ログインしてさらにmixiを楽しもう

コメントを投稿して情報交換!
更新通知を受け取って、最新情報をゲット!

小説置き場(レイラの巣)コミュの渦雷 第2章 9話

  • mixiチェック
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
 おじいに手をひかれながら、涼は振り返り、どうしてお兄ちゃんは僕の名前を知っていたのだろうと思った。


 波の様に繰り返される。何度でも巡り合う。


 来た。

 何度も経験した懐かしい空間の揺らぎが僕の皮膚をはじいている。
 公園の反対側だ。
 急ぎ足で広場を横切ると、すでに空間がねじれ、揺らぎが広がっていた。

 まだ雨は強く、何度も雷鳴が鳴り響いていた。

 揺らぎの中に少年が現れた。柊。いや若い。シュリエだ。

 高校で僕が柊と出会う前。
 故郷の世界から、はじき出されたばかりの僕の息子。
 やはり会えた。

 はっきりと姿を現し、揺らぎが消える。真っすぐに立っていた。楽な移動だったのだ。
 雨に濡れた自分の顔をそでで拭きながら、不安そうに周りを見回し僕に気がついた。
 唇が動いた。『見られた!』そう言ったように見えた。

 シュリエの周りで、空間が揺らぎ出す。馬鹿な。着いてすぐにまた移動するなんて。

「やめろ! シュリエ! 無茶だ!」

 名前を呼ばれてシュリエが目を見開く。だが揺らぎはさらに広がった。
 逃げようとするシュリエを両手で抱きしめた。
 手を離したら、そしてもしも別々の場所に飛ばされたら、二度と捕まえられない。

「味方だ! 手を離すな! シュリエ!」

 だが、シュリエは僕の腕の中で、もがき続けた。

 移動の衝撃は激しかった。体ごとねじられ骨がきしんだ。
 抱きしめているはずのシュリエすら、もぎとられそうになった。
 唇をかんで、シュリエを抱きしめる。が、その唇の感覚も無い。

 壊れかけた僕の心臓が悲鳴を上げる。
 まだ少年。きゃしゃなシュリエのほうが先に気を失った。

 心臓の痛みが、僕に気を失う事を許さなかった。たたきつけるような到着の衝撃だった。

 横になったまま、手探りでポシェットの中からニトロを出し、舌下に押し込んだ。
 医者が処方した僕の心臓の薬だ。効いてくるのを待ちながら、のろのろと周りを見渡した。
 すぐそばでシュリエが立ち上がろうとしていた。

 激しい雷鳴と雷光。だが、雨はまだだ。
 湿った地面。シダのような植物。高い気温と湿気。
 異常にとげとげしい空気。到着したばかりの僕を、もう拒絶している。
 確実に恐ろしく危険な世界だ。

 ポシェットから銃の部品を取り出し、横になったまま組み立てる。
 今、雨がやんでいるのは幸運だった。
 濡らさずに濡らさずに組み立てられる。
 恐る恐る僕を見ていたシュリエが銃に驚き走り出す。

「だめだ! 行くな! シュリエ!」

 声がかすれて出ない。
 痛みは遠のいたが、まだ薬が効いていない。
 心臓が弱々しく脈を打つ。

「シュリエ!」

 シュリエが立ち止まった。僕の声が聞こえたはずは無い。
 何かを見つめ、ゆっくりと後ずさりをしている。

 目の前の茂みが割れ、ヌメヌメとした塊が現れた。
 シュリエの背丈の倍あたりにどんよりとした目があった。

 ガマのような顔にワニのようなからだ。全体に緑色の粘液がまといつき、したたっている。
 ゆっくりと顔の向きを変え、シュリエに気がついた。

 重いからだを起こし、両ひざを立ててひじを固定し、銃をかまえた。
 こちらを向き走り出そうとしたシュリエが僕の銃に気づき、動けなくなる。

「伏せろ!」

 声を絞り出し叫ぶ。

「伏せろ!」

 シュリエが伏せた。いや、違う。
 ガマの舌がシュリエの足にからみついている。

 そのまま凶暴な力でシュリエの体が持ち上げる。
 逆さづりの状態になり何かを叫ぶシュリエ。

 だが、シュリエの体がじゃまになって撃てない。

 そのまま、大きくのどを見せて、シュリエを頭から口の中に入れる。

 撃つ。のどに一発。口の中のシュリエに当たらない位置。
 またさらにその下、腹に近い位置に一発。

 キリキリと耳障りな悲鳴をあげて、シュリエを口から吐き出した。

 投げ出されたまま、身動きをしないシュリエ。
 歯は見えなかった。ケガは無いはずだ。
 だが、急がなければ。

 ガマがこちらを向き直り怒りを見せた。
 攻撃をしたのが僕だとわかったのだろう。向かってくる。

 眉間に一発。
 この世界の生物の、脳がどこにあるかはわからない。
 だが、目の近くには多くの神経が集まっているはずだ。
 痛みからか顔を大きく振る。

 その顔をねらってさらに一発。まだ、動きを止めない。こちらに向かってくる。
 全弾を撃ちつくし、ようやく倒れた。だがまだ動いている。
 ポシェットから追加の弾を込め、再度全弾を撃ち込んで、ようやく動かなくなる。

 腰のホルダーから携帯を投げ捨てた。
 この世界では役に立たない。銃に最後の弾を込め、代わりに差し込んだ。

 シュリエにかけより心臓の音を聞く。
 弱々しいが動いている。脈もある。だが呼吸音が聞こえない。
                                                ……つづく

渦雷 第2章 10話はこちらから ↓
 https://mixi.jp/view_bbs.pl?comm_id=4788856&id=97847812
                                              

コメント(0)

mixiユーザー
ログインしてコメントしよう!

小説置き場(レイラの巣) 更新情報

小説置き場(レイラの巣)のメンバーはこんなコミュニティにも参加しています

星印の数は、共通して参加しているメンバーが多いほど増えます。