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小説置き場(レイラの巣)コミュの子供の時間(2−1)

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 文字数約15500文字。
 主人公の年齢に合わせた文章にしてみたのですが、どうでしょう…。あせあせ

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 ママがぼくの手首をつかんで、バスルームに向かった時から、そんな事をするんじゃないかな、と思っていた。
 だから、そのままバスタブのぬるい水の中に、あたまからおしこまれても、やっぱりとしか思わなかった。ただ、ぼくはつい目をつぶってしまった。

 目を開けたら、ぼくの口からあわがのぼっていくのが見えた。
 ゆれる水の向こうだったから、ママの顔ははっきりと見えない。
 でも、きっとママはないている…。ぼくはそう思った。

 ぼくの首とかたはママの手がおさえていたから、ぼくは動けなかった。
 でも苦しくなって、思わず、ぼくはバスタブのヘリをつかんでいる手に力を入れた。

 そしたら、ママの手から力がぬけて、ぼくは水の中からおき上がった。
 目のはじで、ママがかみそりをつかんでかべのほうを向いてしゃがむのを見た。

 水をすいこんでいたから、ぼくはせきが出て動けなかった。

 バスルームのドアがいきおいよく開いて、パパが入ってきた。
 そして、何も言わずにぼくをひったくるようにしてだきしめた。

『ちがうよ、パパ! ぼくじゃない、ママだ』
 ぼくはそう言いたかったけれど、せきがひどくて声が出なかった。

 ママの右手が動いて、かみそりがママの手首を切った。
 ぼくはそれをパパのうでの中で見ていた。
 赤い血がバスルームのかべにとびちって、ママの心がこわれていくのを見ていた。

『ちがうよ。パパ。
 ぼくはだいじょうぶだよ。
 ママだよ。だきしめなきゃいけないのはママだ。
 どうして見えないの。
 ずうっと前からママはないているのに』

 ぼくはそう言いたかった。


 子供ってなんだろうね。
 パパやママが60さいになっても、ぼくが60さいになっても、ぼくはパパやママの子供だ。
 それに、ぼくはまだ10才で。小学4年生で。だから子供だよね。
 だけど、そういう事じゃなくて。
 ぼくはぼくの事を子供じゃないって、そんな気がする。

 ぼくはもう子供じゃない。
 パパやママや、つまり大人な人たち。
 そういう人たちとぼくがちがうのは、チシキとかケイケンとかだけだ。
 そう思う。
 そういう事、ぼくがパパやママよりぜんぜんすくないって事はわかってる。
 でも、やっぱりそういう事じゃなくて。
 パパやママとかわらないココロをぼくは持っている、って感じるんだ。
 ぼくはもう子供じゃないよ。

 だけど、そんな子供って大人はきらいだよね。
 だからぼくはパパやママや大人たちの前で、子供のふりをする。
 ニコニコわらってさ。なんにもわかってないってふりをする。

 それって変かな。子供なのに、子供のふりをするってさ。
 だけどさ、そのほうが楽なんだよ。
 ぼくがほんとは子供じゃないって事、見せないほうがいい。
 とくに大人たちの前ではね。

 パパやママはなんだろう。
 ほんとうは大人なのかな。子供なのかな。
 もしかしたらぼくと同じなのかな。
 パパたちは大人のふりをしているだけなのかなあ。

 なんでママはちゃんとパパにないてみせないんだろう。
 なんでパパはママがないているって事に気がつかないんだろう。
 なんでパパはあの時、父おやみたいな顔をして、ぼくをだきしめたんだろう。
 ほんとうはママをだきしめなきゃいけなかったのに。
 大人のくせにそんな事もわからなかったかな。

 パパはママの手からかみそりをひったくって、ママをぶった。
 パパもママも何も言わなかった。

 ぼくは10さいも、20さいも、30さいも、いっぺんに年をとりたかった。
 体が、だよ。そうしたら、なにか言えたかもしれない。パパやママに。
 それから、なにかできたかもしれない。
 なんでぼくの体は子供なんだろう。

 パパはきゅうきゅう車をよんで、ぼくとママとパパは病院に行った。
 でもパパはずうっと『なんでこんなめんどうな事になったんだろう…』って考えていたんだと思う。
 ぼくの事もママの事も見なかった。それになんにも言わなかった。

 ママは手首のキズをぬってもらった。
「ケガはたいした事は無い」とお医者さんは言った。
 でも、心のほうがね。
 お医者さんもパパも、病院にいるほうがいいと言った。
 ぼくもそう思う。

 ただ「良い病院をショウカイしますから…」とお医者さんが言って。
 パパとお医者さんは小さな声で話し始めた。
 ちかよって聞きたかったけれど、それはダメだ。
 きっと「子供はあっちに行ってなさい」と言われるだけだ。

 ちかよらないようにして、聞いてないふりをして、ぼくはふたりの話を聞いていた。
 ふたりの声は小さくて。でも、なにか聞こえないかなぁ。なにか大事な事。

「奥さんのゴジッカが近くなんですね」とお医者さんが言って、パパがうなずいた。

 ケータイを出して『ジッカ』ってケンサクをした。
 そうか。『ジッカ』ってママのお父さんとお母さんの家、つまりおじいちゃんちの事だ。
 パパはきっとおじいちゃんとおばあちゃんにママの事をたのむつもりなんだ。

 お医者さんがぼくのほうを見て「一晩入院をして様子を見て…」と言ったけれどぼくは「うちに帰る」って言いはった。
 なきまねだってできるけれどね。そこまではしなくてすんだ。
 パパはママの事も考えなきゃいけないからだろうな。
 すぐに「連れて帰ります」と言ってくれた。
 ぼくはこれからいそがしくなる。入院なんかしてられないよ。

 おじいちゃんちはぼくんちから自転車で10分ぐらいだ。
 何度もママと行った。だからひとりでも行ける。行かなくちゃ。

 よく朝、ぼくはパパに起こされて、パンと牛乳とつぶれためだまやきだけ、っていう朝ごはんを食べて、学校に行った。

「休んでもいいんだよ」とパパは言ったけれど、ぼくが「行く」って言ったら、パパはほっとした顔をした。
 ぼくが休んだら、パパは学校にウソをつかなきゃいけない。
 まさかね。ママがぼくをころそうとして、ジサツしようとしました、なんて言うわけにいかないしね。
 だから、ウソを考えなくてすんでパパはほっとしたんだ。

 それからパパは「ママの事はパパから伝えるから。それまで誰にも言うんじゃないよ」ってぼくに口どめをした。
 でも、パパがだれにも言う気なんかないって、ぼくにはわかった。

 パパってウソがヘタだよね。なんでも顔に出ちゃう。
 いつだったかママもわらいながらそう言っていた。


 休み時間に、しょうこう口のかいだんにすわって、校ていであそぶみんなを見ていた。
 うん。つくづく、あいつらはガキだねって思う。
 サッカーボールをおいかけて走りまわったりさ。わらったり。どなったり。まったくガキだ。
 でもね。
 もしかしたらぼくのように子供のふりをしているやつもまじっているのかもしれないな。
 もしいたら、話してみたいな。そう思う。


 学校がおわってうちに帰った。家にはだれもいない。ママは病院で、パパは仕事だ。
 ランドセルからキョウカショをぜんぶ出して、ランドセルのそこから、朝パパにもらったカギを出した。

 カギにひもをとおして首にかけながらママのつくえに行った。
 ママが子供の時に、おじいちゃんとおばあちゃんに買ってもらったつくえだって、むかし、ママが言っていた。
 そこでママは本をよんだり、てがみを書いたりしていた。

 いちばん上の小さなひきだしにはカギがかかっている。
 でも、カギのあるところは知ってるんだ。
 ママはいつもいちばん大きなひきだしから出していた。
 小さなカギで。カンタンなかたちだ。
 さがしたらあった。

 小さなひきだしの中のいちばん前にさがしていた紙のたばがあった。
 タクハイビンのハコからママがはがした紙だ。ママの名前やぼくんちの住所が書いてある。
 ふるいのからきちんとならべて、クリップでとめてあった。

 月よう日から金よう日までまい日、ぼくんちにとどいた。
 土ようと日ようはとどかなかったから、パパは気がつかなかった。
 小さなハコだけれど、同じハコじゃなかった。ちょっと大きかったり、ちょっと小さかったりした。
 たたんで、キッチンのすみにおいてあって、ゴミを出す日に無くなった。
 たたんだハコはまい日ふえていって、ゴミの日に、無くなる。
 ずうっと、ずうっとつづいていた。

 ママはキッチンのすみのハコのたばを、見ないようにしていた。
 まるでそこにはなにも無いみたいにしていた。

 紙のいちばんふるい日づけは3か月くらい前だ。でも、ハコがとどきはじめたのはもっと前からだった。ぼくが気がついたんだって4ヶ月ぐらい前だ。
『受取人』ってところにはママの名前が書いてあって、『送り主』ってところにもママの名前だった。
 でもそんなのへんだよね。字だってママの字じゃないしさ。

「なんなの?」ってぼくがきいたら「さあね」ってママが言った。

 タナからカラになったおかしのハコを取ってきて、中に紙のたばを入れた。
 ハコをママのツクエのはじに置いて、ツクエの上にあったママの本をその上に置いた。
 かくしているみたいに見えるように。
 でも、パパがさがしに来たら、すぐにみつかるように、ね。


 3日後、ママはシンリョウナイカにテンインをしたってパパが言った。
 またケンサクだ。
 テンインは病院をかわる事。
 シンリョウナイカは心療内科。心の病気をみる病院。
 …そうか…ママは心の病気で入院だ。

 会社でいそがしいパパはママの事なんかなんにもしない。
 テツヅキは、きっとおじいちゃんとおばあちゃんがしたんだ。
 ママのいるところは、おじいちゃんちに行けばわかるだろう。

 パパはおじいちゃんとおばあちゃんにどこまで話したんだろう。
 きっとパパは話したんだ。ママがぼくをころそうとしたって事。
 だから、おじいちゃんとおばあちゃんは、ぼくをむかえにこないんだ。


 ママが入院をしてさいしょの土よう日に、バッグにぼくの服やパパの服や、いろいろつめこんで、パパはぼくを車にのせた。
 そしてぼくを女の人の家につれて行った。

 車で5分ぐらいかな。
 あるく時間は少し長くなるけれど。
 よかった。今の学校にかよえるみたいだ。


 マンションの10かい。
 げんかんで「今日からここがお前とパパの家だよ」ってパパが言った。

 女の人はなんにも言わないでぼくらをじろじろと見ていた。
 パパはその女の人に向かって「しばらくだよ。しばらく。ちゃんとしたら、あっちにみんなで行くから。頼むよ。今すぐはまずいだろう」って言って。
 ようやく女の人は少しわらった。

「大谷 裕子(おおや ゆうこ)さんだ」とパパがぼくを見ながら言った。
「で、こいつが息子の武(たけし)」

 ぼくが「おばさんが…」って言いそうになったら

「裕子さん、てよんで。おばさんっていいかたはキライよ」ってめいれいするみたいに言った。

 ぼくは『おばさんはおばさんだよ』って思った。

 ぼくが聞きたかったのは「おばさんがパパのウワキあいて?」って事。
『裕子さん、てよんで』なんて言われたから聞くのをやめた。
 おばさんは『ガキとなかよくする気は無いわよ』って言ってるんだ。
 だから、おばさんとはなす時は子供のふりをする事にした。

 でもさ。
 パパが言った「あっち」って、きっとぼくんちの事だよね。パパとママとぼくのうち。
 でも「みんなで行く」ってきっとママとじゃなくて、このおばさんと、って事だろうね。
 それから「ちゃんとしたら」ってなんだろう。

 おひるごはんと夕ごはんはおばさんが作った。
 パパが作ったごはんとあんまり変わらなかった。
 買って来たみたいなおかずや、やいただけのおにくとかだ。

 どうやらパパはとつぜん来たみたいで。
 おばさんはあんまりぼくの事をよく思ってない。
 ぼくと口もきかないし、わらわない。
 パパは気がついているのに気がついてないふりをしている。

 パパはうれしそうに、にこにこしながらおばさんに話しかけてる。
 ぼくはマンガの本を読んでいるふりをしながら、聞いてたんだけど。
 小さな声だからよくわからなかった。ときどきママの名前が聞こえた。

 だけど本当にパパって自分の事しか見えてないんだよね。
 こんなふうにひっこしをしたらきんじょのおばさんたちがなんて言うかな。
 ママのジサツミスイだって入院だって、とっくにおばさんたちは知っていると思う。
 おばさんのネットワークはすごいんだよ。


 よく日は日よう日だ。でも、おばさんが起こしにきた。
 そしておばさんが作った朝ごはんを3人で食べた。

 食べながらぼくはパパに「勇作君ちに行く」って言った。
 おじいちゃんちに行くって言ったら、きっとダメって言われると思ったからね。

「勇作のお兄ちゃんがね。ドラクエを買ったんだってさ。ぼくにもやらせてくれるかもしれないんだ」
 ぼくは目をキラキラさせながら言った。目をキラキラさせるぐらい、いつだってできる。

「おひるごはんはいらない。勇作君とこで食べるから」
「ああ。わかった」って、パパはぼくのほうを見ないでへんじした。

 それからパパは会社に行った。
 キュウジツシュッキンって言うんだって。
 ぼくもおばさんちを出た。
「いってきま〜す」って言っちゃったけど、へんじは聞こえなかった。

 ケータイの地図を見ながら、おばさんちとおじいちゃんちをかくにんした。
 ぼくんちとおばさんちは学校をはさんではんたいがわだった。
 あるいたらけっこうある。でもはじめにうちに行った。

 じてんしゃはぜったいにひつようだから。
 で、じてんしゃにのって、おじいちゃんちに行った。

 ぼくがおじいちゃんちのげんかんで「ごめんくださ〜い」って言ったらおばあちゃんがおどろいたかおをして出てきた。

 ぼくは「パパにないしょで来たんだ。だからヒミツだよ」ってニコニコしながら言った。
 おばあちゃんはこまったような顔をしておじいちゃんのほうを見た。

「まあ、いい。上がりなさい…」とおじいちゃんが言ったから、おばあちゃんはニコニコしながらぼくがぬいだくつを直した。

 おじいちゃんのショウギにつきあって、負けた。
 ぼくはふてくされたふりをして、たたみの上でゴロゴロところがった。

「つまんないなぁ。つまんないなぁ。
 そうだ。おじいちゃん。また、つりにつれてってよ」

 おじいちゃんにせなかをむけたまま言った。それからため息をついてみせた。
 エンギってばれたってかまわない。まごがあまえているんだよ。エンギでいいんだ。

 おばあちゃんがおじいちゃんに声をかけた。

「それがいいわ。ね。ね。おじいさん。
 それぐらいだったら、直行(なおゆき)さんだって…」

 なおゆきさん、ってパパの名前だ。
 やっぱりパパはママがした事をおじいちゃんたちに話したんだ。
 だからおじいちゃんもおばあちゃんも気をつかってるんだ。

「竿はどこだったかしらね。ねえ、おじいさん」
 そう言っておばあちゃんが立ち上がろうとしたからおじいちゃんがとめた。

「ああ、いい。物置だ。俺が見てくる」
 そう言って、おじいちゃんは出て行った。
 さて、おじいちゃんはいなくなったから、次はおばあちゃんだ。

「そうだ。おばあちゃん。お昼ごはんここで食べていい?
 お昼ごはんはいらないって言ってきたんだ。
 ねえ、いいでしょ?
 ぼく、さといもが食べたい。おばあちゃんのさといも、ぼく、大すきだ」

「あら。困ったね。里芋は買い置きが無くて…」

 ちょうど良かった。
「やだやだ。ぼく、さといもがいい」

「はいはい。武ちゃん。
 じゃあ、ちょっと買ってきましょうかね。
 お肉も無かったから…ついでに…」

「ブタにくがいいな。ぼく、ブタにくがすきだ」

「はいはい。武ちゃん。お留守番をお願いね」

 表でおじいちゃんと話しているおばあちゃんの声がする。

「おじいちゃん、ちょっと行ってきますから、後は……」

「ああ…」

 その声を聞きながら、ぼくはオブツダンにむかった。
 オブツダンのひきだしだ。だいたいおばあちゃんはそこにしまう。
 あけたらあった。『入院の手引き』ってパンフレット。
『説明』ってところに『心療内科』ってあったし、ママはきっとここだ。
 ケータイでしゃしんをとった。病院の名前や住所。ほかにもいろいろ。
 あとでケンサクする。

 お昼ごはんを食べてすぐにおじいちゃんちを出た。
 でも、その前にらいしゅうの日よう日にはおじいちゃんとつりに行く事になった。ヨテイガイ。

 おばあちゃんが「そのくらいいいでしょ。ね。直行さんには私から電話しますから」っておじいちゃんに言って、きまった。
 ママにころされかけたまごだからね。ぼくは。
 おじいちゃんもおばあちゃんも、ぼくにはとってもやさしい。
 それがなんだかくやしい。

 オブツダンには「入院の手引き」のほかにフウトウに入ったうすい紙があった。
 その紙には「離婚届」って書いてあった。

 離婚届はリコントドケって読む。意味もケンサクで調べた。
 きっとパパだ。パパがおじいちゃんとおばあちゃんにわたしたんだ。
 パパはママとリコンするつもりなんだ。

 おじいちゃんやおばあちゃんは、パパに女がいるって知ってるのかな?
 今、ぼくとパパがその女の人のところにいるって知ってるのかな?
 きっと知らないね。

『だいじょうぶだよ。おじいちゃん。おばあちゃん。
 きっとうまくいく。ぼくがうまくやる
 やらなくちゃ』

 ママの入院している病院は、となりのえきの近くだった。
 自転車で1時間ぐらいかかった。

 入り口で「めんかいに来ました」って言ったらふとったおばちゃんが出てきて、近くの長いすのところにぼくをつれて行った。

「あのね。
 あなたのママはね。心が疲れちゃってて。今、お休みをしているところなの。
 だから、今は誰にも会えないのよ。
 ごめんなさいね」

 うそくさいほどやさしい声でおばちゃんが言った。

「ママはぼくの事がすきなんだよ。
 だからね。ママは、ぼくに会ったらよろこぶよ。きっと、げんきになるよ。
 ねえねえ、会わせてよ」

 せいいっぱい子供っぽく言ってみた。ママが大好きな子っぽくね。
 そしたら急につめたい目になって「規則ですから。だめなんです」って。
 やっぱりね。クソババア。

 まあいいけどさ。
 クソババアと話している間に、すみっこのかべに病院の地図をみつけた。
 すなおに出て行くふりをして、その地図をケータイでとった。

 おじいちゃんちで見つけた「入院の手引き」のすみに「第2病棟412」ってメモしてあった。
 きっとママのへやの番号だよ。
 さっきとった病院の地図を見て、ママのへやをさがした。

 わりにかいだんに近い。4かい。4かいならかいだんで行ける。
 カクリとか立ち入りキンシのかいじゃないみたいだ。
 カクリは隔離。『ほかのものから引きはなして、べつにする事』だって。
 ママはカクリされてないって事だ。だから、行けばきっと会えるだろう。

 げんかんじゃなくて横の小さな入り口からなら、げんかんにいるさっきのおばちゃんたちにみつからずにかいだんまで行けそうだ。

 いったん外に出て、ぐるっと回って、小さな入り口の前に行った。
『通用口』って書いてあった。これはツウヨウグチって読む。病院の人の出入り口って事みたいだ。
 ドアを開けようとしたら開かない。
 そうか。中からはふつうに開けて出て行った人がいたけどね。外からは開かないのか。

 かんがえていたら、中から女の人が出てきた。開けたドアがぼくにぶつかりそうになって、おどろいていた
 ぼくはぼうしをぬいで、女の人が「どうも」って言って、すれちがった。
 女の人は、すぐにぼくの事をわすれたみたいに、歩いていった。
 だからぼくは手をのばして、とじかけたドアにぼうしをはさんだ。

 しばらくそのまま歩いてふり返ったら、女の人はかどをまがって見えなくなった。
 ぼくはドアのところにもどった。ぼうしはドアにはさまったままだ。
 ゆっくりドアを開けたら、こんどは開いた。

 そうっと中に入った。右にまがったらすぐにかいだんだ。
 かいだんの上からお医者さんがきるような白いふくをきた男の人がおりて来た。
 ぼくはふつうな顔をしてのぼって行った。
 もんくを言われるのはきっと入り口だけだと思っていた。
 そのとおりだった。男の人はぼくの事なんか見てなかった。

「ダイ2ビョウトウの412バンのヘヤ。ダイ2ビョウトウの412バンのヘヤ」
 ケータイでとった地図を見ながら歩いた。ママのへやはすぐに見つかった。

 入り口は開いていて、半分カーテンがかかっていた。
 ぼくはカーテンをそっと開けて中をのぞいた。
 いちばん近くのベッドにねていた人がこっちをむいた。
 ママだった。ぼくの顔を見て、ママはおどろいた顔をした。

「ママ、大きなこえを出さないで!
 ないしょで来たんだよ。だから…」

 でも、ママは後ろをむいてふとんをかぶって、そして大きな声でなきはじめた。
「ごめんなさいっ。ごめんなさいっ」なんどもそう言ってないた。

「ちがうよ、ママ!
 ママが手をはなしたから、だからぼくは死ななかったんだよ。
 ママがぼくをたすけてくれたんだよ」

 ぼくはふとんをひっぱって、ママが見えるようにした。

「ぼく、ありがとうって言いにきたんだ。
 それからママがすきだよって。
 ママもでしょ? ママもぼくの事、すきでしょ!」

 ママはぼくを見ないでないている。

「わすれないで、ママはぼくをころさなかったんだ
 今でもぼくはママがすきなんだよ」

 だれかが知らせたんだろう。
 さっきのふとったおばちゃんが走って来て、ぼくをへやからおし出そうとした。
 クソババア。

「すきだよ。ママ。
 きいて。おねがい。
 ぼくはママがすきだよ!
 ぼくをたすけて!」

 …つづく

 子供の時間(2−2)はこちらから↓
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