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ミュリのオリジナル小説連載コミュの黒潮学舎 絵里華の場合7

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「元気にしてる?」
オレが休み時間を待って声をかけると、彼はあわてて頭を下げた。
「総帥とは知らず、失礼をいたしました。」
恐縮する彼にオレは笑って言った。
「そんなもん気にしなくていいよ、ただの役職だし。ここでは身分制度の命令系統はあるけれど、基本的にみんな平等なんだ。少なくともオレに対して気は使わなくていいから。」
そうは言えども、やはり総帥という立場は彼ら一般の構成員には畏怖の象徴なのだろう。
「いろいろと報告を受けたけれど、IQも高いし、戦闘能力も高い。生まれるところを間違ったね。最初から組織に生まれていれば、今までこんな苦労しなくて済んだな。でもそれはこれからいくらでも取り返していけばいいことだから気にするな。」
オレの言葉に少し安心したのかコウキの顔から緊張が消える。
「名前は引き続きコウキでいいのかな?」
オレたちの組織には組織に入ったときに名前を変える人間もたくさんいた。当然戸籍ごとだ。オレ達のハッキング技術をもってすればそれは容易なことだった。日本国籍以外でも組織の管轄する国であるリザド国籍ならすぐにでも取得可能だった。
「森光輝という名前を頂きました。親父にはただコウキと呼ばれていたし、前の名字も忘れちゃったんで。」
コウキはノートに漢字を書いてオレに見せてくれた。
「そっか。親父さんとはどうなんだ?」
彼の父親は敵対組織の人間だったはずだ。
「元々親父との縁は切れてたから。親父にとってオレはただの道具だったんだ。愛してもらった覚えなんかないから。」
コウキはよほどツライ人生を歩んできたようだ。闇の世界に生まれるというのは本来こういうものなのかもしれない。オレは普段は憎まれ口ばかり叩き合っているがクソ親父がオレのことを愛していることを知っている。その分幸せな人生なのだろう。
「うちの組織は愛と友情があふれているからな。もしイジメとかする奴がいたらいつでもオレに報告くれ、ぶっ飛ばしにいくから。」
オレの言葉にコウキの顔に笑みが浮かぶ。こういう恵まれなかった人間が一人でも幸せになれるようにすることもオレ達の組織の活動目標だ。
「本当にこんな世界があったんだね。みんな敵だったはずのオレに優しくてさ。部屋ももらったんだ、クロノスタワーの地下に。いつかは地上に部屋がもてるようになればいいな。」
クロノスタワーの私室の割り振りは高層階になればなるほど組織の幹部クラスになっているのが慣例だ。オレや沙樹のような幹部の2世や最初から高層階に部屋をもらった真美の場合は特別なケースで、組織に入ってすぐの者は通常はみんな地下のワンルームから上の世界を目指すのだ。真美の同期の藤田クラスの生徒達もみんな地下に部屋をもらっていた。
「だから言っただろう。信じる者は救われるってね。」
オレの言葉にコウキは少し涙ぐむ。オレはだまって肩を叩いてやった。
「じゃあ、これからも訓練と授業がんばるんだぞ。上で待ってる。」
彼はきっと上にやってくるに違いない。そんなオーラがコウキからは感じられていた。コウキはオレの言葉に深く頷く。
「またな。」
オレはコウキに手を振りながら地下の訓練施設を後にした。地上に戻るとオレは久しぶりにラフィーユ学園都市内を散歩した。ラフィーユの学園内には様々な商業施設や公園などもあり、外部の人間も普通に楽しめるちょっとした都市になっていた。オレはバスをちょこちょこ使いながら博物館や公園を散策してみたが、特に身体に支障はないようだった。オレが散歩にでた理由には自分の身体の回復度をはかる目的もあった。この分ならもう完全に身体の心配はいらなそうだった。便利な身体というかなんというか。普通の人間ならまだ当分歩けるような状況ではないだろう。オレは一通り学園内をぶらぶらしてからクロノスタワーに戻る。その頃にはもう日も暮れていた。私室のリビングに入ると窓の外に派夜景がきれいに広がっていた。そしてリビングのソファーには沙樹がごろごろとしている。
「遅かったわね。どうせ寝てるのかと思ってきたらいないんだもん。」
沙樹はポテチを片手にソファーの上に寝っ転がって少女マンガを読んでいた。
「身体慣らしに行ってたんだよ。数日ベッドで寝たきりだったからな。」
オレが言うと沙樹は少女マンガをパタンと閉じて
「さすがバケモノね。普通ならベッドであんだけ長時間寝てたら筋力落ちて廃用症候群になってもおかしくないわよ。」
とあきれながら言った。
「まあ、そこが神の血族所以だろうけどさ。」
オレはそう言いながら沙樹の向かい側のソファーに座る。
「ミュリ姉様も退院したってさ。シャレイル先生が報告くれてた。」
沙樹がポテチの袋をオレに差し出しながら言う。塩味のそれをオレは掴んで口に入れる。
「ああ、バス停でちょうど会ったよ。貴仁も一緒にクロノスタワーまでもどってきたんだ。」
オレの言葉に沙樹はふーんと言いながら、ポテチ油の付いた手を用意していたおしぼりで拭う。
「あたしも休みもらっちゃった。絵里華の身体がいいなら、どっかにおでかけしよっか休みの間に。」
沙樹は少し上目づかいにオレに提案する。これは沙樹なりのおねだりのサインだ。
「どこいきたいんだよ?」
オレにはこの提案が断れないのが100%承知で、沙樹に聞いた。
「んー、日本国内でもいいし海外でもいいわよ。真美も連れてってあげよーと。」
沙樹の頭の中は楽しい計画でいっぱいそうだった。
「リザドでもいいんじゃね?真美はまだ行ったことないだろう?」
リザド王国は完全に組織が支配している国家だ。WKFやJKFの構成員なら簡単に出入国できる。
「ミュリ姉様連れてったら国賓扱いだしね。それもいいかも。」
沙樹はうれしそうに笑った。
「じゃあチケット手配してミュリ姉様や真美にも声かけておくね。」
どうやらオレの10日の休みはバカンスに決定のようだった。リザド王国は基本的に観光に国家で力を注いでいるため、バカンスに行くには最適な国だった。
「じゃあオレはもう休むよ。出発は2-3日後にしてくれるとうれしいかな。」
「了解。じゃあ2日後から3泊4日くらいの日程で立てておくね。」
とりあえずオレの休みの半分ちょっとはつぶれそうだ。沙樹に「おやすみ」と言うとオレは寝室に向かった。シャワーを簡単に浴びてベッドに横になる。疲れがあったのかすぐに眠気が襲ってきた。オレは素直にそれに身を任せた。

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