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小説置き場(レイラの巣)コミュの【神話夜行】 12(2−1) 浅草界隈

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 こちらは「白い夜」という神話夜行の第8話の続きとも言える話です。
 8話を読まなくてもわかるように書いたつもりですが、もしよろしかったら、そちらを先にお読みください。全3話です。

3−1
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3−2
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3−3
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 文字数、約10100。ちょっと長いので2話にしました。
 初出2014/2/16

                             夜


「めんどくさいなぁ」

 長いすの上でうつぶせになって、眠そうな声でコウは言った。
それを横目で見て、羽鳥(はどり)は口のはしで笑う。

「クソジジィへの貢物だ。手間ひまをかけてやるさ。行くぞ、コウ」

 コウ。見かけは十七・八歳の日本人だ。
 黒い髪はボブのような、おかっぱのような、肩あたりの長さ。
 身長は百七十センチそこそこ。筋肉などお世辞にも無いと言えるほどの細身だ。
 
 そして、男なのに美少女と言いたくなるほど美しい顔立ちをしている。
 ダメージジーンズにTシャツという無造作な服装だったけれど、長いすに横になるその姿は絵本の中の王子様をほうふつとさせた。

 しかし、コウはゴルゴンの三姉妹、つまり長姉ステンノー、次姉エウリュアレー、そして末妹のメドゥーサが三人で産み出した。
 つまり、最強の戦士に育つはずの若者だった。

 そして羽鳥。
 見かけは三十歳を少し過ぎたぐらいの日本人男性。短い黒髪。
 身長は180センチを越えている。
 色の濃いサングラスをかけ、丈の短い黒の革ジャン、それとセットの黒の皮のパンツ。
 大きく首もとの開いた白いTシャツから、鍛え上げた胸板を見せびらかしている。
 片耳だけの銀のピアス。
 その姿は一昔前の漢だ。

 だが、彼もまた人間ではない。本体はハーピー。美しい女の顔に胴体は鳥。その声は男を狂わせる。
 二人は一緒に住んでいる。羽鳥がコウを戦士として育てている。羽鳥は言わば、コウの教育係だ。

「めんどくさいよぉ」

 何度目かのことばを、コウは口にした。
 羽鳥はコウをつれて、浅草まで、テュポエウスの好物である徳太樓の金つばを買いに行こうとしていた。
「はあちゃんがさぁ。ひとりでちょっと飛んで、取って来ればいいじゃないか。
 なんなら、僕がここに出すよぉ?」

「羽鳥とよべ。コウ。
 それじゃだめだって事はわかっているだろう?」

 わかっている。彼らはエネルギーを取り入れるために、食べ物を口にする必要は無い。
 物体に込められた想い、あるいは気そのものを彼らは吸収する。
 花からも岩からも、風からも。そして人間の気も想いも彼らは吸収する。
 喰える。

 それ故に人々は、いや生きとし生けるものは、彼らに近づく事を無意識に恐れている。
 風さえも忍び足に変わる。
 彼らの周りには近づきがたい領域ができる。
 その領域に入る時には、身構える。時には儀式を必要とした。
 その領域を人々は聖域と呼んだ。

 だが同時に生物たちは、動物も植物もその聖域の周りに集まってくる。彼らの庇護を感じ取るのだ。
 当然のように彼らの周りには芳醇な自然が生まれ、村ができた。
 そして大きな力を持つ者、たとえばテゥポエウスのような者の住まう場所には巨大な都市ができた。

 だから時間を早回しし、地球を俯瞰(ふかん)で眺めれば、どこに強大な神が住まいを定めたのかがわかる。
 羽鳥がコウをつれて、江戸の地に住み始めてしばらくして、おそらくティポエウスはその住まいを日本に移したのだ。京、大阪、そして江戸。必要に応じてその時々、移動しながら。
 そして、コウと羽鳥を監視し守るために、江戸には長く留まった…。
 羽鳥はそう感じている。それが、江戸の急激な発展の理由だろう、と。
 500年前に羽鳥とコウが住み始めた時、江戸には少々の農地と狐狸の住む原野と、そして広い湿地帯があった。

 時おり、羽鳥はわざわざコウをつれて、自分の足で歩き、電車に乗り、浅草観音裏の徳太樓まで金つばを買いに行く。
 その手間ひまを、そして長い伝統と戦う職人たちの意地を、ティポエウスは喰う。
 しぶしぶついてくるコウの気配さえも、テュポエウスは喜んで喰っているだろう。
 そして羽鳥の感謝と、要らぬお世話だという想いもティポエウスは喰っている。
 ティポエウスが居を移さなかったら、コウはもう少し長く、敵に見つからずに済んだのかもしれない。

「行くぞ。コウ」

 のそのそとコウは起き上がった。

               ☆~*~★~*~☆~*~★~*~☆~*~★~*~☆

 今、僕は放送作家をめざしている。
 本当になりたいのは脚本家なんだけどね。
 でも、まずは放送作家だ。

 今、ラジオ局でやっているアルバイトはそのための足がかりだ。
 大学は辞めたのも同然だ。
 やっている事は葉書の整理をしたり、メールの整理をしたり。
 使用の許可を取るために連絡をしたり、不要になった紙媒体を裁断したり。
 ほぼ、じゃなくて完璧な雑用係だ。

 自分を売りこみたいとは思うのだけれど、今は無理だなぁ。
 自分を売っても、自分のなにを売り込むんだ?
 まだ僕に力が無いのはわかっている。身動きが取れないね。

 だから、毎日の通勤時間にネタを探す。
 同じ車内の客に、時おり普通とは違う人種が混ざっている。
 会社員か学生か。簡単に区別がつく人間に混ざって。

 たとえば今、僕の斜め前に立っているお姉さん。
 30歳前後にみえるのにゴスロリに猫耳だ。
 今日、仕事は休みで、趣味のゴスロリなのかなぁ。
 それともゴスロリを着てする仕事で、これから出勤なんだろうか。

 それから、僕の隣に座っている男。
 薄暗い店内なら、イケメンに見えるだろう。

 きっとまだ20歳になったばかり。僕とたいして変わらない歳だ。
 アルコールが混ざる体臭が僕に届く。
 染めた髪。あんまり陽にさらされた事の無い肌。
 なにかをあきらめて、なにかにしがみついている目。ぼんやりと前を見ている。
 多分、ホストだろう。
 でも、なぜ午前中のこんな時間に電車に乗っているんだろう。まだ出勤の時間じゃ無いだろうに。

 そんな彼らにはどんな人間関係があって、どんな会話をするんだろう。
 僕は僕の勝手な妄想を手帳に書く。
 書き溜めたものを見直して、面白いものはまとめる。
 コントや短い短編小説や脚本や。
 書き直してPCでプリントアウトして。
 いつでも見せられるようにしてある。
 でも、まだだ。僕にはまだ力が無い。

 そうやって毎日、僕はぼんやりと車内を見て、アンテナを張っている。
 なにかがひっかかるのを待つ。僕の夢のために。
 
 だから、僕は見てはいなかった。
 駅について、二人連れの男達が乗って来るのを。

 若いほうが年上のほうに、甘えるような目をして、なにかを話しかけている。
 離れているから聞こえない。
 彼、17・8歳に見えるのに、表情が幼い。

 まるで親子のようだ。でも、親子じゃ年が合わないなあ。
 年上のほうはまだ30歳を過ぎたばかりだろう。
 それに二人の雰囲気が全然違う。家族とは思えない。

 同性愛? とも違うようだ。
 多分、そこらあたりから、僕のアンテナが反応した。

 しかたがないというように、年上の男がソフトクリームを出して渡した。
 若い男が受け取って、無邪気な顔で食べだした。

 そこで気がついた。あの男はソフトクリームを、今、どこから出した?

 二人ともどこにもつかまってないのに、電車が揺れても姿勢が崩れない。
 まるで、電車の揺れとは切り離されているような立ちかただ。

 それに、他の客が揺れても、彼らにぶつからない。
 そうだ。そこそこ混んでいるのに、彼らの周りには空間がある。
 まるでさけているかのようだ。

 僕はそこで視線を落とした。もともとまっすぐに見ていたわけじゃないけれど。
 いつものように目のはしで、気がつかれないように観察する。
 でも、見てはいけない物を見ているような気分だ。
 無意識に出した手帳を広げ、目を落として、彼らに関心が無いふりした。

 そして書いた。

「男同士の二人連れ。
 片方は30代。
 この暑さに黒の革ジャンにそろいのパンツ。サングラス。片耳にピアス。
 マッチョ。男臭い。

 片方は17・8歳。美少年。おかっぱみたいな髪。
 ダメージジーンズ。オフホワイトのTシャツ。
 二人の関係は謎。

 なんだか変だ」

 ソフトクリームを食べ終わって、若いほうが指をなめている。
 いや、待ってくれ。コーンを包んでいた紙はどこに消えた?
 丸めた? 捨てた? ポケットに入れた? 見てない。記憶に無い。
 年上のほうが無言で、少し怒ったように、少年の手を白いハンドタオルで拭いた。
 だから待ってくれって。その濡れたハンドタオルは、今どこから出したんだ。

 駅について、ドアが開き。二人が降りていく。
 まるで二人しか居ないような歩きかたで。
 だれにもぶつからず。でも、よけもしないで。

 また、彼らの周りに不思議な空間がある。だれもがなぜか近づかない。

 年上のほうは少し大またで、若いほうは彼にじゃれるような早足で。
 ホームを歩いて行く。

 僕は知らず知らずに、顔を上げて見ていたのだろう。
 若いほうが振り向いて僕を見た。目が合った。
 まるで無邪気な子供のような顔をしていた彼が、僕を見てふっと笑った。

 彼の瞳が一瞬赤く輝いた。それは地獄の炎のようだった。
 一瞬だが、心臓に刃物をつきつけられたような笑いかただった。


 何気なく車内アナウンスの声を聞いて、降りる駅だと気がついた。
 もう? いつもより早い気がした。
 ひざの上に手帳があってボールペンを握っていた。
 いつの間に? 僕はなにかを書こうとしたのだろうか。
 開かれたページはまだ白紙のままだった。

 急いで手帳を閉じてバッグにしまって立ち上がる。

 毎日、少しずつこうやって集めていって。
 いつか。いつか。きっと。僕は僕の夢にたどり着く。

             ☆~*~★~*~☆~*~★~*~☆~*~★~*~☆

「あ、ごめんなさい」
 だれかにぶつかって、私は反射的に謝った。

 そこには誰も居ないと思っていた。いきなり人があらわれたように感じた。
 いいえ、浅草の仲見世通り。その人ごみの中で、急いだ私が不注意だったのだ。

 父との約束を10分以上すぎている。
 浅草の雷門の大きな提灯のそばで、父と待ち合わせた。
 一人で浅草に出てくる父に、わかりやすいようにとそこにしたが。
 イスのある場所のほうが良かった。
 父はもう50歳半ばだ。歳の割には若いと言われている。
 私もそう思う。でも。思わず走ってしまった。

 だれかにぶつかって、私の手からバッグが落ちた。目を落とし、腰をかがめて拾おうとした。
 私のバッグのそばにソフトクリームが落ちていた。私の靴にもそのソフトクリームの一部がついている。
 私がぶつかったから、はずみで落としたのだろう。

「ごめんなさい。ソフトクリーム。落としてしまったわね」

 身をかがめたまま、そう言い、顔を上げた。

「いいえ」

 若い男の子だった。17歳? 18歳?
 私より6・7歳若い。
 ボブのようなおかっぱ。オフホワイトのTシャツにダメージジーンズ。
 美しい。まるで美少女のようだ。
 でも、この顔は…。

「こちらこそ。僕もぼんやりしてたから」

 彼はそう言って私のバッグを差し出した。

 いつの間に拾ったのだろう。
 彼のもう片方の手にはソフトクリームがあった。
 どこも崩れていない、今、買ったばかりのような…。

 思わず足元を見た。なにも無い。バッグもソフトクリームも。
 ソフトクリームが落ちていると思ったのは私の勘違いだったろうか。
 靴にはソフトクリームがついた跡も無い。

 立ち上がり、バッグを受け取った。
 もう一度「ごめんなさい」そう言って背を向けて、急ごうとした。
 でも…。
 振り返った。彼が見ている。
 やっぱり。よく似ている。「ケイさん…」でも、そんなはずはない。

 私がケイさんに会ったのはもう10年も前だ。私は中学の3年生だった。
 記憶喪失の、両性具有の、美しい人だった。父が拾ってきた。
 どこか母に似ていた。
 その時のケイさんに、今のこの若者は似ている。
 歳もそう、今の彼と、10年前のケイさんとは同じくらい。
 だから、この人はケイさんじゃない。

 でも、思わず近寄った。

「お願いがあります…」

 声がかすれた。

「あなたが違う事はわかっています。でも今だけ。
 お願いです。今だけ、身代わりになってください」

 不思議そうな顔をしながら、彼はうなずいた。
 私は一度大きく息を吸い、呼吸を整えて、言った。

「ありがとうございました」

 ていねいに頭を下げた。それから相手をしっかりと見た。
 おかっぱのような肩まで髪。細い、筋肉など無いと思えるほどに細い体。
 もっと少女のようだった事をのぞけば、なにもかもケイさんにそっくりだ。
 自分の想いがおかしな事はわかっている。でも、こうせずにはいられない。

「ケイさん。美香です。
 ありがとうございました。
 私達を助けてくれて。
 私を、父を助けてくれて、ありがとう」

 あらためて、そうだったのだと思う。
 彼女は、ケイさんは、私達を救うために、父の前に現れたのだ。

 彼が右手を伸ばして、指で私の目のふちの涙をふいた。
 それから言った。

「いいえ。ありがとうなんて。言う必要は無いわ。
 あなたにはしあわせになって欲しい。私はいつでもあなたのそばに居るわ。

 そして。…お父さんをお願いね」

 軽く頭をかたむけて、静かに笑う。その笑顔が胸に刺さった。
 私はもう一度頭を下げて、背を向けて、急ぐ。

『…お父さんをお願いね』

 私が父を、と言ったから。きっと、私の話に合わせてくれたのだ。
 でも。
 私よりも若い彼に、母を感じてしまった。母ならきっと同じ事を言っただろう、と思う。

『私はいつでもあなたのそばに居るわ』

 彼の笑顔は、母に、ケイさんに似ていた。その笑い方も、首を少し傾けるくせも。

 振り返った。もう一度…。
 ほんの数メートルのはずなのに、彼はもう見えなかった。

 観光客。日本人。外国人。家族連れ。お年寄り。
 歩くスピードも、関心も、まったく違う雑多な人々の群れ。

 大勢の人の中に居て、孤独を感じる時がある。自分だけが異質だと感じる。
 でも、私には母が居る。そしてケイさんが。いつでも、誰かが私を見ている。
 そう思うと胸の中が温かくなる…。
 泣きそうになって、涙を止めて、急ぎ足で歩いた。

 雷門の大きな提灯のそばに私を待つ父が見えてきた。

 …続く

 第2話はこちらからです。
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