言いながらソファーに移動して座る。
「あーあ、完全に目さめちまった。久しぶりに沙樹の薬でぐっすり寝られた気がする。しかも甘いお菓子みたいな薬でだ。」
本当に久しぶりに熟睡できた気がする。オレはベッドから起き上がりミュリシスの座っている前のソファーに座った。
「沙樹も薬飲んで寝てたよ。せめて船の上でくらいお互い休息をとらないとね。」
ミュリシスの言葉にオレは沙樹も同じ薬を使ったのだろうと考えた。まぁ量は調節しただろうが。
「そういうミュリシス姉様だって、リザド軍とうちの組織掛け持ちで忙しいだろうに。」
ミュリシスも年の半々ずつくらいで組織の仕事とリザド軍の仕事をしていて休みもほとんどとれてないはずだ。
「忙しいのは慣れてるかな。キライじゃないしね、この生活。そういえばシャレイルが四国の仕事が終わったらオレにも提供して欲しいって言ってたな。かなり難航しているらしいね。今回のミッション。」
ミュリシスもかなり強い力を持った神の血族だ。オレと同じくシャレイルの契約者でもあった。
「こんなに血が必要なミッションも過去になかったな。いつもシャレイルて契約者の血じゃなくて、組織の供血者の中からてきとうに選んで栄養補給してるだろう?神の血族の血が大量にいるくらい難しいミッションなんか組織でも久しぶりのことなんじゃないかな。」
ミュリシスの言葉にはオレも同感だった。
「とりあえず、クソ親父が何かたくらんでいることはこれではっきりしたな。クリストファーにミュリシス姉様、沙樹もセットとくれば、オレピンチだろうな。」
たぶん四国に何か試練が待ち構えているはずだ。親父のことだ、また危険なミッションを用意していることだろう。
「それでもいつも何とかなってるだろう?今回もミッションクリアといこうぜ。」
軽く言うミュリシスにオレはふふっと笑って答えた。
「当然。このオレに不可能なんてないさ。」
特に親父のミッションとかでつまづくのはオレのプライドが許さなかった。
「オレもできる限り力を尽くすよ。何が待っているかは総帥と神のみぞ知るだけどね。」
ミュリシスも力を貸してくれる気満々らしい。オレはそれが心強かった。
「そろそろオレは船長に戻るよ。せめて夜間当直くらいはしておかないと威厳が保てねーからな。じゃあお姫様は確かにお返ししたぜ、絵里華。」
ミュリシスはそう言うと真美にむかってウインクしてから部屋を出て行った。そして部屋にはオレと真美が残る。真美の首には高級そうなペンダントがかけられていた。
「ミュリシス姉様とデートしてきたのか?ん・・そのペンダント・・」
オレはそのペンダントをどこかでみた記憶があった。
「これ、ミュリシス姉様が買ってくれたの。これが一番お店でキレイだったんだもん。」
真美のセリフでオレはそのペンダントをどこでみたかを思い出した。確か船のショッピングモールにある宝石店のディスプレイと化していた商品だ。高すぎて誰も手をだせなかった一点ものなはず。
「それ、この船で一番高い商品だぞ。ブルーダイアの一点ものペンダントで素材はプラチナだ。」
オレの言葉に真美の顔色が青ざめていた。
「確か500万だったかな。ほとんど店のディスプレイと化していた商品だ。一般客には到底買えない値段だからね。店には一般向けに1000円〜数万円程度のアクセサリーのほうが豊富にそろっているのに、わざわざ選んだのがそれってVIPだなお姫様は。」
まぁ選んだのはミュリシスだろうけどな。真美のセンスでこれを選ぶのはまずないだろう。真美ならもっとデザインがかわいいとか石がデカイとかで選びそうだった。
「まぁミュリシス姉様に限って、数万とかのやつとか死んでもプレゼントしないだろうけど、プライドにかけてね。」
ミュリシスも組織での任務が長いしもともと王族だ、お金は使いきれないほど持っているだろう。500万なんてミュリシスの感覚では飴玉一個みたいなもんだ。でもとりあえず真美はその価格に少なからずショックを受けているようだった。
「とりあえず沙樹が起きたらもう一個薬もらうかな。さっきの薬かなり効くのはやかったし味もよかったしな。どうせこんだけ寝たあとじゃ薬にでも頼らないと、普通には眠れないだろうから。」
オレは背伸びをしながら言った。沙樹の薬は効くのも速いし覚醒もスムーズだ。
「とりあえず、ミュリシス姉様のおかげで薬の効果完全に切れちゃったからな。オレのヒマつぶしに付き合ってくれるかな?お姫様。」
オレは沙樹が起きるまでのヒマを真美で解消する気まんまんだった。とりあえず真美の好みそうなアプローチをしてみる。
「仕方ないわね。どっかいきたいとこある?ミュリシスさんにいろいろ案内してもらったから、どこでもいけるようになったよ。」
オレの誘いにまんまとのった真美が得意げに言う。
「ばーか、オレがこの船に乗るの何回目だと思ってんだよ。もう船内なんか完全に知り尽くしてるっつーの。」
オレはそんな真美をからかいつつもソファーから立ち上がった。
「Lデッキには専用バルコニーもあるんだ、とりあえずそこにでもいってみるか。」
オレはとりあえず真美をつれてLデッキの専用バルコニーに向かった。そこは昔はやった豪華客船の映画にでてきそうないいムードの白いテーブルと椅子の空間だった。あたりはだいぶ暗くなってきていたが照明が明るくされていて特に不便は感じなかった。
「夜になったら星空もキレイに見えるんだ。視界を遮るものがないからかなり広範囲に見えるし、照明も今よりは少し落とすしな。」
船の上からみる星空は最高だ。オレはこの船に乗るたびにそれを見るのを楽しみにしていたりした。
「とりあえず明日の朝には四国についてるんだ。それまでは気楽に行こうぜ。」
オレは真美にそう言うと、デッキから下の海を眺めた。潮の香りがいい感じに匂ってくる。
「カクテルでも飲みたくなってきたな。何か頼もうか?船内電話も設置されてるからバトラーに頼めるよ。」
オレは雰囲気に流されて気分的に酒が飲みたくなってきていた。真美はそんなオレを見上げるようにして
「未成年だってこと忘れてない?」
と小言を言う。オレは少し笑いながら返した。
「とりあえず人間の身体だと若いうちの酒は毒にもなるけど、オレ達の身体には大したダメージはない。オレなんか10歳くらいから酒飲んでるんじゃないかな。」
いつから飲み始めたかは忘れたが、ワインやカクテル等を子供のころからよく口にしていた。親父も別に止めなかったしな。オレは真美がリクエストした紅茶と一緒にバニラリキュールベースのアルコールがキツイカクテルをデッキに備えつけられてある内線電話からオーダーした。すぐにクリストファーが注文したものを持ってきてくれる。
「サンキュー、クリストファー。久しぶりにこれ飲みたかったんだ。」
オレは紅茶とカクテルグラスを受け取ると真美に向かって
「おいでお姫様。食前酒の時間だ。」
と言った。真美はあきらめたのかオレが紅茶を置いたテーブルに素直に座った。オレはそんな真美に紅茶を注いでやる。
「ミルクとレモンどっち?あと砂糖はいくつ?」
一応クリストファーは両方の用意をしてくれていた。真美はミルクと砂糖を3コオーダーしてきた。
「お子様だな。」
オレが言うと真美はちょっとスネたようだった。
「これバニラのリキュールと生クリームが入っているんだ。甘いけど、アルコール度数が強くてね。玄人向けだ。」
オレは自分のオーダーしたカクテルを真美に見せるようにして一口ずつ味わうように飲んだ。真美が興味深々にオレのカクテルを見ている。
「一口飲ませてやろうか?」
オレは冗談半分に言って、真美にカクテルグラスを差し出した。真美は迷っていたようだが好奇心には逆らえなかったようでオレの差し出したカクテルを一口飲んだ。そしてそのアルコール度の高さにむせかえって咳きこんでしまった。
「やっぱりお子様だな。」
オレはカクテルグラスを真美から取り上げると残りを一気に流し込んだ。一瞬カッと胃が燃えるよえな感じがあるがすぐにその感覚は消えうせる。
「カクテルって意外とアルコール度高めなやつ多いんだよな。まぁオレは滅多には酔えないけど。」
オレ達は体質的に酔えない。酒の味や香り、一瞬の燃えるような感覚は楽しめても酔い潰れることはない。それはそれで少しさみしい気もした。
「さーて夕ご飯食べに行くか。バイキングでいいかな?好きなもの好きなだけ食べられるしね。」
オレはカクテルグラスをテーブルに置いて椅子から立ち上がった。そして真美をつれて船内にあるレストランに向かう。船の中には本格的なフレンチを楽しめる店から気軽なファミリー向けレストランまでいろいろとあった。バイキングが行われている店はそこそこ大衆向けなレストランだ。オレ達がレストランに到着すると入口で沙樹が待っていた。どうやら沙樹の薬もきれたらしい。

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