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小説置き場(レイラの巣)コミュの渦雷 第2章 11話(最終)

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 シュリエがゆっくりと立ち上がり、僕から離れた。
 揺らぎが彼を包み始めた。

「会いたい人を考えなさい。行きたい場所を思い描くんだ
 そうすれば会える」

 揺らぎの中でシュリエがうなづいた。
 シュリエが消え、僕が残された。

 柊の最後の言葉を思い出す。

『ぼく…は…ん…しん……また…な…』

 僕は半身をみつけた。……待たなくていい。

 シュリエがみつけた半身はルームメートの涼だ。父である僕ではない。

 心臓が弱々しく脈をうつ。残された時間はわずかだろう。

 だが、シュリエの命を救い、若い僕の元へ送り届けた。それだけでいい。
 やはりだ。
 シュリエの命を救った老人。僕以外にはあり得なかった。

 万に一つも、自分のために父親が死んだなどと気づかせたくない。
 自分のために大事な人間が死ぬ苦痛をシュリエには味あわせたくはない。
 これでいい。

『お父さんは、僕の事を好きだって言っていた?
 僕の事を嫌いだから居なくなったんじゃないの?』

 馬鹿だなぁ。そんな事を考えていたのか。
 会いたい。会うのが怖い。
 迷っているから、なかなか会えなかったんだ。

 コテージで父親の僕に同じ事を聞いた。
 子供の頃の僕を好きだったかと。素直で真っすぐなシュリエ。
 いつも僕の胸に飛び込んで来た幼い日のシュリエ。

 初めて会った頃の柊は、誰とも交わらず、壁を作り、大人びてさえ見えた。
 心は幼いシュリエが異世界で自分を守るためだったのだろう。

 二人で暮らしていた時には、柊はうそばかりついていた。
 秘密を抱え、うそをつきながら僕のそばに居続けた。
 父親との約束に縛られて、きっと迷い続けていた。

 出会うたびに、表情を変えるシュリエ。
 僕はシュリエの全てを知っている。

 さて、どこへ行こう。
 あと一回の移動ぐらいなら、僕の心臓ももつだろう。

 行きたいところがたくさんある。
 会いたい人もたくさんいる。
 なんとすばらしい人生だったのだろう。

 やさしいリュイ。幼いシュリエ。学園で柊と出会った。
 柊と僕の家。柊が植えた桜の樹。コテージ。

 あぁ、僕は馬鹿だ。
 行かなければならないところがある。
 僕は約束した。いつまでも待っていると。あの公園でと。
 いつか僕との約束を守るために柊が来る。

 僕を押し出そうとする力をつかみ解き放つ。
 揺らぎが始まり広がる。

 大きく息を吸い衝撃に備える。だいじょうぶだ。
 これだけ僕を拒否していれば、大きな衝撃は無いはずだ。

 足に、からだに、ぬめりと何かがからみついた。顔を起こし確認する。
 死んだはずのさっきのガマが、その長い舌を僕の体に巻きつけようとしていた。

 片目がつぶれ、青い液体が流れ落ちていた。
 額からも口からも青い液体が滴り落ち、緑色の粘液と混ざり合っている。

 揺らぎが広がり、ガマをまきこんだまま、移動が始まる。

 ホルダーから銃を取り出し、顔にめがけて撃ち込んだ。
 舌から力が抜け、僕の体から滑り落ちる。

 同時に軽いめまいがして、次の世界についた。
 霧のような雨。しっとりとした空気。
 ガマは居なかった。ついてこれなかったのか。それとも、違う世界にとばされたのか。

 知るものか。
 なぜか陽気になっていた。
 知るものか。どこかに行き、だれかを驚かすがいい。

 何度も柊に、シュリエに助けられた。一度くらいは僕がシュリエを助けたい。
 きっと僕は助ける事ができた。

 顔になにかが降りかかった。のろのろと手に取ると桜の花びらだった。
 雨に散らされ、何枚も僕にふりそそいでいる。
 帰って来た。ここは僕の世界だ。

 僕はここで待つ。僕の息子…を。シュリエを。ぼく…の…しゅ…う…。

 ぼくの…はん…し…ん…。ぼく…は…


 打ち寄せる波の様に繰り返す。何度も求め合い何度も出会う。



 終わり

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