ログインしてさらにmixiを楽しもう

コメントを投稿して情報交換!
更新通知を受け取って、最新情報をゲット!

小説置き場(レイラの巣)コミュの渦雷 第2章 8話

  • mixiチェック
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  森の中を男の子が歩いていた。5歳ぐらいだろうか。
 ランニングの白いシャツ。半ズボンから伸びた太ももがまぶしい。

 近くの低い木の枝から、何かをつまんで口に入れ、さらに何粒かを手に採り、半ズボンのポケットに押し込んだ。

 何かに気づいて、ぐるりと周りを見渡した。
 小鳥のさえずりよりもかすかな音が、静かにどこからかもれて来る。

 ひざをついて、茂みの中にもぐり込み、真っすぐに音のするほうに進んで行く。

 茂みが切れ、ぽっかりと明るい場所に着くと、すぐそばに、ひざを抱えて両の腕の中に顔を埋め、若い男が座っていた。

 その若者は、自分の後ろからガサゴソとなにかが音を立てて近づく気配に顔を上げ、振り返り、男の子と目を見合わせた。
 思ったよりも若い。まだ、18歳か19歳。

 不思議な物を見る目をして、男の子は近づいた。

 もしかして、このお兄ちゃんが泣いていたのかな。さっきの小さな音は…。
 若者の目のはじが赤くなり、瞳の中にはまだ涙が溜まっていたが、そこまでは気がつかなかった。

「はい」

 ポケットからさっき採ったばかりの木の実を取り出して、差し出した。

 そっと受け取ったお兄ちゃんに男の子はニッと笑いかけた。
 ついでに自分の口にも一粒放り込んだ。

「美味しいよ」

 若者が口を開いた。

「きみ…、涼に似てるね」

 男の子が目を丸くした。また若者が呟いた。

「ここは、だめだ…。思い出させるものが多すぎる…。
 まだ、たった半年なのに、僕はもう後悔をしている。
 学園に涼を置いてきた事を。
 でも、いいんだ。僕は間違ってない。
 連れて来ちゃいけなかったんだ…」

「お〜い。どこだ〜」

 遠くから老人の声が、よびかける。
 男の子は振り返り答えた。

「ここだよぉ〜。おじい〜」

 男の子が振り返ると若者は立ち上がり、男の子から少し離れたところでこちらを見ている。

 あれ? 男の子が目をパチパチさせた。お兄ちゃんの周りで、ゆげのようなものが立ち上り、ゆがみが少しずつ広がりお兄ちゃんが薄くなっていく。

「おじい〜」

 振り返りおじいを呼ぶ。

「こんなところに居たか」

 そう言いながら、竹かごを背負った老人が現れた。

「さぁ、うちに帰ろう。雷雲が出ているぞ」

 さっきから、音がしていた。すぐに雨が来る。

「おじい。お兄ちゃんが居る」

「?」

「背が高くて、細くて、知らないお兄ちゃん」

 もう見えない。

「いなくなっちゃった。消えちゃったの」

 子供はみんな夢を見る。

 涼の知らない人間だとすると、この村の者じゃないな。
 3ヶ月ぐらい前に、村長が拾ったという若者かも知れない。
 記憶を失っていて、何もわからなかった。
 駐在さんと話をして、そのまま村長が預かった。
 こんな所で何をしていたのだろう。

「さぁ、帰ろう」

 おじいに手をひかれながら、涼は振り返り、どうしてお兄ちゃんは僕の名前を知っていたのだろうと思った。

 波のように繰り返される。何度でも巡り合う。

渦雷 第2章 9話 はこちらから ↓

 https://mixi.jp/view_bbs.pl?comm_id=4788856&id=97847807            

コメント(0)

mixiユーザー
ログインしてコメントしよう!

小説置き場(レイラの巣) 更新情報

小説置き場(レイラの巣)のメンバーはこんなコミュニティにも参加しています

星印の数は、共通して参加しているメンバーが多いほど増えます。