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映画を語るコミュの「LA大捜査線/狼たちの街」

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約20年ぶりに「LA大捜査線/狼たちの街」をDVDで鑑賞した、実に面白かった。

80年代中頃、日曜日の昼時に放映されていた「スーパージョッキー」で水野晴雄が絶賛(この人はいつもこうだが)、ビートたけしも興味深く予告編を見ていたのが印象に残っている。その後、半年ほどで地元にある大塚名画座で上映されたので、急いで観に行った。当時は「ビバリーヒルズコップ」のようなコメディ・アクションや「ランボー」などのノンストップアクションが大好きな典型的な中坊だったので、クライム・アクションである本作をあまり面白い作品とは思えなかった。しかし評判になっていたカーチェイスと意外性のあるラストだけは、強く印象に残っていた。

それから3〜4年後、北野武の「その男、凶暴につき」を観に行ったとき、作品を覆う全体の雰囲気とラストの展開に「LA大捜査線/狼たちの街」の影響を強く感じた。実は北野武は、監督デビュー作であるこの作品を製作するにあたって「LA大捜査線/狼たちの街」のビデオをスタッフに配り「こういう雰囲気で作りたい」と伝えたらしい。脚本家である故・野沢尚氏もはっきりとその事を認めている(http://www.shimi-masa.com/archives/2004/07/4_8.html)。

「LA大捜査線/狼たちの街」は70年代初頭に「フレンチコネクション」と「エクソシスト」の2本の大傑作を放った、ウィリアム・フリードキン監督のクライムアクションである。当時は過去の人扱いだったのであまり評判にはならなかったが、その後、数多くのクリエーター達に模倣される事になった、伝説の作品である。

「フレンチコネクション」で誰もが驚いたのは、主人公のポパイが背後から凶悪犯を撃ち抜く場面と、同じくポパイがラストの銃撃戦で同士討ちをしても平然としている場面であった。法の番人であるはずの警官が、犯罪スレスレの行為を働くのである。その他にもナンパをしたり、気に入らない犯罪者には執拗な暴力を振るったりと、どちらが犯罪者かわからないような描写が満載であった。この「LA大捜査線/狼たちの街」では、舞台をNYからLAに移し、連邦捜査官である主人公と相棒の無軌道な活躍を、「フレンチコネクション」以上に見せつけてくれる。

物語は、偽札犯に殺された同僚の仇を討つべく悪戦苦闘する連邦捜査官・チャンスの姿を、フリードキンお得意のリアルなタッチで描いている。新しい相棒とコンビを組んだチャンスは、捜査を続けていく中で、違法行為が徐々にエスカレートし、同じ法の番人であるはずの捜査関係者まで巻き込んで行く・・・・・。

主人公・チャンスを演じるのは「CSI」でおなじみのウィリアム・L・ピーターセン、この頃はまだ若く、血気盛んな連邦捜査官をエネルギッシュに演じている。対する紙幣偽造犯の親玉にはウィレム・デフォーが扮している。「ストリート・オブ・ファイヤー」と「プラトーン」のちょうど中間に演じた時期なので、まだそれほど有名ではなく、爬虫類のような風貌と得体の知れない不気味さが画面から滲み出てくる。さらに同じく重要な鍵を握る犯罪者の1人に無名時代のジョン・タトゥーロが扮している。いま思えばなかなかの豪華キャストだ。

冒頭は、ストーリーには何の関係もないイスラム過激派の衝撃的な爆死場面から始まる。「エクソシスト」もそうだったが、フリードキン監督は来るべき混沌とした未来を予測していたのかと空恐ろしくなる。

チャンスが行う違法行為は、ポパイが可愛く見えるほどの酷さである。現場から証拠品を黙って持ち出したり、仮釈放中の女性の弱みを握り、情報屋として利用したりもする。さらにその立場を利用して情報屋の女性の身体もいただいてしまうのである。極めつけはその情報屋から仕入れた5万ドルのダイヤの取り引きを襲撃し、FBIの囮捜査官を殺してしまうのだ。捜査の為の違法行為とはいえ、一切同情が出来ないほどの非道ぶりである。その取り引きの場面で、追っ手から逃れる為にチャンス達は渋滞しているLAの高速道路を逆走して逃げ切る。この場面は観客のみならず、多くの映画作家達にも強い影響を与えた。高速道路へ至る用水路の場面は「T2」や「24」でそっくりそのまま再現されていたし、「リーサルウェポン2」や「RONIN」や「マトリックス リローデッド」といった”高速道路上での無茶なカーチェイス映画”の先駆けとなった。いずれも一流のクリエーター達がこの場面に憧れ、自らの創作意欲をかき立てたのである。「フレンチコネクション」の高架線下のカーチェイスは、映画の教科書にも載るほどの有名な名場面であるが、低予算であるが故に同じルートを編集で巧く繋げ、ハプニングをも取り入れて迫力の場面を作り上げていた。「LA大捜査線/狼たちの街」では渋滞が常に途切れる事の無いLAの高速道路で実際にロケをし、前方から迫り来る無数の車の間を巧妙にすり抜け、パニックに陥れる場面をワンフレームに収めていた。爆発的なヒットにならなかったので今では語られる事も少ないが、「フレンチコネクション」以上にカーチェイスの歴史を変えた作品なのである(ここで見る事ができる、http://www.youtube.com/watch?v=6i52cJRLlgQ)。

悪人を追いつめるのと同時に、チャンス達も徐々に追い込まれていく。そして最後の最後には悲劇的な結末を迎える事になる。その非情で救いようの無い結末は、ハリウッド映画では珍しく、フレンチ・フィルム・ノワールをも彷彿とさせる。

「マイアミバイス」のプロデューサーであるマイケル・マンは、この作品をコンセプトの盗用として訴えたが敗訴した。その事がよほど悔しかったのか、1986年に同じウィリアム・L・ピーターセン主演で「MANHUNTER」というタイトルの映画を作り上げた。この作品は、後に「刑事グラハム/凍りついた欲望」というタイトルで日本でも公開されたが、「LA大捜査線/狼たちの街」と比較にならないほどの愚作であった(ちなみに2002年に「レッドドラゴン」というタイトルで再映画化された)。

北野武を始めとして、多くの監督達を刺激し影響を与えたウィリアム・フリードキン。絶頂期でなかったとはいえ、ここまでの作品を作り上げるのは、やはり非凡なる才能故である。80年代らしく軽快な音楽が全編に響き渡るが(音楽はあのワン・チャン、懐かしい)、物語は陰惨で破壊的である。だからこそ、当時としても異色的な作品に仕上がったのであろう。

現在でもまったく色褪せる事のない、非情なるクライム・アクションの傑作である。

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