Bitter ＆ happinessコミュの２－家族－

『ただいま～。ユキ～？帰ってるの？』
…
…
あっ！！
現実に戻された…。そうだ、私はユキなんだっけ…。

『お母さん、マユ、お帰りなさーい！！』
今、手が話せないのー。と付け加えたくなるような大声で返事をしてみた。

＜こんにちは、モモコさん。そういえば、最近また六本木に新しいチョコレートショップが建ちましたね！来週の日曜、私行ってみようと思ってます♪＞

＜この前、ハート型を買ったので自宅でフォンダンショコラを作ってみたよ。
やっぱり、プロみたいにはいかないね。娘にも『美味しくない！！』って言われてしまった。トホホ…(-.-;)＞

＜モモコ、今度の土曜日、暇(゜▽゜)？私、行きたぃ所あるんだァ～(^O^)なんだっけ？あのテレビに出てたシェフがいるお店の名前??(゜Q。)??食べたいのー！！！夢に出てきそぅだよぉ～(*_*)＞

端から見たらチョコレート馬鹿の集まりみたいだけど、私にはとても居心地のいい場所。学校から帰ってきたらまずチェックはかかさない。

メッセージの分だけレスを返して、私はおやつ＝チョコを求めて居間へ降りた。

マユは私とは歳が１３つも違う。中学生になったときに産まれた待望の次女だ。母は昼間、ウエイトレスのパートに出ている為、時間に融通のきく保育園に通っている。

居間では、今日お絵かきの時間に描いたアンパンマン？と思われる画用紙をしきりに母に説明している。

『マユ～、またカンパンマン描いたの？』
『違うもん、アンパンマンだもん！』

いやぃゃ、どっからどうみても四角形の顔だよ、コレ。しかもちょっと焦げ気味。
これをカンパンマンと言いたくなるのは私だけじゃないはず。

『お母さん？』
『……ん？なに？』
『なんか体調悪そうだね。大丈夫？』
『そう？いつもどおりだけど』

おかしい。なにかある。いつもは…
『あー、疲れた。ユキ、ご飯はあと任せた！』だの、『人の心配してる暇があるなら勉強しなさい！受験は早く勉強したもん勝ちなんだからっ。ったく、私が学生だった時なんかねぇ……』
と耳が痛くなる位におばさんお決まりの文句が永遠と続くわけなんだけど。

『なんかあったの？疲れきった顔してんね、ご飯私作ろうか？』
『あらぁ、珍しいね。でもほんと平気だよ？』

確かに珍しいけど。
私が以前作ったのは、お母さんがインフルエンザにかかった時と、旅行でいなかった２日間の３度しかない。
ただ、それだけ母のことがなんだか気にかかった。

父が帰ってきたのは普段と変わらず９時過ぎ頃。
脇に挟んでいる書類を、見た目以上に重そうに抱えてながら帰還してきた。
きっと大事なプロジェクトのものなんだろうな…。

最近になって一段と目立ってきたその白髪が父の現在の忙しさを物語ってる。

『マユただいま～！！』

２度目だ。今度はマユの顔を覗き込むように。
しかし可哀相なことに、嫌がられたのか小さな掌で顔面を押しやられる。
…私でもそうしてると頷いてやった。

私にかけられる次の言葉はわかっていたから、

『あ～、勉強でもしようかなぁ』

なんて嘘っぱちを放り投げて部屋に戻った。

［先生になるには？］
［国公立教員受験まるわかりデータ］
［第一種教員免許取得］
［教員採用試験過去５年間問題集］
……

ユキの机の上にはこの類の本がずらりと並ぶ。
将来の夢としてこれを選んだことには理由があった。