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小児風邪対策研究会コミュの我が国のインフルエンザ診療への危惧(前半)

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インフルエンザと漱石の周辺

インフルエンザとパンデミック

インフルエンザの世界的大流行はパンデミックと呼ばれ、A型インフルエンザウイルスによって引き起こされます。A型ウイルスの宿主への感染には、ウイルス表面に存在する複数の糖蛋白、すなわち、宿主細胞膜のシアル酸の認識と結合(吸着)に関与するヘムアグルチニン(HA)、宿主細胞質内への侵入(脱殻)に関与する膜貫通型イオンチャンネルM2、及び、宿主細胞膜に出芽したウイルスとシアル酸との結合の切断(遊離)に関与する酵素蛋白ノイラミニダーゼ(NA)などが重要です。特に、HAやNA内の遺伝子配列や、HAと NAの亜型の組み合わせが、ブタの体内におけるヒト、トリ、ブタ由来のウイルス間の遺伝子交雑を経て、ヒトが経験したことのないパターンに大きく変異(major shift)し、ヒトに対する感染力や病原性が高まるとパンデミックに発展します。パンデミックとパンデミックの間はHA内で小さな変異(minor shift)を遂げたウイルスよって季節性インフルエンザが流行します。

過去最大のパンデミックとなったスペインかぜ(1918-1920年)では、本邦でも2300万人が罹患、39万人が死亡しました(内務省統計)。15〜35歳の年齢層でウイルス性肺炎や二次性細菌性肺炎による死亡が目立ちました。その後も、アジアかぜ(1957-1958年)、香港かぜ(1968-1969年)、ソ連かぜ(1977-1978年)とパンデミックが出現しましたが、以後は、季節性インフルエンザの流行が繰り返されました。

しかし、2009(平成21)年、人類は30年振りに北米に端を発した新型インフルエンザ(ブタ由来インフルエンザA型(H1N1))によるパンデミックを経験しました。とりわけ、新型インフルエンザウイルス表面のHA先端構造は、同じH1N1タイプのスペインかぜウイルスや、1940年代前半に流行したH1N1タイプの季節性インフルエンザウイルスと酷似していました。このため、少なくとも60歳以上の年代では新型ウイルスに対して既存免疫が存在していたと考えられます。本邦でも、流行地への渡航者の散発的発症を契機に、既存免疫のない小児や10代未成年を中心に、2009(平成21)年初秋から国内流行が本格的に拡大し、11月下旬をピークとしたパンデミック第一波が認められました。幸い、ウイルス自体は高病原性ではありませんでしたが、ワクチンの供給不足、不均等な配給、接種優先順位の複雑な設定などが不安を煽ったことは否めません。その後も流行を繰り返しましたが、次第に「新型インフルエンザ等感染症」としての特性が認められなくなったため、パンデミックインフルエンザ(H1N1)2009と命名され、2011(平成23)年4月以降、季節性インフルエンザとして取扱われることになりました。

インフルエンザと三四郎

夏目漱石が生きた時代(1867(慶応3)年−1916(大正5)年)では、1889(明治22) 年−1891(明治24)年にH2N2亜型による、また1900(明治33)年にH3N8亜型によるパンデミックがそれぞれありました。その間、季節性インフルエンザも流行していました。1908年(明治41年)に発表された新聞小説「三四郎」の終盤の第十二回にインフルエンザが登場します。その概略は次の通りです。年の瀬も近い寒い夜、演芸会を見物して下宿に戻った帝国大学学生、小川三四郎は、翌朝から発熱し、頭が重くなり、学校を休んで寝ます。起きて昼食を食べて眠ると発汗して気がうとくなり、酔った気分になります。見舞いに来た学友の与次郎との会話中にも体温が上昇し、不覚にも寝込みます。その晩、与次郎が往診の手続きをしていた医者からインフルエンザと診断され、頓服を飲んで寝ます。翌朝、頭は軽くなり、寝ていれば常体に近くなりますが、枕を離れるとふらふらしました。三四郎は、飯も食わずに、仰向けに天井をながめ、寝たり覚めたりするうち、自然に従う一種の快感を得て4−5日で軽快しました。

漱石が描いたインフルエンザの検証

三四郎の病状の記載はインフルエンザとして極めて妥当です。漱石も、学生時代と後述の英国留学中に、パンデミックに遭遇し、その恐ろしさは充分に心得ていました。三四郎のインフルエンザは、比較的速やかに軽快しているので、パンデミックではなく、季節性インフルエンザが想定されていたと思われます。冬とは言え、暖房が効き過ぎて乾燥していた上に、飛沫感染の危険性が極めて高い換気の悪い閉鎖空間で長時間過ごした後、雨も降り出した寒空の下、いきなり、体を冷やしながら下宿に辿り着いて、半日後の発病はインフルエンザとして合理的な潜伏期間です。増殖速度の凄まじいインフルエンザウイルスの駆逐には、くしゃみ・鼻水・咳は有効ではなく、主として、IL(インターロイキン)-1と呼ばれる生理活性物質などを介して、初めから体温上昇(発熱)で、ウイルス増殖を抑制する必要があり、初発症状が発熱であった点も合致します。

冷えた外気に暴露して鼻副鼻腔炎を併発して前額部中心に頭重感も生じています。鼻副鼻腔の機能低下により、加温加湿の不十分な外気が気道を直撃して感染を助長しました。学校を休んで寝たのは正しい判断です。IL-1には体温上昇作用以外にも、嚥下されて来るウイルスと戦う胃の負担を軽減するための食欲低下作用や体力消耗を防ぐための睡眠誘導作用があります。

従って、IL-1の働きに逆らう昼食摂取は無鉄砲でした。ウイルスは、気道または消化管に侵攻しますが、生命の維持に必須のガス交換を担う気道は無菌環境に保たれ、病原体や異物は上皮線毛運動や咳や痰で迅速に厳重に追い出されるので、下気道感染に至る頻度はむしろ稀です。三四郎にも気道症状は認められず、ウイルスは主に消化管に侵攻していました。

午前の睡眠中は胃液でウイルスを処理できましたが、昼食で胃液が薄まって処理能力が低下したため、腸へのウイルスの侵入が促進されました。さらに鼻副鼻腔にはウイルス含有分泌物が蓄積しますが、これが、常時、後鼻漏として咽頭腔へ流れ落ちて食道へも嚥下されます。この時、同時に相当量の空気も飲み込まれるため(エアロファギア)、腸管内にガスが溜まり、次第に腹満を生じます。結果、腸管内に増えたウイルスを追い出すのに重要な蠕動運動が阻害され、便秘に傾きます。三四郎が昼食後に眠ったのは、食事に伴い、また、後鼻漏と空気の嚥下により拡張した腸管内にウイルスが蓄積して、IL-1による体温上昇作用、食欲低下作用、睡眠誘導作用が緊急発動されたためです。

発熱でウイルス増殖が抑えられると、発汗して体温は下降しますが、発汗による水分や塩分の喪失により、さらに脱水に傾いて気が疎くなりました。酔った気分とはブドウ糖摂取不足に対する飢餓反応として血中にケトン体が増えた兆候です。脱水防止のため、大腸での水分回収がさらに進行して便の硬度が増して便秘は増強します。ウイルスは腸管内を中心に増え続け、またも、IL-1による体温上昇作用、食欲低下作用、睡眠誘導作用が出現し、三四郎は、与次郎との会話の最中にも関わらず、強い眠気に襲われて夕方まで入眠しました。

三四郎は、往診した若い医者を代診医と判断していますが、同感です。診察内容は曖昧な記載ですが、どうも怪しく、僅か五分程度の診察の後、病名告知と頓服処方という対症療法に終始し、肝心の病態の解釈と説明が不十分です。気道症状のない発熱では、必ず、腹満の有無や下向結腸の便性を確認した上、食事は控え、小まめな水分糖分電解質補給で脱水を予防しながら、何度も厠に行くように念を入れて指示すべきでした。頓服の解熱作用は、体を楽にする一方で、発熱のために増殖を抑制されていたウイルスを増やして、反って病勢を促進する危険のある諸刃の剣で、安易に処方すべきものではありません。

三四郎は、感染免疫学的には、朝目覚めたら、先ず水分を補給して厠に登り、作者漱石に倣って、西大寺公望公からの招待であろうと断るくらいの決意で踏ん張るべきでした。昼食は避け、栄養確保ではなく、水分補給を継続して脱水の予防に努め、再度、厠に篭るのが妥当でした。遅まきながら3日目は食事を控えて安眠を繰り返しながら回復に向かいましたが、もし、これがパンデミックであれば、三四郎は、罹病率も重症化リスクも高い年齢でしたから、腸管からのウイルス排泄遅延や頓服によるウイルス増殖促進作用が相まって、過剰な免疫反応が引き起こされ、一次性肺炎や後鼻漏誤嚥による二次性細菌性肺炎を併発して、主人公継続も危ぶまれるところでした。病み上がりは、異化作用による筋肉量の減少でフラフラしていますが、二日間寝込むと元の筋肉量の完全回復には二年かかります。

漱石の巧妙な筆勢は、三四郎のインフルエンザの病勢を一旦は強め、その後、インフルエンザに対する対処術を会得させて「飯も食わずに、仰向けに天井をながめ、寝たり覚めたりするうち、自然に従う一種の快感を得て」回復させ、主人公としての役回りを継続させました。

三四郎は、それまでも、折に触れて里見美禰子の自分に対する気持ちを確かめようとしてきましたが、場合によっては命に関わるインフルエンザの極期にあっても猶、謎めいた曖昧な態度で三四郎を翻弄してきた美禰子のことが気にかかって落ち着かず、与次郎に頼んで、病気に託け、見舞いに寄越してもらう算段を巡らし、病み上がりの頃、遣って来た野々宮よし子の口から美禰子の成り行きを確かめようとさえします。田舎育ちの三四郎の前に現れた都会育ちの美禰子を巡って混乱した青春真っ只中の三四郎の頭はインフルエンザでも冷めませんでしたが、小説終盤に当たって、もやもやした三四郎の心中を際立たせています。結局、美禰子の結婚が現実であることを思い知らされましたが、三四郎がそのまま受け止めて、美禰子を諦められるのか、あるいは、美禰子への思いを引き摺ることになるのか、漱石は、三四郎の『それから』の行方に含みを持たせました。

インフルエンザと免疫

三四郎も罹患したインフルエンザの治癒とは、感染免疫学的には、抗体やリンパ球によるウイルス及びウイルス感染細胞の完全排除を意味します。特に感染細胞処理には自分自身の細胞の処分、すなわち、自己犠牲を伴います。インフルエンザウイルスだけが都合良く排除されているのでは決してありません。病み上がりの気だるさなどは傷ついた体の復旧過程を反映した兆候です。

免疫には病原体の種類の如何に関わらず働く非特異免疫と特定の病原体だけに働く特異免疫があります。広義の非特異免疫は、あらゆる病原体の侵入を食い止め、侵入した病原体は追い出す反応です。すなわち、一般に風邪症状と呼ばれている反応が該当し、気道の局所症状としては、くしゃみ、鼻水、咳であり、消化管の局所症状としては、嘔吐、下痢です。これらは一刻も早く止めたい症状ですが、実際は、病原体の侵入を防いだり、追い出すのに極めて重要な非特異免疫反応です。

病原体の侵入が著しいか、追い出しが遅れた場合、体内で病原体が過剰に増えないように現れる症状が、もう一つの重要な非特異免疫反応である体温上昇、すなわち、発熱です。原則として、気道粘膜や消化管粘膜など空気と接触している部位に感染が限局している間は、それぞれの場所の局所症状に留まりますが、病原体が粘膜下組織を突破して増殖し、さらに血液へ侵入しようとすると、それを阻止すべく、IL-1などを主体とした生理活性物の産生によって出現するのが発熱という全身症状です。したがって、インフルエンザウイルスのように増殖速度が激しい場合は初発症状として発熱が多く認められます。

しかし、これらの非特異免疫だけで治癒に向かうことは困難で、さらにインフルエンザウイルスに特異的に働く免疫が必要になります。この特異免疫には、細胞に感染していない血液中もしくは間質中のウイルスを処理する抗体(液性免疫)と細胞内に感染して抗体だけでは処理できなくなったウイルスを感染細胞ごと処理する細胞障害性Tリンパ球(細胞性免疫)があります。

感染成立後は、非特異免疫で応戦すると同時に、抗原提示細胞と呼ばれる免疫担当細胞が粘膜下に侵入したウイルスを貪食処理し、ウイルスが感染力や病原性を発揮するのに重要な構造部分(感染防御抗原)を切り出して、それを細胞表面に提示します。次いで、ヘルパーTリンパ球が、抗原提示細胞によって提示されたウイルス抗原情報を受けて、それぞれ、抗体を産生するBリンパ球や、細胞障害性Tリンパ球の産生を促進するTリンパ球に伝達し、特異免疫担当細胞への分化を促進します。特異免疫が成立すると、抗体や細胞障害性Tリンパ球が血液中やウイルス感染局所へ派遣され、ウイルスならびにウイルス感染細胞を迅速に処理して感染を終息させます。このようにインフルエンザなどの感染症が終息するには非特異免疫と特異免疫の連携が不可欠です。

風邪症状(広義の非特異免疫)の役割は、その成立に時間を要する特異免疫が確立するまでの時間稼ぎをして、特異免疫を以って処理しなければならないウイルス及びウイルス感染細胞を極力少なくすることにあります。特に全身反応である発熱には病原体の増殖を抑制すると共に、特異免疫の成立を促進する働きがあります。

ワクチン(予防接種)は、まさしく、この特異免疫を事前に獲得して、該当疾患の発病を免れる、または、軽症化を計る予防対策です。現行の不活化インフルエンザワクチンは、ウイルスがヒトに感染する第一段階の吸着において重要な役割を担うHA糖タンパクに対する特異的中和抗体(液性免疫)を血液中に誘導します。しかし、ウイルス感染細胞を処理する細胞障害性Tリンパ球は誘導できないため、一旦、抗体の到達出来ない上皮細胞内にウイルスが感染してしまうと、もはや排除はできず、発病を免れません。抗体が有効に働くのは、細胞内で増殖したウイルスが細胞外に遊離してフリーウイルスとして間質に存在する時、さらに血液中に侵入した時です。すなわち、現行の不活化インフルエンザワクチンは発病阻止が本来の目的ではなく、重症化阻止が本来の目的です。インフルエンザに限らず、あらゆる風邪の重症度は、非特異免疫と特異免疫、及び、それを支える生活習慣で決まります。

何百種類もある風邪ウイルスと戦うたびに、最前線の気道や消化管の粘膜細胞は、個体の生命を守るために犠牲を強いられます。気道粘膜には異物除去作用を担う線毛上皮細胞や粘液分泌細胞などが存在しますが、冷気乾気の吸入で、その機能は低下し、三四郎の如く、鼻副鼻腔炎を併発して、病原体の蓄積、感染増殖を促進します。とりわけ、鼻副鼻腔炎が増強すると、後鼻漏を介して下気道や消化管へのウイルス侵攻リスクが上昇します。下気道では、ウイルス肺炎や2次性細菌性肺炎の合併頻度が高まり、消化管粘膜細胞よりも回復速度の遅い気道粘膜細胞が広範に傷害されれば、呼吸困難から低酸素血症に進展して生命予後を不良にします。特に秋冬などの低温乾燥時は、出来るだけ、日常的に蒸タオル等で口からも鼻からも温かい湿気のある空気を吸入することが重要です。

消化管粘膜も回復は早いとは云え、後鼻漏と共に空気が嚥下されて腹満や便秘に陥ると、病原体の消化管への負荷量が増加して、感染を受けた夥しい量の消化管粘膜組織が犠牲を強いられ、その機能は長期間低下します。病み上がりに消化の良い食べ物が勧められるのもこのためです。三四郎も、4−5日くらいは、お腹に力が入らず、しゃんとしませんでした。さらに消化管機能の保全には、睡眠や安静が大切です。特に睡眠中は副交感神経優位となって、腸の蠕動運動が活発となり、胃液で処理できずに腸に侵入してきた病原体を活発に肛門側に送り出します。さらに朝目覚めて朝食を取ることで、胃結腸反射が誘導されて排便に至ります。快眠、快食、快便、この一連の流れこそ、日常的に消化管に侵入してくる病原体を、発病することなく追い出す基本的メカニズムです。

従って、いざ風邪を引いたら、栄養はさて置き、水分糖分電解質を確保して脱水を予防しながら、安静・安眠を旨とし、気道や消化管から可及的にウイルスを追い出すことが大切です。感染防御の基本は、病原体の侵入を最小限に止めて排泄は最大限にし、体内への病原体負荷を極力少なくすること、すなわち、自然治癒力を最大限にし、自己犠牲を最小限に止めることに尽きます。

インフルエンザと診療

現在のインフルエンザ診療は、適切な問診や診察と充分な病態解釈を怠って自然治癒力を疎かにし、残念ながら、迅速診断検査を偏重して力尽くの抗ウイルス剤治療に陥っています。

診断と病態把握に関わる診察で、とりわけ大切なのは腹部所見の確認です。インフルエンザに限らず、あらゆる病原体は最終的に嚥下されて胃腸に侵入して来ます。当然、病原体を追い出す防御反応は、嘔吐あるいは下痢になります。しかし、嘔吐ばかりを繰り返してしまうと、高熱と共に、体から急速に水分が奪われるため、脱水に陥ります。したがって、より安全な病原体の追い出し方は下痢になります。下痢で喪失する水分を少量ずつ頻回に補給して水分バランスの帳尻を合わせながら下すことが最も適切です。

ところが、既述のように、普段から、鼻副鼻腔炎が存在すると、後鼻漏と共に、空気の誤嚥の反復により、腹満が生じ、結果として便秘を引き起こし、消化管に大量の病原体を停滞させて、過剰な発熱反応、あるいは、下痢出来ない反動としての過剰な嘔吐を誘発します。鼻副鼻腔炎は、耳鼻科で診断する疾患と思われ勝ちですが、違います。鼻副鼻腔炎に関連した機能的異常が最も現れやすいのは消化管です。その意味で、三四郎を往診した医師が腹部所見を充分に把握していなかったのは最大の問題でしたが、現在もこの傾向は変わりません。

治療も、漱石の時代は、今日のような抗インフルエンザウイルス剤は存在せず、体に備わった自然治癒力のみが頼りで、三四郎も主として発熱でインフルエンザを乗り切りました。現在、感染細胞内で増殖したインフルエンザウイルスがその感染細胞から遊離する時に必須となるノイラミニダーゼという酵素蛋白を阻害する薬剤が主として使用されています。さらにウイルス遺伝子が細胞内で増殖するのに必要なウイルスRNAポリメラーゼという酵素を阻害してウイルス増殖を阻止する薬剤も開発されています。しかし、いづれにしても、抗ウイルス剤で処理できるウイルス量は全負荷量の1/10程度に過ぎず、鼻副鼻腔炎や便秘で体内のウイルス負荷量を異常に増やすと、いかなる抗ウイルス剤の効果も半減します。また、薬剤耐性ウイルスも誘導します。自然治癒力が主役であることを忘れ、自然治癒力を最大限に生かす努力を怠り、本来は脇役であるべき抗ウイルス剤に頼り切るのは本末転倒です。

また、最近、全身療法の内服薬に加えて局所療法の吸入製剤も登場しましたが、経口吸入であることには疑問があります。経鼻吸入であればウイルスが主として感染増殖する鼻腔や上咽頭に直接噴霧できて、さらに解剖学的にも下気道に効率良く噴霧されます。しかし、経口吸入では肝心の鼻腔や上咽頭をパスして、主として下気道に噴霧されます。ところが、インフルエンザウイルスの感染には、HAが膜癒合活性を獲得するために、宿主側のプロテアーゼによってHA1とHA2に開裂活性化される必要がありますが、下気道は原則として無菌であり、少なくとも細菌性プロテアーゼは供給されないので、上気道に比べれば、感染は成立しにくいと考えられます。主たるウイルス感染増殖部位である鼻腔や上咽頭へ狙いを定めた局所療法であるべきはずが、どうして、このような不適当なデリバリーシステムなのか理解しかねます。

特に、吸入製剤については簡便さだけが強調されているのも間違いです。全身療法が適切か、局所療法が適切か、これは病態を把握して決定すべきことです。単に簡便だからという理由で安易に経口吸入製剤を希望されて無効であった事例は何例も経験しました。例外なく顕著な便秘がその原因で、そもそも全身療法の適応でした。医師も、腹部所見を的確に把握せずに、吸入製剤を処方しているのは極めて遺憾です。一口にインフルエンザと言っても、体の主として何処でウイルスが最も増えているのかという病態は一人一人違い、経過時間によっても異なります。的確な診察で、その病態を把握して初めて、適切な治療薬が選択できます。

インフルエンザ迅速診断検査も、年々感度や特異性が向上していますが、それでも、あくまで一定量のウイルス量がなければ反応しません。インフルエンザ病初期の発熱は、ウイルスと気道や消化管粘膜との接触を契機に、感染防御機能として生体側の粘膜上皮細胞や血管内皮細胞が産生したIL-1等の生理活性物質の体温上昇作用によるもので、感染したウイルス量を反映したものではなく、いきなり重症化しているわけでもありません。すなわち、ウイルス量自体は検出感度以下のことが多く、迅速診断検査としては陰性になります。従って、逆に、この時期の迅速診断検査陰性はインフルエンザを否定する根拠にはなりません。病初期の診断は、従来通り、インフルエンザ患者との接触歴、特に、家族内感染の有無や、三四郎のように、閉鎖した換気の良くない環境で長時間過ごしたかどうか、など、問診内容が大切な診断根拠になります。ところが、抗ウイルス剤は発症後48時間以内でないと効かないという誤解を招きかねない情報が流布され、信頼度の極めて低い時間帯の迅速診断検査が後を絶ちません。感染を終息させる主役たる体に備わった免疫機構を疎かにし、脇役たる抗ウイルス剤を一刻も早く使用しなければ治らないかのごとき混乱を招くインフルエンザ医療の弊害がここにも見受けられます。

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