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インテンションコミュの第3話 「オーバーダズ」

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『つつじさん?何?どういうこと?』

 一体、何が起こったんだ?

『つつじさん?泣いとったらアカンよ!救急車呼んだ?』

『威咲に怒られる…』

『威咲は意識あるの?!』

『…なんか、帰って来た時はしっかりしててんけど、今なんか、ボンヤリしてきてる』

『威咲とは、話できる?』

『………』


このままでは埒があかない。
逸る気持ちを抑えて車を飛ばし、幾佐は威咲のアパートに駆け込む。

つつじがベッドのそばで膝を抱えている。

床には、ひっくり返された救急箱から、ピンセットやガーゼが散乱している。

威咲は?

ベッドの上に座って、壁に背中をもたれかけてボンヤリしている。
意識はあるようだ。

左目にガーゼを当てていて、口の端も少し切れて痣ができている。

『つつじさん?何があったん?』

『威咲、誰かに襲われたんやと思う。殴られたり蹴られたりしてると思う…』

幾佐は注意深く、威咲の様子をうかがう。

『立花威咲?』

幾佐が呼び掛けると、威咲はゆっくり見返して来る。

『俺が誰かわかるか?』

『高宮幾佐』

『お前の歳は?』

『…27』

『お前の、姉ちゃんの名前は?』

『立花つつじ』

意識レベルは悪くない。正確に受け答えしてはいるが、どうも反応が緩い?

『どこか、痛いところないか?』

威咲はちょっと考えて首を振って、少し笑って

『今は、ちょっと気持ち良い…』

と、答えた。

『…?なんで?』

『アスピリン、4錠…』

痛み止めを、規定の倍量飲んだということか…?

『…ビールで飲んだ…』

……?!
こいつホンマに医師免許持ってんのか?


どんな薬も、もともとは毒の一種である。
微弱な毒は薬になりうるので、毒を弱めて改良を加えて薬が出来上がる。
ワクチンも弱めたウィルスから作られる。
だからこそ、その用法容量は守られなければ、薬は再び量と共に毒に戻ってしまう。
幼児に大人用の薬を投与した場合、しばしば死に至る例もある。
それなのに、こいつは、それとアルコールを一緒に飲んだと言うのか?

『おまっ…、下手したら、マジで死ぬぞ?』

つつじに聞こえないように、小声でささやくと

『大丈夫…俺には、耐性ができてる…』

『………』

つまり、常用(か、乱用)していて、薬が効きにくくなっているから、心配いらないというわけか?


幾佐は呆れた。なんて奴だ。
こいつこそ医者にならなくて正解だ。


『ちょっと、左目見せてみろ』

そっとガーゼを外してみる。

『見えるか?』

『うん…』

『まばたきして?』

ゆっくりまばたく。少し涙が出ている。

『眩しいか?』

『……ちょっと…』

多少充血はしているが眼球に傷はない。だが、目じりから少し下にギザギザした傷が出来ている。

まだ血は止まっていない。

その傷は縫う程の深さも広さもない。むしろ元通りに治すとなると、そうとう細かい技術を要されるだろう。
女性なら顔の傷は保健適応されるかもしれないが、男性の場合は保健外になるだろう。
たいていの場合、縫わずにそのまま自然治癒を待ち、その傷跡は、たぶん一生残るだろう。

『くーちゃん、体の方も見てあげたって』

おそるおそる見ていたつつじが言う。

『威咲?自分で服が脱げるか?』

幾佐は威咲の動作や体を注意深く目視していく。

なるほど、蹴られたであろう楕円形の痣が右脇腹と背中にある。

触診して外傷以外の痛みが認められないか観察してみる。

しながら、つつじに質問もしてみる。

『もう少し詳しく最初から話して?』

『うち…今日、威咲がシチュー食べたいて言うから、晩御飯作りに来て、威咲の帰り待っててん。
ほんなら、なんか外が騒がしいなぁ、思うて、窓から外見たら、駐車場のところで威咲が倒れててん。
ほんで、あわてて迎えに行って、ここまで帰ってきてん。
すごい血が出ててビックリして……』

『顔や頭は、軽傷でも結構派手に出血するもんやで』

『うん…、威咲もそう言うて、自分で傷の手当てしてた…
でも大丈夫かな、救急車呼ぼうかな?て、迷うててんけど、威咲が『今忙しいから余計な事すんな』って怒るから…
でも、だんだん、威咲の様子、変になっていったから…怖くなって…』

『様子が変になっていったっていうと?』

『段々…ボンヤリしてきたから…』

それは、倍量のアスピリンを酒で飲んだせいだろう。

でも…?今忙しいから余計な事するな…ってなんだ?


威咲の体には痣が出来ているが、心配はなさそうだ。
万一、内臓に損傷があれば、今頃はショック状態になって意識を失っているだろう。

そうなっていれば、つつじだって迷わず救急車を呼んでいたはずだろう。

だが、今、この場所から一番近い救急外来は『立花病院』しかない。
威咲が勘当された家が経営する病院だ。
プライドの高い威咲が拒否するのも無理はない。
この、きかん坊の弟を溺愛する余りに、迷ってしまって途方にくれて、泣きながら幾佐に助けを求めた訳か。


『威咲?今度はお前に聞く。何があった?』

『姉ちゃんの言うとおりや。
すぐそこで、名前呼び止められて、振り向いたらいきなり顔にガン!て来て、あとボコボコにされた。2〜3人おったかな…。
なんか、カッコ悪いし、急いで帰ろうと思うて立ち上がったら、姉ちゃんが泣きながら走ってきてん。俺、めっちゃ恥ずかしかったわ…。
部屋に戻って来て、傷の具合自分で診て手当てしてた。』

いつになく、おとなしく指示に従い、質問に答える威咲は、何処か違和感がないでもないが、意識や記憶を失うことなく、事の始めから終わりまでを覚えていて、淀みなくちゃんと話が出来るところを見ると、頭を殴られたわけではなさそうだ。

『…大丈夫。心配ないよ…』

幾佐がつつじの頭をポンポンと撫でると、つつじはようやく笑顔を見せた。

『良かった…たいした事なさそうで…』

つつじの笑顔に、威咲もにっこり微笑んで

『姉ちゃん…ごめんな…』

と、見ているだけでも癒されそうな笑顔を浮かべた。



『………』

ここで幾佐は、再び血の気が、サァ―っと引くのを感じた。

明日は『インテンション写真集』の撮影がある。


それこそ、威咲の顔が売りモンの仕事ではないか?!

どうするんだ?威咲?その傷を負った顔で?


http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1017789382&owner_id=9223751&org_id=1017107317


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